今だからこそ、オフィスレイアウトを見直そう。働き方にあわせたオフィスづくりとは?
様々な企業でハイブリッドワークが検討・採用されていますが、それに伴い固定席を減らし、面積減による賃料削減を図ることや、社員間の交流を活発化させるためのスペースを導入するなどの動きが生じています。
総務専門誌『月刊総務』を発行する株式会社月刊総務が全国の総務担当者212名に行ったアンケートによると、新型コロナによる働き方の変化に際して「オフィスの見直し」を行った企業は約7割にのぼりました。またオフィスの見直しのうち「レイアウトの変更」を行った企業は8割となり、コロナ禍において最適なオフィスレイアウトを検討していることが見られます。
オフィスの家具什器が使用されていないことや、Web会議やオンラインミーティングが当たり前になったことによる会議室不足など、オフィス空間では今までになかった課題が発生しています。従来のオフィスでは働き方とマッチしていないことが表面化する中、オフィスレイアウトの変化は今後の企業活動にどのような影響、メリットをもたらすのか本記事で解説します。
1-1.オフィスレイアウトを変えるメリット
1-2.オフィスレイアウトのよくある失敗例は?
2.仕事の効率を上げる!スペースで考える生産性の高いオフィスレイアウトのパターン
2-1.防音性の高い空間でオンライン商談
2-2.周囲を気にせず個人ワークに集中
2-3.数人でディスカッション、リラックスして会話
2-4.あらゆるワークスペースを配置するオフィスレイアウト
2-5.狭いオフィス・少人数オフィスに求められるオフィスレイアウト
3.オフィスレイアウトの考え方・進め方
3-1.STEP1:オフィスレイアウトの目的・コンセプトを定める
3-2.STEP2:ゾーニング・動線・寸法計画を行う
3-3.STEP3:オフィスレイアウトを図面化する
3-4.STEP4:法令を踏まえたオフィスレイアウトかどうかチェックする
3-5.STEP5:オフィス家具の選定
4.オフィスレイアウトを成功させるコツ
4-1.達成したい目的を明確にする
4-2.運用方法の変更は柔軟に行う
4-3.時々に応じた最も働きやすいオフィスレイアウトへ
5.まとめ
働きやすいオフィスレイアウトとは?
働き方やオフィスの在り方について抜本的に見直しを図っていきたい企業にとって、働きやすいオフィスレイアウトとはどのようなものでしょうか?それは次の要素に集約されると考えられます。
- 働く社員が快適と感じ、かつ生産性を向上させる(=業務に合った空間設計がされた)レイアウト
そのためにはまずオフィスの大きさにあった(ゾーニング計画、導線設計、寸法計画がしっかり計算された)適切なレイアウトは前提のもと、「こういうレイアウトにしたら、もっと従業員が動きやすいのではないか」「コミュニケーションを活発にするには、こういうレイアウトが有効かもしれない」と仮説を立てて検証すること、また状況に応じた会社の課題に対し、柔軟に変更ができるようになっているレイアウトが重要と考えられます。
オフィスレイアウトを変えるメリット
またオフィスレイアウトを考えることは、企業戦略のひとつと位置付けることができます。
例えばフリーアドレスとするかどうか、会議室あるいは共用スペースの比重によって、自社が理想とする働き方・コミュニケーションスタイルを社内外に対し表現することができるためです。オフィスは企業の顔とも言われるように、オフィスレイアウトのありようは「視覚的に働き方を象徴するもの」とも言えるかもしれません。
同時にオフィスは業務を行う場所として機能的であるべきです。例えばオフィスエントランスは外部の人間を招き入れ、自社の魅力やコンセプトを伝える上で効果的に機能する場ですが、業務をメインに行うスペースでは「第三者に見られるための空間づくり」は意識しつつも、オフィスにいる従業員が働きやすいように、照明の明るさを調整したり、作業に応じたスペースを作るなど、生産性の向上を目的とした空間設計が優先されます。
したがって「魅せるオフィス」を作りつつも「働きやすいオフィス」を両立させるためのオフィスレイアウトを考える必要があるのです。企業戦略に紐づく自社らしさと業務の生産性を考えた空間を設計した先に「働きやすい」と実感できるオフィスがあると言えます。
つまりオフィスのレイアウトを変えることで、
- 自社のアイデンティティー強化(自社らしい働き方の実現、コミュニケーションスタイルの確立など)
- 生産性向上(業務に合った空間設計)
を戦略的に実現できることが、オフィスレイアウトの持つメリットとなります。
そして適切なオフィスレイアウトに変えることは以下のような具体的な効果が期待できます。
- 人と人との距離、視線、動線などを再構築できるため、社員の心理的負担を軽くできる
- 社員の不満・ニーズを汲み、改善する機会となる
働く人のメンタルヘルスは重要な課題とされています。人と人との距離、視線の位置や動線などは、そのありようによっては心理的負担を軽くし、職場のメンタルヘルスの改善に役立つことが分かっています。
業務中の社員同士の席が近すぎる場合や、業務に必要なコピー機・書庫から遠い距離に席が配置されている等、レイアウトの不具合が、じわじわと社員のネガティブな感情を生んでしまうこともあります。業務内容によって座席感覚を調整したり、使用頻度の高い人が機器の近くに座れるようにするなどオフィスレイアウトを工夫することでも、社員の労働環境を改善することができます。
人事や総務の担当者にとっても、企業戦略として評価される・組織構築に思い切った手を打てる機会として腕の見せ所といえるかもしれません。
オフィスレイアウトのよくある失敗例は?
