起業家・創業者向け補助金!制度の目的を理解して賢く活用する
国や自治体は積極的に創業・起業を支援しています。さまざまな支援事業が行われているなかで、補助金や助成金を獲得できれば資金面の問題をクリアでき、事業を軌道に乗せるための足がかりとなります。
創業・起業者向けの補助金は所管する省庁や実施機関、制度趣旨や目的ごとに資格要件や補助内容が異なるので、利用できる補助金制度を見つけることが先決です。
この記事では創業・起業者を対象とする補助金制度を幅広くご紹介するとともに、補助金を利用するにあたって気をつけるべき点について解説します。
1-1.補助金制度の趣旨や目的に沿うかどうか
1-2.後払いでの着金と支出時期に注意する
1-3.適正な事務処理が求められ会計検査院の検査が入る可能性もある
1-4.事業計画と実現可能性
2.経済産業省及び関係機関が実施主体となる補助金
2-1.研究開発型スタートアップ支援事業
2-2.「産業競争力強化法」に基づく補助金
2-3.その他
3.「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づく補助金
4.自治体が独自に行う創業関連の補助金
4-1.創業助成金(公益財団法人東京都中小企業振興公社)
4-2.大阪起業家グローイングアップ補助金(大阪府)
5.まとめ
補助金・助成金 / 他の資金調達手段との違い
国や地方公共団体を財源とし、一定の条件を満たした場合に給付されるものが補助金と助成金です。
補助金は予算や採択件数の規模があらかじめ決められており、申請に対して審査を行い給付を決定するものが該当します。創業関連では経済産業省が所管する支援制度が補助金の形をとっています。
それに対し、一定の要件を満たせば受給できるものが助成金であり、厚生労働省の雇用調整助成金(コロナ特例)などがその例です。
国や地方公共団体が行う創業者に向けた支援制度には、助成金や支援金といった名称がつけられているものもあります。
創業・起業のための資金調達手段として考える場合は、以下の点に注意する必要があります。
補助金制度の趣旨や目的に沿うかどうか
補助金や助成金はデットファイナンスのように返済の必要がなく、エクイティファイナンスのように会社の持ち分を毀損する必要もないという点が、資金調達手段としての大きなメリットです。
それぞれの補助金は、以下で示すように国や自治体の政策を実現するために使われるものであることから、その趣旨や目的にあった事業であることが求められます。その点から資金の使い道に制約が設けられることに加え、事務手続きにおいてチェックもなされるため、使い道の自由度という点では他の資金調達手段とは異なります。
後払いでの着金と支出時期に注意する
ほとんどの補助金は事業期間が設けられ、事業期間が終了した時点で給付されます。申請時点から補助金が着金するまでは、自己資金で事業を行う必要があり、運転資金などに利用できないことが他の資金調達手段との大きな違いです。
さらに、補助の対象となるのは事業期間内に支出した費用であり、補助対象の費用であったとしても事業期間外に支出した費用は給付を受けられません。
適正な事務処理が求められ会計検査院の検査が入る可能性もある
補助金を受給した場合、事業期間終了時点で補助金の趣旨・目的や補助の要件にあった費用に使われているかを証明する書類や報告書など、詳細な事務処理を求められます。補助対象となる費用も細かく指定される場合が多く、事務処理の面での不備や適正な使途から外れるようなことがあると検査が入る可能性もあるので注意が必要です。
事業計画と実現可能性
ほとんどの創業関連の補助金は、創業して行う事業の事業計画書を提出し、事業の将来性や制度の趣旨・目的に沿ったものであるかどうかが審査されます。採択されるためには、事業の実現可能性や収益性などの点でしっかりとした事業計画書を作成しなければなりません。
東京都の創業助成金のように都が実施する事業計画書策定支援と申請要件がセットとなっている場合や、ものづくり補助金で必要な認定支援機関の確認書など、事業計画を作る際には専門家の助言を得ることも大切です。
経済産業省及び関係機関が実施主体となる補助金
国のイノベーション政策を担うNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や中小企業政策の実施機関である中小企業基盤整備機構を所管する経済産業省は、創業・起業者を対象とする支援事業を数多く実施しています。
産業政策全般に関わる省庁であることから、創業者・起業者向けの補助金は種類も多く、内容も充実しています。
