創業融資は起業時の強い味方!おすすめの制度と活用方法を解説
創業時の資金を確保する手段の1つに「創業融資」があります。創業融資にはいくつかの種類がありますが、どの制度を利用するにも基本的には一定以上の自己資金が必要です。
その根拠となるデータが、中小企業庁が公開している2017年度版「中小企業白書」に掲載されています。この資料によると、安定成長型の企業(中長期かつ安定的な拡大を目指す企業)が創業期に利用したかった資金調達方法は、1位が「民間金融機関からの借入れ」(45.3%)、2位が「政府系金融機関からの借入れ」(41.3%)でした。
しかし実際に利用した資金調達方法は1位が「経営者本人の自己資金」(82.3%)であり、「民間金融機関からの借入れ」は39.3%、「政府系金融機関からの借入れ」は28.2%にとどまります。
民間・公的機関を問わず、創業のタイミングで融資を受けるためには、日常的な行動の積み重ねで信頼を獲得することが重要です。資金調達の方法は企業の成長段階に応じて変わります。本記事では、創業のタイミングで融資を受ける場合の方法とそれぞれの特徴、そして活用できる融資制度のうち代表的なものをピックアップして紹介します。
1-1.日本政策金融公庫から融資を受ける
1-2.地方自治体の制度融資を利用する
1-3.民間の金融機関から融資を受ける
1-4.その他
2.知っておきたい業界別開業資金の目安・相場
2-1.飲食業
2-2.小売業
2-3.IT関連業
2-4.美容・エステ業
2-5.医療・福祉
2-6.サービス業
2-7.専門サービス業・士業
3.創業融資でおすすめの方法とは?
4.創業融資に使える日本政策金融公庫の融資制度の仕組み・使い方
4-1.日本政策金融公庫の融資制度の種類3選
4-2.日本政策金融公庫融資を受ける流れと申し込むタイミング
4-3.日本政策金融公庫融資の審査を通過するための3つのポイント
5.創業融資に使える地方自治体の制度融資の仕組み・使い方
5-1.地方自治体の制度融資の種類2選
5-2.事業所がある自治体の制度をチェックしておく
6.民間金融機関の活用方法
6-1.日本政策金融公庫との同時利用がおすすめ
6-2.融資を受けないとしてもメインバンクを決めておく
7.創業融資で重視される審査項目
7-1.自己資金・資産
7-2.事業計画書
7-3.個人与信
7-4.スキル・経験
7-5.資金の使途
7-6.返済見込み
8.創業融資を申し込む前に必要な準備
8-1.融資の前提条件を満たしているか確認する
8-2.事業概要・事業体制を整理する
8-3.事業計画書・返済計画書としてまとめる
9.創業融資について相談できる窓口
9-1.日本政策金融公庫の窓口
9-2.認定支援機関
9-3.税理士
9-4.商工会
10.創業後に資金調達を受けやすくするためのポイント
11.まとめ
創業時に活用できる創業融資の種類
創業融資には、大きく分けて国や地方自治体の制度を利用する「公的融資」と、民間金融機関を利用する「民間融資」があります。創業融資を受ける際は、まず公的融資を受けることを考えましょう。ここでは主な創業融資について順番に紹介します。
なお、資金を調達するには、当然ながら融資以外にもさまざまな方法があります。創業時の資金調達の方法について詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください。
日本政策金融公庫から融資を受ける
「日本政策金融公庫」とは政府が100%出資し、個人や企業に対する幅広い金融支援を行っている組織です。創業前や創業直後の実績がない状態の企業にも積極的な融資を実施しており、創業前後に利用しやすいのがメリットです。日本政策金融公庫の融資は公的融資にあたります。
創業時の融資は、日本政策金融公庫が展開する3つの事業のうち「国民生活事業」に含まれます。2020年度における国民生活事業の融資実績はおよそ95万件にも上りました。
自己資金の基準が低く低金利で、さらに担保や保証人なしで融資を受けられる制度もあり、民間の金融機関が行き届かない部分を補完しているのがメリットです。