企業戦略のひとつと位置付けるオフィスレイアウトは、会社のビジョンや戦略とマッチしていなければなりません。「なぜビジョンや戦略と関連したオフィスレイアウトが必要なのか」「オフィスレイアウトがマッチしていない場合、会社のビジョンや戦略を実現する上でどのような懸念があるのか」について、じっくり検討してみましょう。
まずビジョン・戦略との関連性が明確でなければ、大きな投資を行う経営層と、オフィスのユーザーである社員との考え方や期待に差異が生まれ、双方から不満が出る状態となり、結果的に短期間でレイアウトを大きく変えざるを得なくなったりと、コストがさらに膨らむ可能性があります。
また社員のニーズとマッチしていないことにより、オフィスレイアウトを変えることで得られる社員のモチベーションの向上や、心理的な負担の軽減といったメリットが出にくくなり、その結果「コストや時間をかけて変えたのに失敗」となることが懸念されます。
ビジョン・戦略との不一致
会社のビジョンや戦略は、オフィスレイアウトを行う上でコンセプトを決める基礎となります。一方でビジョン・戦略から考える「あるべきオフィス」と、業務の実情は必ずしも一致しないのが現実であり、ビジョン・戦略との不一致は解消する必要があります。
「なぜオフィスレイアウトを行う前にビジョンや戦略を考え、一致させる必要があるのか」については、次のような具体的な失敗例を考えるとわかりやすくなります。
- フリーアドレスへの不満
働き方の柔軟さを実現するためにフリーアドレスを導入しても、フリーアドレスに合った業務が少なかった場合、ビジョンと実業務でニーズの不一致が発生してしまい、従業員側の不満へと繋がるケースがあります。
フリーアドレスにあった職場とは一般的に、PCまたはオンラインで完結しやすい仕事や、リモートワークでも完結しやすい仕事など、オフィス外でも仕事ができる従業員が多い職場とされています。これに対して、特定の端末やデスクトップパソコンを使った業務が必要であったり、特別な工具が必要であったりと「その場所でないと業務に支障が出る仕事」にはあまり向いていません。
「さまざまな他企業が取り入れているから」といった理由で、自社の業務スタイルとの相性が悪いフリーアドレスを採用すると、次第に社員の業務生産性が低下したり、エンゲージメントの低下を招いたりする可能性があります。
- オフィスのスペースが足りなくなった
オフィスレイアウトと人員・スペースの不均衡も生じがちな失敗です。その時点では仕事をしやすいレイアウトではあっても、人員計画からするとすぐに限界が来ることもあります。
人員が増えていく会社の将来を見通してレイアウトを行うことが理想ではありますが、ビジョンや数年先の事業計画との整合性を見越したオフィスレイアウト計画を実施できる企業はまずないため、その時々で常に最適なオフィスレイアウトへ更新していく必要があります。
社員ニーズとの不一致
オフィスレイアウトにおける社員ニーズとは、例えば以下のものが挙げられます。
- 周りを気にせず個人が集中して作業できるスペースが欲しい
- カフェスタイルで何気ない会話ができるスペースが欲しい
- 共同作業を進めやすいレイアウトにして欲しい
アンケートではこういった様々なニーズがある一方、オフィスレイアウトは、会社の戦略と社員のニーズ双方を考えて行うものです。
人事総務担当者が、社員のニーズすべてを満たそうとすると、長期的な戦略に基づいたオフィスレイアウトの目的に適合しなくなることもあります。逆に社員のニーズをあまり無視すると、働く人のやる気や、職場への満足度が落ちてしまう恐れもあります。
そこで双方が満たされ相互作用が生まれるよう、社員のニーズは、会社の長期的な戦略に立った基本コンセプトを補強する裏付け材料として使い、ビジョンや戦略に合わせて吸い上げることをおすすめします。
仕事の効率を上げる!スペースで考える生産性の高いオフィスレイアウトのパターン
ここからはオフィスレイアウトを運用方法そしてスペースの観点から見ていきます。
オフィスレイアウトの運用方法には、次のような基本のパターンがあります。
- 固定席