研究開発型スタートアップ支援事業
当事業は2013年に閣議決定された「日本再興戦略」に端を発する、国がイノベーション創出を後押しする制度です。AIやロボティクス、創薬など専門性の高い技術シーズを対象とし、主に、大学や研究機関の技術シーズを研究開発型のスタートアップにつなげることを目的としています。
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援事業の実施機関として中心的役割を果たす事業です。
若手研究者と研究開発型スタートアップのマッチングやビジネスプラン作成のための研修、実用化開発費の支援など、いくつかの制度が設けられ、それぞれに年度ごと、または、年に複数回、公募が行われています。
支援事業のなかで補助金を給付するものは以下の制度があり、給付額も数千万円から数億円と大規模な支援であることが研究開発型スタートアップ支援事業の特徴です。
⑫NEDO Entrepreneurs Program(NEP)
<起業家候補人材を補助金で支援>
※これから起業をする方が対象
出典:「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」
具体的な技術シーズを活用した事業構想を持つ起業家を支援するプログラムです。カタライザーと呼ぶ専門家によるハンズオンの支援とともに、事業化に向けた研究開発や実証のための活動に補助金が付けられます。
公募、審査を経て、以下の条件をクリアすることが条件です。
条件1:担当事業カタライザーの決定 条件2:運営管理法人と経理業務等に関する委託契約を締結 条件3:法人設立
上記の条件により、補助金の給付額はタイプA、タイプBの2つに分けられます。
条件1 + 条件2 → タイプA[個人][法人] → 上限500万円 条件1 + 条件3 → タイプB → 上限3,000万円
2018年度から年1〜2回の公募が実施されています。
⑬Seed-stage Technology-based Startups(STS)
<VCと連携したスタートアップによる研究開発を補助金で支援>
※シード期のスタートアップが対象
出典:「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」
NEDOがベンチャーキャピタル(VC)やシード・アクセラレーターを認定し、そのVC等が出資するシード期の研究開発型スタートアップに活動費の助成を行うものです。
支援内容:上限7,000万円 or 2億円(事業経費の2/3以内)
2015年度から年2~3回の公募が行われています。
⑮SBIR(Small Business Innovation Reserch)推進プログラム
<政府のニーズに取り組むスタートアップ・中小企業を支援>
※シード、アーリー、ミドル、レイター期のスタートアップが対象
出典:「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」
内閣府が指定する社会課題の解決を目指す研究開発型スタートアップを公募し、研究開発の初期段階と実用化開発の2つのフェーズに分けて選抜を行い、それぞれのフェーズに補助金を給付するものです。
フェーズ1:概念実証(PoC)、実現可能性調査(F/S)→ 1,500万円 フェーズ2:実用化研究開発 → NEDO助成率2/3、5,000万円以内
2021年度、2022年度に年1回の公募が行われています。
⑯Product Commercialization Alliance(PCA)
<事業会社等と連携するスタートアップによる研究開発を補助金で支援>
※アーリー、ミドル期のスタートアップが対象
出典:「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧~」
事業会社や研究機関と連携し、概ね3年を目処に継続的な売上を立てる具体的な計画を持つ研究開発型スタートアップの事業化に関わる経費を助成するものです。
経産省が所管する技術分野であること、具体的な技術シーズと研究開発要素があること、競争力強化のためのイノベーションを創出するものであることが条件となっています。
助成額:原則2.5億円まで(補助率 助成対象費用の2/3以下)
2020年度から年1回の公募が行われています。
「産業競争力強化法」に基づく補助金
2013年、成長戦略「アベノミクス」の具体的な施策として、規制改革やベンチャー投資・事業再編の活性化、中小企業の創業・事業再生支援の措置等が定められました。以降、2018年と2021年に改正が行われ、規制改革の推進、リスクマネー供給支援、創業・ベンチャーの成長支援、事業再編の推進・事業再生の円滑化などが具体的な措置として盛り込まれています。