ただし誰でも無条件で融資を受けられるわけではなく、所定の審査があります。また、実際に資金が振り込まれるには申し込み後3週間から1ヶ月程度かかるため、利用する際は早めの準備が必要です。
地方自治体の制度融資を利用する
地方自治体が実施する「制度融資」は、地方自治体・金融機関・信用保証協会が連携して融資を行う制度です。こちらも公的融資に該当します。金融機関にとって創業融資はリスクがあるものですが、万が一の際は信用保証協会が肩代わりする仕組みによって融資のハードルを下げています。
制度融資のメリットは、低金利で融資を受けられることや、融資メニューの内容にもよりますが、長期間の借り入れが可能になることがあります。先述の通り信用保証協会の補助があることで、金融機関の審査のハードルが低くなることもメリットです。。また、利子補給制度によって支払利息の一部を負担してもらえる場合もあります。都道府県や市町村ごとに制度が異なり、種類も豊富なため、自宅や事業所がある自治体の情報を確認しておきましょう。
デメリットは自己資金の要件が高めなことが多いことと、審査に時間がかかることです。自己資金が少なければ、融資金額も低く抑えられてしまいます。また、それぞれの機関が審査を行うため、実際に融資されるまで3ヶ月以上かかることも珍しくありません。
民間の金融機関から融資を受ける
銀行(メガバンクや地方銀行)、信用金庫といった民間の金融機関でも創業融資を受けられます。民間の金融機関から借りる場合は民間融資に該当します。近年では、創業融資に積極的な金融機関も増えてきました。
とはいえ、審査が厳しく金利も高いため、実際に融資を受けるのはハードルが高いといわざるをえません。創業時点では、民間の金融機関が重視する実績がないからです。
消費者金融やカードローン会社といったノンバンク系の金融業者から融資を受けるという方法もありますが、バンク系よりも高金利であることが多く、返済の負担が増します。今すぐに資金を用意しなければならない時など、緊急時の最終手段として把握しておくにとどめましょう。
その他
最終手段として、親族・親戚・友人など身近な人から金銭的な援助を受けるという方法もありますが、これはおすすめしません。個人的に借りたりもらったりしたお金は自己資金としてみなされないこともあるうえ、贈与税の対象となる場合もあるからです。
何よりも、「返済が遅れた」「返せなくなった」などのトラブルが発生すると人間関係の悪化が避けられず、金銭面以外にも多大なデメリットがあります。
不特定多数から援助を募る「クラウドファンディング」も広い意味では融資の一種といえなくもないものの、PRやリターンの準備に時間と手間を取られます。また、目標金額に達しない場合も多く、成功するとは限りません。
知っておきたい業界別開業資金の目安・相場
創業や開業にかかる資金は、業種や業界ごとに異なります。専用機材や備品が欠かせない業種は、開業時にまとまった資金が必要です。業界別に開業資金の目安や相場をチェックしておきましょう。
飲食業
相場 | 100万~2,000万円 |
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項目 | ・店舗用物件の取得費・改装費 ・厨房機器や食器の購入費 ・仕入費 ・広告宣伝費 |
飲食業は、規模や立地、コンセプト、提供メニューによって必要な資金が大きく異なります。例えば高級志向の店舗であれば、店舗の改装や備品購入にもそれなりの投資が必要です。食材や飲料の仕入れルートも確立しなければなりません。初期投資を回収するには、3年から5年程度みておきましょう。開業のしやすさで注目を集めている移動販売なら、毎月の家賃が不要というメリットがあります。
小売業
相場 | 50万~1,000万円 |
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項目 | ・店舗用物件の取得費・改装費 ・什器や備品の購入費 ・仕入費 ・広告宣伝費 ・Webサイト作成費 ・在庫保管費 |