固定席は、多くの日本企業で一般的に採用されているレイアウトパターンです。事務職・技術職など、職種を問わず利用されてきました。会議室など、多人数でディスカッションできるスペースと通常併用しています。パーティションがある固定席は、ブース型、あるいは欧米ではキューブ・キュービクルなどとも呼ばれ、黙々と1人で作業を進めるのに適した場所です。
- グループアドレス・フリーアドレス
業務を行うグループごとに席指定を行うグループアドレスや、固定席を持たないフリーアドレスは、IT企業などに多く見られるものです。個別のデスクがなく、空いている席を自由に選んで業務をするオフィススタイルのため、導入の目的が明確であれば様々な用途で利用できオフィス面積の圧縮にも繋がるため採用する企業も増えています。
- ABW(Activity Based Workspace)
ABWは、プロジェクト単位で動く職種(コンサルタントなど)やエンジニアに特によく見られます。目的に応じた場所で働くという意味ではフリーアドレスに似たレイアウトパターンですが、カフェやサテライトオフィス、自宅など、オフィス以外のどんな場所でも働けるという違いがあります。
これらのレイアウトパターンを組み合わせることにより、業務内容や理想の働き方に沿ったオフィスレイアウトを構築していくことがポイントとなります。どんな組み合わせも会社の課題に対応していることが重要です。
防音性の高い空間でオンライン商談
業務内容や理想の働き方に沿ったオフィスレイアウトを構築していく上で昨今の大きな変化といえば、コロナ禍において「商談をオンラインで行うことが増えた」という点でしょう。
ところが従来のオフィスでは、オンライン会議を行う環境として適した「防音性が高い」「他の雑音をマイクが拾わない」状態を実現することが難しいという課題が生じました。そこで、防音性の高い空間を作るレイアウトの工夫が必要になったのです。
オンライン商談は、雑音の入らないスペースで行うことが効率的です。そこで執務スペースに、フォンブースなどの「個室ブース」を併用することで、「集中して作業を行う社員」と「オンライン商談を行う社員」双方の快適性を実現することが昨今の大きなニーズとなっています。
周囲を気にせず個人ワークに集中
また集中したい時はオンライン商談に限らず、プログラミングや経理業務で慎重な作業をする場合なども同様です。個人ワークに集中できるブースなどのスペースを共有スペースから少し離れたところに別途置く例も増えています。
オンライン商談向けスペースは周囲の音を遮断できる防音空間とし、パーティションを付けた簡易ブースや個人ブースなど音や視線の影響を受けにくい空間を設置することで、用途に応じてスペースを使い分ける例もあります。
数人でディスカッション、リラックスして会話
オンラインでの業務・会議が多くなり、対面でのコミュニケーションがないことにストレスを感じている人もいます。社員のメンタル面をサポートすることは、重要な経営課題の一つです。
そこで出社時には気軽に相談や雑談ができるようにするなど、コミュニケーションしやすいレイアウトにしておくことも一つのサポート方法です。出社時には数人でカジュアルにディスカッションできるオープンスペースを設け、オフラインでのコミュニケーションを取り入れるとよいでしょう。
あらゆるワークスペースを配置するオフィスレイアウト
いくつかスペース例を見てきましたが、企業によって業務の内容そして働き方は常に変化するため「一つのレイアウトパターンに決めたい」と思ってもなかなか難しいのが実情です。
「ひとつのスペースを基本に据えることができない」「業務が多彩である」といった悩みを抱えた場合は、変化に対応することを課題と捉え、レイアウトを変えられることを前提にすること、ワークスペースは多種多様なものとすること、をコンセプトにするのも一案です。
狭いオフィス・少人数オフィスに求められるオフィスレイアウト
テレワークの進展や、サテライトオフィスの普及など、オフィスを取り巻く環境の変化が大きく、オフィスをそもそも設置することにどれだけの意味があるのか、問い直すことが課題となっている企業もあります。
自社にマッチしたオフィスの在り方を考えていく上で、コアとなるオフィスを小さく作り直す必要がある場合などは、まず「オフィスで行うこと・行いたいこと」を明確にするところからオフィスレイアウトを考えましょう。