同法に含まれていた中小企業の生産性向上のための措置は中小企業経営強化法に移管され、ものづくり補助金と小規模事業者持続化補助金、IT補助金、事業承継・引き継ぎ補助金をあわせた中小企業生産性革命推進事業として継続されています。
これらの補助金は対象者やスキームが創業・起業者に向けたものではありませんが、2022年「産業競争力強化法における市区町村による創業支援/創業機運醸成のガイドライン」のなかで、ものづくり補助金と小規模事業者持続化補助金が創業支援のための具体的な取り組みとしてあげられており、創業間もない会社でも利用することが可能です。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
中小ものづくり高度化法などにもとづき2009年に開始された「ものづくり補助金」は、中小企業が試作品開発や新製品開発、設備投資などを行う際にその費用を助成する補助金です。
2009~2014年までの補助対象企業は累計で30,000社、現在の形となり2019年4月に1次公募が開始されてから2022年5月時点で11次の公募が行われ、1〜9次までの交付決定数は19,341件と、多くの中小企業に利用されています。
採択の審査では、「創業、第二創業間もない事業者(創業から5年以内)」が加点項目とされ、起業したばかりの会社は審査の面で優遇されています。
補助金の概要は以下のとおりです。
出典:中小企業基盤整備機構(「ものづくり・商業・サービス補助金」がさらに使いやすくなりました)
公募要件としては、革新的サービスの開発、試作品開発、生産プロセス改善のための設備投資が助成の対象です。付加価値額、給与支給総額、最低賃金それぞれを3〜5年内に一定率/金額の向上を目指す事業計画を策定することが求められます。
行政サービスの共通認証システムgBIZ IDを取得して申請を行います。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者(従業員数 5人以下/商業・サービス業、20人以下/それ以外の業種)を対象とし、商工会・商工会議所の支援を受けて経営計画を策定、販路開拓などへの取り組みを助成する補助金制度です。2014年に最初の公募が行われ、以降、災害枠やコロナ対応枠などセーフティネットとしても機動的な運用がなされてきました。
2020年以降は数ヶ月ごとに公募が行われ、2022年6月時点では第9回受付が行われています。
補助金の概要は以下のとおりです。
出典:中小企業基盤整備機構(「小規模事業者持続化補助金」が使いやすくなりました)
通常枠は補助上限が50万円ですが、創業枠の条件を満たせば、上限額が200万円まで引き上げられます。創業枠の条件は以下のように定められています。
条件 1 ①申請時点で開業していること ②産業競争力強化法に基づく認定連携創業支援等事業者が実施した「特定創業支援事業」を過去3か年の間に受け、かつ、過去3か年の間に開業していること ※認定連携創業支援等事業者は自治体の創業支援機関や地域金融機関、大学、民間インキュベーション施設、中小企業診断士などの認定支援機関を指し、それらが主催する創業支援事業が特定創業支援事業です。 条件 2 法人設立日、開業日が2020年1月1日以降である会社および個人事業主は「現在事項全部証明書または履歴事項全部証明書」または「開業届」が必要
IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
IT導入補助金は、ITツールに限定して導入経費の一部を補助することで、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援することを目的とする制度です。
中小企業・小規模事業者がITツール購入費用の助成を受けるだけにとどまらず、ITツールのベンダーやサービス事業者を「IT導入支援事業者」として登録し、補助事業者に対する導入・運用のサポートと補助金に関わる申請や実績報告等の管理業務も行うことが義務付けられています。
IT導入補助金の補助対象の区分は以下の表に示された、「A類型」「B類型」「デジタル化基盤導入類型」の3つに加え、10者以上の事業者が連携して活用するIT基盤や消費者行動分析システム等の導入費用を対象した「複数社連携IT導入類型」があります。
出典:一般社団法人サービスデザイン推進協議会(IT導入補助金2022 事業概要)