小売業は、実店舗を構えるかどうかで費用が変わってきます。店舗ありの場合は物件取得や什器・備品の購入の比重が大きくなりますが、無店舗のインターネットショップを始めるのであればその限りではありません。商材と販路を考慮し、適切な形態を見極めましょう。この他、仕入れや在庫管理にも費用が発生します。
IT関連業
相場 | 20万~500万円 |
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項目 | ・システム開発費 ・人件費 ・オフィス用物件の取得費 ・什器や備品の購入費 ・広告宣伝費 |
IT関連業は、ITコンサルタントやWebデザイナーのようにパソコンさえあれば開業できる職種も少なくありません。そのため1人で開業するハードルは低いといえるでしょう。ただしオフィスを借りたり教室を開いたりする場合は物件取得や備品の準備に費用がかかるため、高額になります。全般的に在庫を持つ必要がなく、その点ではリスクが少なめです。
美容・エステ業
相場 | 200万~1,000万円 |
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項目 | ・店舗用物件の取得費・改装費 ・什器や備品の購入費 ・仕入費 ・広告宣伝費 |
美容関連はイメージが重視される業界であり、立地のよい場所に店舗を構えつつ、外装や内装を整えるのに高い費用をかけるオーナーが少なくありません。そのなかでもヘアサロンはシャンプー台やスタイリングチェアといった専用の設備が必要不可欠であり、開業資金がどうしても高額になります。一方で、主に技術を提供するエステティックサロンやネイルサロンは美容院よりも相場費用が低めです。
医療・福祉
相場 | 500万~2億円 |
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項目 | ・施設用物件の取得費・施設建設費・改装費 ・什器や備品の購入費 ・車両費 ・広告宣伝費 ・求人費 |
医院や介護施設、保育園などの開業は公共性があり、補助金や助成金が利用しやすいといえます。訪問介護や訪問看護など訪問型の事業であれば広い場所は不要ですが、通所型や入居型の施設を経営するのであれば、建物を借りたり新しく建てたりしなくてはなりません。労働集約型のビジネスであるため、有資格者を雇い入れる必要もあります。開業資金は高額になりがちではあるものの、黒字化もしやすい事業です。
サービス業
相場 | 50万~2,500万円 |
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項目 | ・店舗用物件の取得費・改装費 ・什器や備品の購入費 ・広告宣伝費 |
サービス業では店舗を構えて集客するのが一般的ですが、家事代行や運転代行などスタッフが出向くタイプの業種では店舗が必要ありません。開業資金を算出するには、どのようなサービスをどういった形で提供するかを明確にする必要があります。
小規模なカルチャースクールなどであれば、自宅の一室を利用して開業することも可能です。また、イラストや文章などを制作するクリエイティブ系のサービスを個人で開業する場合は、資金がほぼ必要ありません。
専門サービス業・士業
相場 | 50万~500万円 |
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項目 | ・オフィス用物件の取得費 ・什器や備品の購入費 ・広告宣伝費 |
開業に何らかの資格や認可が必要な専門サービス業や士業は、資格を収入に変える仕事です。ファイナンシャルプランナーやコンサルタントなどは自宅で開業することも可能で、特別な設備も必要なく、開業資金を抑えられます。一方で土地家屋調査士や歯科技工士のように専門の器具や機材を必要とする職種は、開業にかかる費用が高くなる傾向があります。
創業融資でおすすめの方法とは?