例えばオフィスについては、対面のディスカッションが業務上必要な時だけ使う場所であることを前提にし、少ない面積かつ必要最低限のオフィス家具・什器でシンプルなレイアウトにすれば、より自社事業への投資にリソースを振り分けることができます。
同時にその後のオフィス家具や什器が増える、または減ることを想定したオフィス家具導入方法を検討できればより効果的です。
オフィスレイアウトの考え方・進め方
オフィスレイアウトの考え方・進め方はおよそ以下の5つに分類できます。
- STEP1:コンセプトを決める
- STEP2:ゾーニング・動線・寸法計画を行う
- STEP3:図面化を行う
- STEP4:法令に従ったチェックを行う
- STEP5:オフィス家具の選定を行う
これらのステップにはそれぞれ注意点がありますので以下で解説していきます。
STEP1:オフィスレイアウトの目的・コンセプトを定める
オフィスレイアウトの変更は費用が掛かり、工数もかかります。ゆえに費用と手間を上回るメリットが享受できるよう、オフィスレイアウトの目的・コンセプトを明確に定める必要があります。
具体的には「コミュニケーションの活性化を促進するオフィス」「柔軟な働き方を実現できるオフィス」など、まず今後の会社のビジョン・戦略に沿ったレイアウトの目的・コンセプトがそれにあたります。そこから実行されるオフィスレイアウトは、ビジョンや戦略を実現する手段として位置づけられるものになります。
こうした会社の「なりたい姿」を実現するのがオフィスレイアウトであるため、会社の重要な経営課題としてプロジェクト化することも少なくありません。しかし大切なことは、プロジェクトチーム内の意見だけで完結してしまわないことです。
オフィスレイアウトの変更は会社のビジョン・戦略を実現する手段であると同時に、社員の働きやすさを実現する手段でもあります。一番のユーザーである従業員から働きづらいと不評が出ることがないよう、ヒアリングを重ねつつ社員ニーズを疎かにせず、プロジェクトを進めていきましょう。
STEP2:ゾーニング・動線・寸法計画を行う
STEP1で決めたコンセプトを実現するのがゾーニング・動線・寸法の計画です。
まず大まかにどこのゾーンに何を配置するのか、スペースの性質と配分を決定します。
どのゾーンにどんなレイアウトを基本として席を置くか、オープンスペースはどのような運用を想定してどのゾーンにするかなど、ビルの構造なども考えながら、ゾーンを決めていきます。これがゾーニングと呼ばれる作業です。
次に、家具と人の配置を決めていきます。机・椅子・収納スペース・メールボックスなど、オフィスに必要な家具を大まかに配置します。そして配置した家具に対し、人がどのように動くのか、動線をシミュレーションしながら検証し、大きな不具合や、生産性の低下が懸念される箇所の修正を行います。
そしてスペースの寸法と、モデルとなる家具の寸法を確認し、配置を細かく決めていきます。不具合があれば、寸法や、家具の個数を調整します。
主にこれらのフェーズで活躍するのはオフィス設計および、デザイナーなどの専門業者です。専門業者であれば基本的に、経験値からできること・できないことをよく理解していますので、まずはオフィスレイアウト変更の目的とコンセプトを明確に共有しましょう。
なぜなら家具やパーティションの設置など、業務に沿ったスペースの配置は「目的・手段」の関係から導き出されるものであり、全くの白紙から実現するものではないためです。
コンセプトに沿ったオフィスレイアウトを実現するため、関係者の意見や希望をヒアリングしつつ、よりよい配置を提案したり寸法の調整を行ったりと、親身になって伴走してくれる専門業者を起用することをおすすめします。
STEP3:オフィスレイアウトを図面化する
オフィスレイアウトを図面化することは、その後のレイアウト作業のルールブックを作る意味があります。家具の最終選定・引っ越し業者など、関係者への作業の指示・各社員の荷物移動や席替えなどのガイダンスなど、図面を基礎に行われますので大事な工程です。