A類型、B類型で補助対象となる経費は、ソフトウェア購入費、クラウド利用料とされており、以下のようなプロセスを効率化するものという指定があります。
顧客対応・販売支援 決済・債権債務・資金回収管理 調達・供給・在庫・物流 会計・財務・経営 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情報システム 業種固有 汎用・自動化・分析ツール
デジタル化基盤導入類型は、ソフトウェア、クラウドサービスに接続して使用するハードウェアも補助対象とするもので、会計・受発注・決済・ECのうち1~2以上の機能を有するシステムであることが要件とされています。
その他
ここまでご紹介したもの以外の経済産業省が所管する創業支援のための補助金制度として「福島県創業補助金」「出向起業補助金」があります。
福島県創業補助金
福島県原子力被災12市町村内で創業者、事業展開を行う事業者を支援するための補助金です。土地・建物・設備購入費なども含めた事業費全体が支援の対象です。
補助上限:2,250万円(補助率3/4)
公募開始日から遡って5年以内に創業していること、または、これから創業する方が対象です。2022年は5月と10月の2回公募が行われます。
出向起業補助金
大企業等に所属する人材が外部資金を調達して起業する「出向起業」を支援するための補助金制度です。新しい会社を立ち上げた人材がそのまま独立する、あるいは、所属企業が新会社を買収するといったオプションがあります。
また、大企業の子会社をマネジメントバイアウトして独立したスタートアップに組み替える場合も支援の対象となります。
補助上限:500~2,000万円(補助率1/2または3/4)
2022年度は2回公募が行われます。
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づく補助金
少子高齢化とそれに伴う地方の担い手不足に歯止めをかけるための対策を講じることを目的とする「まち・ひと・しごと創生総合戦略」のなかで、地方創生移住支援事業・地方創生起業支援事業が実施されています。
地方自治体が行う地方への移住・起業、女性・高齢者の就業支援を目的とする事業に対し、地方創生推進交付金が交付され、地方で起業するUIJターン希望者は起業支援金の給付をうけることができます。
出典:内閣府地方創生推進事務局(地方創生推進交付金(移住・起業・就業タイプ)の交付対象事業の決定(令和4年度第1回)について)
2022年度は41の都道府県が「地方創生起業支援事業」を行っており、これらの都道府県に東京圏から移住して起業する場合には、移住支援金と起業支援金をあわせて最大300万円が助成されます。
支援金を給付する事業主体は各都道府県であり支援事業の名称も自治体ごとに異なるため、各都道府県の申請窓口で支援の内容を確認することが必要です。
自治体が独自に行う創業関連の補助金
産業基盤と財源を持つ自治体では、国の政策によらず独自の創業支援施策を行っています。開業地や創業者の居住地が当該の自治体内であることや、地域の産業資源を活用することなどが条件とされることが特徴です。
創業助成金(公益財団法人東京都中小企業振興公社)
東京都中小企業振興公社が運営主体となる助成金制度です。個人事業主・法人ともに申請でき、5年以上の経営経験があること、東京都の創業支援事業を利用していることなどが対象要件とされています。年に2回、公募を行っています。
助成限度額:300万円(下限100万円、助成率2/3以内)
大阪起業家グローイングアップ補助金(大阪府)
大阪府内の事業者、大阪府内での起業者を対象とする補助金制度です。公益財団法人大阪産業局が実施するビジネスプランコンテストで選抜・審査を行い受賞者に補助金が給付されます。申請時点で開業していない場合は1年以内に開業することが条件となります。年1回の公募です。
補助金限度額:50万円または100万円(助成率1/2以内)
まとめ
ひとくちに創業・起業といっても、スモールビジネスからイノベーションに結びつく革新性の高いもの、地方創生・地域振興を目的とするものなど、さまざまな形があります。
創業・起業時に利用できる補助金制度も、それぞれに制度の趣旨や目的を持っており、給付額の規模や助成費用の内容などが異なります。
創業・起業時に補助金の活用を検討する場合には、広く情報を集めて条件の合う補助金を探すことが最初のステップです。
資金調達手段としては制約も大きいことを認識した上で、関連する補助金以外の支援事業もあわせて活用することが有効です。