創業融資にはいくつかの種類がありますが、どの制度を利用するにしても一定以上の自己資金が必要です。まずは貯金をし、ボーナスや退職金なども開業資金に回して自己資金を確保しましょう。定期預金や定期積金をしておけば、起業に向けた計画性を示すこともでき、融資を受けやすくなります。
さらに、事業の実績がない分、創業者個人の信用情報に傷がないことも重要です。
- クレジットカードの支払遅延や未払い
- スマホ本体の割賦払い(分割払い)の滞納
- カードローンの滞納
直近にこのようなことがあり、信用情報から消えていない場合は、融資を受けられる可能性が低くなります。たとえ滞納金額が少ないとしても傷がつくことには変わりなく、滞りなく返済できていることが何よりも重要です。自分の与信がどうなっているか気になる時は、CICで確認できます。
これらの条件を満たし、そのうえで融資を受けたい場合は「日本政策金融公庫」を活用しましょう。民間の金融機関は創業融資のハードルが高めですが、政府系金融機関である日本政策金融公庫は創業者支援に積極的で、融資が受けやすいのがメリットです。
創業融資に使える日本政策金融公庫の融資制度の仕組み・使い方
創業時に日本政策金融公庫から融資を受けたい時は、数ある制度のなかから利用可能なものを選択しましょう。ここでは、創業・開業時に利用できる融資制度について紹介します。
日本政策金融公庫の融資制度の種類3選
日本政策金融公庫の融資制度のなかで創業時に利用しやすい制度は、「国民生活事業」に含まれる次の3つです。
- 新規開業資金
- 新創業融資制度
- 女性、若者/シニア起業家支援資金
このうち「新創業融資制度」は「新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方」が対象です。また「新規開業資金」は「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」が対象となっているため、いずれにせよ早めに準備しておく必要があります。申し込み後には事業内容の審査があります。
飲食店や旅館業、理容・美容業など生活衛生関係の業種では、「生活衛生貸付」の制度を利用可能です。
なお、以下では融資制度を紹介しますが、いずれも2022年2月時点での情報です。最新の情報は公式ページよりご確認ください。
1.新規開業資金
「新規開業資金」は事業開始前または、事業開始後おおむね7年以内の人を対象とした制度です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、創業時に利用できるもっともベーシックな融資制度といえます。
地域活性化につながる事業を始める場合や、新しい技術・ノウハウを用いて開業する場合などは、特別利率で利用可能です。返済期間は設備資金が20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金が7年以内(うち据置期間2年以内)。基本的に担保や保証人が必要です。
2.新創業融資制度
「新創業融資制度」は事業開始前または、事業開始後税務申告を2期終えていない人を対象とした制度です。融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)で、無担保・無保証人で利用できます。ただし、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要です。
無担保・無保証人が魅力の制度ですが、これ単体で使うことはできません。「新規開業資金」や「女性、若者/シニア起業家支援資金」といった日本政策金融公庫の融資制度を利用する際に、税務申告を2期終えていなければ利用できる制度で、利率や返済期間は各融資制度に準じます。
3.女性、若者/シニア起業家支援資金
「女性、若者/シニア起業家支援資金」を利用できるのは「女性」「35歳未満」「55歳以上」のいずれかに該当し、なおかつ事業開始前または事業開始後おおむね7年以内の人です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、返済期間は設備資金が20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金が7年以内(うち据置期間2年以内)となっています。