図面化することはオフィス設計・デザインの専門業者で行いますが、総務の担当者やオフィスレイアウトのプロジェクトメンバーを中心に、各部署の関係者にも図面を見てもらい、間違いや不具合はもちろん、目的に沿った内容になっているかどうか社内で差異がないか確認を進めましょう。
STEP4:法令を踏まえたオフィスレイアウトかどうかチェックする
法令に準拠し、安全なオフィスレイアウトであるかどうかのチェックも重要です。関連する法令には、消防法・建築基準法・労働安全衛生法があります。次のような点に留意することがポイントです。
消防法による「個室」の防火措置・・・消防法では、天井まで届くパーティションをつけると、個室扱いとなります。個室には熱感知器や非常灯、防火スプリンクラーの設置などが必要になり、消防署への届け出が必要になります。
建築基準法による非常時の避難経路確保・・・建築基準法で、廊下の両側に部屋がある場合は160cm、廊下の片側に部屋があれば120cmの廊下の幅が必要です。
労働安全衛生法による明るさの確保・・・労働安全衛生法の事務所則では、照明器具の明るさが精密作業では300ルクス・普通作業で150ルクス以上必要となることや、労働者一人当たり、10立法メートルのスペースが必要とされるなどの基準が規定されています。
加えて、昨今の情勢では、感染症対策も重要な課題の一つです。ソーシャルディスタンスを保つことができるレイアウトか、通気性が十分確保できるレイアウトか、チェックが必要です。
人事総務担当者、特に安全衛生管理者となっている社員がリードし、これらの法令遵守・社員の安全確保の観点からのチェック項目を満たしているかどうかを確認します。
STEP5:オフィス家具の選定
STEP3の図面化のタイミングと同時に行うことも多いため注意したい点として、ゾーニング・図面化を経て目的に沿ったスペースが定まった際には、そのスペースの目的とズレがないオフィス家具の選定が必要、ということがあります。
というのも、執務に集中するためのデスクとチェアが配置されたブース席や、コミュニケーションを促進したいためのソファ席など、図面上で選定されたオフィス家具たちの「イメージ上の使用感」と「リアルの使用感」にズレが生じる可能性があるためです。
例えば、図面上では空間とマッチした色味や素材感そして使用感がイメージできたチェアでも、実際に使用し始めてから「集中スペースにあるチェアだから長時間座りたいのに、腰が痛くて座っていられない」「クライアントとのミーティングでよく使用するチェアなのに汚れが目立ちやすい」などということは多々あります。
この状態を回避するために、ショールームなどで事前に家具を体験するということは有効です。しかしあくまで体験された方の感想に留まってしまうことで「集中作業用として導入されたボックス席だけど、想像してたより周りの声や視線が気になる」という個人差が大きい使用感を事前にクリアにしておくことは難しいでしょう。
そのような課題に対し、オフィス家具の導入においてレンタルやサブスクという選択肢は一つの解決策になり得ます。なぜなら、使い心地が悪かった場合に「やり直せる」からです。また最新の家具に柔軟に交換が出来たり、廃棄コストが抑えられる点は、昨今のオフィス環境の急激な変化にも対応できる手段として有効です。
オフィスレイアウトを成功させるコツ
どれだけ準備をしてもオフィスレイアウトの変更は、すべてうまく行くとは限りません。働き方・業務内容は常に変化する一方、他社の最新の環境の方がより良く見えるなど、様々な要因で想定していなかった課題が見えてくることもあります。
そのようなオフィス環境・業務の変化に対応し、オフィスレイアウトを変更した際のメリットとして引き出す成功のコツは、以下のような点にまとめることができます。
達成したい目的を明確にする
一般的にオフィスレイアウトの変更は頻繁に行われることはなく、自社内でお手本にすべき先例を踏襲できることも少ないことから担当者やプロジェクトメンバーが手探りで進めていく場合が多いです。また昨今ではオフィスを取り巻く環境の変化が早いことも重なり、当初計画していた目的からズレたオフィスレイアウトが出来上がることは決して珍しくありません。