内容は「新規開業資金」とよく似ているものの、「新規開業資金」より利率が低く、負担を軽減できます。条件に当てはまるのであれば、積極的に活用したい制度です。
日本政策金融公庫融資を受ける流れと申し込むタイミング
実際に日本政策金融公庫から融資を受ける時のおおまかな流れは、次の通りです。
- 1.必要書類の準備
- 2.融資の申し込み
- 3.面談
- 4.現地調査
- 5.結果の通知
- 6.融資の振り込み
- 7.返済
全て自分で行うこともできますし、専門家のサポートを受けながら進めることもできます。
融資を申し込むベストなタイミングは、創業前や創業後すぐです。創業時の段階であれば、事業計画を示すことで融資が受けられるからです。また、融資を申し込んだとしても審査を通過して実際にお金が振り込まれるまでに時間がかかるため、資金が足りなくなってから申し込んでいては遅いと考えたほうが良いでしょう。。
さらに日本政策金融公庫の創業向け融資は、制度によって利用できる期限が決まっており、創業から時間が経っていると使えないケースもあります。有利な条件で融資を受けるためにも、タイミングを逃さないように気をつけましょう。
日本政策金融公庫融資の審査を通過するための3つのポイント
日本政策金融公庫の審査は、誰でも通るというものではありません。落ちてしまうと再度申し込むのに半年待たなくてはならず、できれば一度で通過したいものです。審査を通過するために重要なポイントは次の3つです。
- 自己資金の割合
- 事業計画
- 個人の信用情報
自己資金が足りていないのであれば、将来的に受け取る退職金を自己資金に回す、自動車やパソコンなどを事業の資本とするなどの方法があります。事業計画に不安がある場合は、ブラッシュアップしましょう。
個人の信用情報に傷がついている場合、自分自身では改善できません。したがって、融資を申し込む前から支払いを滞納しないように心がけておくことが大切です。
創業融資に使える地方自治体の制度融資の仕組み・使い方
地方自治体・金融機関・信用保証協会が連携して創業者をサポートする「制度融資」も公的融資の1つで、創業時に利用可能です。日本政策金融公庫と同時に利用でき、公庫からの融資だけでは足りない場合に資金をまかなえます。
地方自治体の制度融資の種類2選
「制度融資」は都道府県や市町村ごとに制度のあらましが異なります。ここでは、東京都と大阪府の代表的な制度を一例として紹介します。
【東京都】中小企業制度融資
東京都の「中小企業制度融資」は東京都内に事業所がある中小企業や、事業所または住居がある個人事業者が原則として無担保・無保証人で利用できる制度です。次の条件を満たす中小企業が利用できます。
- 必要な許認可を受けている
- 税金や社会保険料の滞納がない(もしくは完納の見込みがある)
- 暴力団などとの関わりがない
このうち「創業融資」は、融資限度額が3,500万円(開業前の場合は自己資金+2,000万円まで)で、返済期間は設備資金が10年以内(うち据置期間1年以内)、運転資金が7年以内(うち据置期間1年以内)となっています。
【大阪府】開業サポート資金
大阪府の「開業サポート資金」は、大阪府内で事業を開始しようとしている人、もしくは事業を開始して所定年数未満の人が利用できる制度です。「開業資金」と「地域支援ネットワーク型」があり、いずれも融資限度額は3,500万円、返済期間は7年以内(うち据置期間1年以内)です。
「地域支援ネットワーク型」は「開業資金」よりも金利が低く、融資後3年間にわたって商工会議所や金融機関のフォローが受けられるのが特徴。
ただし、地域支援ネットワーク型取扱地域内に事業所があることが条件です。また、いずれのタイプも女性・35歳未満・55歳以上・Uターン該当者は金利優遇が受けられます。
事業所がある自治体の制度をチェックしておく
都道府県や市町村の制度融資は、基本的に事業所がある自治体の制度が利用可能です。例えば大阪府大阪市に事業所がある場合は、大阪府もしくは大阪市の制度を使うことになります。各自治体の公式Webサイトやパンフレットを確認し、自分が使える制度をチェックしておきましょう。
制度融資では、創業者向けの融資だけでなく、働き方改革支援のための融資、経営が苦しい時の融資など、自治体ごとに多岐にわたるメニューが用意されています。地域に根ざした事業を応援するメニューも少なくありません。融資条件と自分の事業内容と照らし合わせつつ検討することをおすすめします。
民間金融機関の活用方法
銀行をはじめ民間の金融機関からは創業融資が受けにくいものの、絶対に受けられないというわけではありません。「信用保証協会」を利用することで、民間金融機関から借り入れができる可能性があります。
民間金融機関では、創業前のキャリアと同じ業種の事業をスタートさせる場合に有利に働くため、個人の信用情報に傷がなければ検討する価値はあります。民間金融機関の活用方法についてもチェックしておきましょう。
日本政策金融公庫との同時利用がおすすめ
民間金融機関だけに融資を申し込むのはハードルが高いといわざるを得ませんが、「日本政策金融公庫」と同時に利用することで融資を受けられる可能性があります。日本政策金融公庫は各地の金融機関と連携し、お互いに顧客を紹介し合うなど多様な支援を行っています。
事実、2020年度に民間金融機関から日本政策金融公庫への紹介は2万9,091件にも上りました。一度メインバンクの金融機関で融資について相談し、日本政策金融公庫との併用を考えていると話してみましょう。
融資を受けないとしてもメインバンクを決めておく
創業時に民間金融機関からは融資を受けないとしても、資金を預けたり、売上を入金したりするためのメインバンクを決めておきましょう。大切なお金を託すことで信頼関係が生まれ、将来的にプロパー融資(金融機関から直接借り入れる融資)を受けやすくなります。
民間金融機関にはメガバンクや地方銀行、信用金庫、信用組合などがありますが、おすすめなのは事業を行う地域に密着した信用金庫や信用組合です。信金や信組は地域の発展や地域社会への貢献を是としているため、創業者支援にも積極的です。起業家向けに相談会やセミナーを開催している機関も多く、何かと力になってもらえるでしょう。
創業融資で重視される審査項目
融資には審査がつきものです。開業してから時間が経っている企業の場合、融資を受けるには実績が重要な要素となりますが、これから事業を開始する場合には実績がありません。そこで問われるのが「創業に向けてどれだけ準備をしているか」と「事業の将来性」です。詳しくみていきましょう。
自己資金・資産
創業融資では、事業に向けてどれだけ自己資金を用意しているかが重要です。自己資金が多いほど融資を受けられる確率が上がり、借り入れできる金額も増えます。
自己資金をきちんと用意することで、「創業に向けて計画的に準備してきた」という評価につながるのはいうまでもありません。創業時の自己資金は一般的に、創業資金総額の3分の1以上を用意することが望ましいといわれています。
事業計画書
事業計画書は、事業のコンセプトや経営戦略を具体的にまとめたものです。日本政策金融公庫の場合は、申し込み時に所定のテンプレートによる「創業計画書」の提出が求められますが、自分自身で作成したものを提出しても構いません。事業計画書には、大まかに分けて「事業の枠組み」と「数値計画」を記載します。
- 創業の動機
- 経営者の経歴
- ターゲット顧客
- 商品やサービスを提供する仕組み
- 市場における自社事業のニーズ
- 自社サービスや取り扱っている商品の強み
- 競合の状況
こういった事業の枠組みと、短期(1年)、中期(1年~5年)、長期(5~10年)の目標、調達計画、損益計画を盛り込みましょう。数値に関してはしっかりと根拠を示します。客観的に見て「実現性が高く伸びる事業だ」と思ってもらえることが重要です。
個人与信
創業融資の場合、創業者個人の信用情報に傷があると融資を受けにくくなります。自己破産の経験はもちろんのこと、ローンやクレジットカードの支払い遅延、スマホ本体の割賦払い(分割払い)の滞納なども影響します。
公共料金の支払いや税金の納付状況についても確認されるため、日頃からお金の出入りを厳しく管理し、支払いをきっちりと済ませておくことが大切です。
スキル・経験
創業する事業の業種について、創業者自身にスキルや経験、経営ノウハウがあるかどうかも重視されます。