例えば、新しいレイアウトに関して社員にヒアリングを行った場合「ここも、あそこも変えた方がいい」と、数多の意見が出てくることでしょう。配置するスペースやオフィスの運用次第で全てを反映させることも可能ですが、目的やコンセプトに合わない変更を多く反映した結果、当初のオフィスレイアウトの目的の実現が困難になった、では本末転倒です。
社員の声に耳を傾け、ニーズを汲み取ることは重要です。むしろプロジェクトの内容にも厚みが生まれますし、社員ニーズ自体は問題ありません。しかし、それが目的・コンセプトにあった変更なのかは改めて考える必要があります。
意見を取り入れ、より便利にするのと同じように、会社のビジョンや戦略と変更内容がマッチしているのか照らし合わせ、双方を達成するためにブレずに進める必要があるのです。
「何のためにオフィスレイアウトを変えようとしたのか」に立ち戻り、「オフィスレイアウトを変更することで何を達成したいのか」の実現に沿っているのか常にチェックしながら進めましょう。
運用方法の変更は柔軟に行う
目的を明確にしていても、オフィスレイアウトの変更はプロジェクトの始まりから終わりまで、手間と工数がかかります。ゆえにやっとの思いで業務を開始できるところまで至ると、オフィスの見栄えが刷新されたことも相まって、つい満足しがちです。しかし事業の成長と同じように、オフィスレイアウトは一度作り上げれば終わり、ではありません。
記憶に新しいコロナ禍による働き方の変化や、社員数の増減、事業フェーズの変化によっても求められるオフィスの役割は変わってくるため、オフィスレイアウトの変更後にも継続してアップデートすること、つまり「新しいレイアウトをどのように運用していくか」が、達成したい目的やコンセプトを実現できるかどうかのカギを握ります。
スペース面でいえば、空間に余裕がある場合はコミュニケーションスペースや個室スペースを増設できるようにしておくことや、フリーアドレスやABWの実施を見越し、事業部・グループごとのゾーン二ングの変更を後から可能にするオフィスレイアウトにしておくことで、外部環境や働き方の変化などでオフィスのあり方が変わっても、柔軟に対応できるオフィスが実現できます。
そもそも、どれだけ目的やコンセプトを明確に反映したオフィスレイアウトがその瞬間出来上がったとしても、将来を見通した完璧なオフィスレイアウト計画を実施することは難しいでしょう。そのため、その時々で最適化されたオフィスレイアウトへ柔軟に変更できる体制や仕組みをあらかじめ想定し作っておくことが大切です。今後発生するであろう社員や経営者のレイアウトに関する課題にも対処しやすくなります。
具体的な一例として、レイアウト変更の度に家具を都度購入することになると、導入費など分かりやすいコストの他に廃棄・メンテナンスなどの見えづらいコストも大きく、柔軟なレイアウト変更も実行しにくくなる面があることは否めません。オフィス家具を購入することにより柔軟さを持たせにくいことが問題になるのであれば、オフィス家具のレンタルやサブスクを選択することは、これらの課題に対して一つの解決策に成り得ます。
時々に応じた最も働きやすいオフィスレイアウトへ
働き方や業務内容は常に変わっていくことから、働きやすいオフィスレイアウトは時代と共にその定義が変わっていきます。そのため一度思い切ったオフィスレイアウトを実施した後でも、オフィスレイアウトを試しながら柔軟に変化させることが重要です。
会社では人員の数・構成が変化し、働き方も変化します。コロナ前は浸透が難しいと考えられていた「リモートワーク」も、かつてより浸透しました。
これらの変化を考えると、現在の最適なレイアウトが「3年後・5年後も最適であり続ける」ということは考えにくいでしょう。
後から変更できるスペースを確保し、柔軟性のあるレイアウトにすることや、オフィス家具を購入以外のレンタル・サブスクで調達するなどの工夫により、「時々に応じた最も働きやすいオフィスレイアウト」が実現しやすくなります。
まとめ
オフィスレイアウトを失敗させないためには、仮説を立てて検証することが重要です。とはいえ十分に計画を練っても思うような成果が得られないこともあります。総務担当者はこうしたオフィスレイアウトの「万全な準備をしても失敗する可能性がある点」を忘れず、継続的にレイアウトパターンを変えられるような体制構築も同時に進めていく必要があるでしょう。