例えば飲食店で働いたことがない人がレストランを開くといえば、多くの人が「難しいのではないか」と感じるでしょう。未経験や経験の浅い業種・職種での創業は、ハードルが高いといわざるを得ません。
創業融資では、経験年数や勤務年数、「マネージャー」「店長」などこれまでに経験したポジション、役員経験などをアピールすることで、融資審査を通る可能性が上がります。
資金の使途
融資を受ける際は、融資された資金を何に使うのかが問われます。
融資されるお金の使途とは、オフィスの確保や改装、パソコンなどの機材、備品の購入にかかる「設備資金」と、仕入れや人件費、広告宣伝費などの「運転資金」です。この両方を算出し、事業を始めるためにこれだけの融資が必要であるという根拠を明確に示さなくてはなりません。
運転資金については、実際に売上が立ち入金されるまでにタイムラグがあるため、2~3ヶ月分が目安となります。融資を受ける前に、資金の使途を明瞭にしておきましょう。
返済見込み
借りたお金を返済できない人には、当然のことながらどこも融資してくれません。事業計画書では、「利益を出せること」「借り入れを返済可能であること」を示す必要があります。
しかしこの時、競合に勝てる根拠が明確に示されていなかったり、売上予測が競合と比較してあまりにも楽観的だったりすると、信頼性が低くなってしまいます。事業の実現可能性と返済の見込みがあることが重要です。
創業融資を申し込む前に必要な準備
創業融資を受けられるかどうかは、どれだけ準備できるかで決まるといっても過言ではありません。入念に準備をすることで、ひいては事業の成功にもつながります。融資を受けるために必要な準備について解説します。
融資の前提条件を満たしているか確認する
まずは融資に必要な前提条件を満たしているかを洗い出しましょう。融資はメニューごとに要件が定められています。該当しなければ利用できません。申し込みをしたとしても、高い確率で審査に落ちてしまいます。
- 自己資金はどの程度用意できるのか(要件を満たしているか)
- 信用情報に傷がついていないか
- 開業する事業と自分の経歴が合致しているか
- 担保が必要な場合は準備できるのか
この他、日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」のように、性別や年齢が要件となっているものもあります。また、創業融資は基本的に開業から時間が経っていると利用できません。さらに制度融資を活用する場合は、事業所の所在地や創業者の居住地なども条件となります。
事業概要・事業体制を整理する
融資を受ける前に、興したい事業についてきちんと整理します。
- 事業内容(市場に何を提供し、どのように利益を得るのか)
- 事業を行う場所(店舗やオフィスをどこに構えるか)
- 事業の規模(1人で創業するのか、人を雇うのか)
- 従業員の確保(どのような人材が何名必要なのか)
- 組織体制(誰がどのような役割を担当し、各人がどうやって連携していくのか)
- 事業に必要な機材や備品(車両やパソコンなどがどのくらい必要か)
融資を受けて創業する以上、経営を継続させて利益を上げ、返済していくことを前提に考えなくてはなりません。自分のやりたい事業をしっかりと掘り下げ、ビジョンを具体的にしていきましょう。
事業計画書・返済計画書としてまとめる
事業の全体像が見えてきたら、書面に落とし込んでいきます。「事業計画書」は創業融資を申し込む際に必要不可欠なものです。事業計画書の内容が審査結果を左右するといっても大げさではありません。
事業計画書で大切なのは、分かりやすく正確であること、具体的で説得力があることです。融資担当者に「この計画ならしっかりと利益を出せるだろうし、返済も問題ないだろう」と思わせるには、現実的な内容を示す必要があります。
数字には根拠を示し、考え得るリスクにどのように対処するかまで盛り込みましょう。同時に返済についてもシミュレーションを行って「返済計画書」を作成し、借りたお金をどのように返していくかを目で見て分かるようにしておきます。
創業融資について相談できる窓口
創業に際してスムーズに融資を受けるには、専門家や専門機関のアドバイスを積極的に取り入れましょう。相談できる窓口についてご紹介します。
日本政策金融公庫の窓口
創業融資の本命ともいえる日本政策金融公庫では、融資を受けられるだけでなく、創業に関する全般的な相談を受け付ける「創業前支援」の窓口が設置されています。
フリーダイヤルの「創業ホットライン」をはじめ、全国6カ所の支店に設置されている「ビジネスサポートプラザ」、152の支店に設置されている「創業サポートデスク」などを活用して、専門家の話を聞いてみましょう。電話相談や来店相談の他、オンライン相談も可能です。
もちろん融資の申し込みに必要な事業計画書の書き方や、創業融資の申し込み手順についても教えてもらえます。電話相談以外は基本的に事前予約制ですので、詳しくは日本政策金融公庫の公式Webサイトからご確認ください。
認定支援機関
認定支援機関とは、中小企業支援に関する専門知識があると国から認定を受けた機関のことです。商工会・商工会議所、税理士、公認会計士、中小企業診断士などが認定を受けています。認定支援機関では創業支援だけでなく、人材育成や労働環境の整備、マーケティングなど、事業に関する幅広い相談ができます。経営のサポートをしてもらえるのはもちろんのこと、第三者の意見がほしい時にも力になってもらえるでしょう。
また、日本政策金融公庫には、認定支援機関を通すことで利用できる「中小企業経営力強化資金」という制度があります。こちらも創業時に使える融資です。最寄りの認定支援機関は、中小企業庁のWebサイトから検索できます。
税理士
融資支援に積極的な税理士や税理士法人では、会社の設立や創業融資を受けるための支援などを行っています。「メインバンクが決められない」「自分が利用できる融資が知りたい」といった場合は、一度相談してみましょう。日本政策金融公庫や金融機関とつながりを持つ税理士も多く、最適な金融機関を教えてもらえます。
また、事業計画書に記載する売上予測や返済計画といった数字に関してプロの目でチェックしてもらえるのも大きなメリットです。とはいえ、全ての税理士が創業支援を行っているわけではありません。創業からサポートしてもらいたい場合は、創業支援サービスを提供している経験豊富な税理士を選ぶようにしましょう。
商工会
日本全国にある商工会や商工会議所はビジネスをサポートする公的機関であり、事業者にとってはなじみのある存在です。経営相談に乗ってもらえたり、交流会や展示会などを通してネットワークを広げられたりと、加入することでさまざまなメリットがあります。融資の相談や申し込みもでき、税理士などの専門家を紹介してもらうことも可能です。
商工会や商工会議所は日本政策金融公庫や機関とのつながりも深く、日本政策金融公庫の出張相談なども頻繁に開催されています。特に地域に根ざした事業を行うのであれば、積極的に活用しましょう。
創業後に資金調達を受けやすくするためのポイント
創業時の融資を受けたらそれで終わりではなく、創業した後も金融機関との付き合いは続いていきます。事業を継続している間は、金融機関の担当者に対して決算結果を定期的に開示していきましょう。
事務的なメールのやり取りで済ませるのではなく、直接顔を合わせて積極的に情報を交換し、信頼関係を築いていくことが何よりも重要です。そうしていくことで、事業拡大などで追加の融資が必要になった時にまとまった額の融資を受けやすくなります。最初は少ない金額しか借りられないとしても、きちんと返済を続けて良好な関係を作っていきましょう。
一方で、損益計算書(PL)の過月分修正など、すでに公表した情報に対しての修正が多発すると、信用度が下がる要因ともなるため注意が必要です。こういったトラブルを避けるために、組織体制を整えることも忘れてはなりません。
まとめ
「日本政策金融公庫」の融資や、地方自治体・金融機関・信用保証協会が連携して支援を行う「制度融資」は、創業時や創業間もないといった実績がないタイミングでも活用しやすい制度です。創業段階で必要な部分にしっかりと資金を投入し、事業を軌道に乗せてさらに事業展開の幅を広げるためにも、資金調達の手段として「融資」を受けることを検討してみましょう。
ただし実績がない状態ゆえに、創業者個人の業務経験が問われる他、与信や自己資金額といった日頃の行動の積み重ねが重要視されます。創業は「事業を興したい」と考えた段階からすでに始まっているものです。準備段階からコツコツと誠実に取り組み、創業後も信頼を獲得する努力を続けましょう。