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資金調達の基本から主な3種類のメリット・デメリットまで解説

資金調達は、創業時や運転資金が不足した時だけでなく、事業活動のさまざまな段階で必要です。資金調達を上手く行えるようになれば、経営の安定化に加え、機動的な事業運営にもつながります。

freee finance lab株式会社の調査によると、今後1年間に「資金調達が必要」と答えた事業者は「42.1%」で、多くの企業がその必要性を感じていることがうかがえます。

その一方で、そう回答した企業のなかで「資金調達の目途が立っていない」と回答したのは「59.1%」で、必要性は感じているものの対処法を見いだせていない企業も多いようです。

資金調達は、計画的かつ戦略的に行わなければ希望通りになることは難しく、直近で資金調達が必要ではないとしても、今後のためにどのような資金調達方法があるのかを把握して、準備しておくことが重要といえます。

この記事では、資金調達が必要なタイミングと、具体的な方法、それぞれのメリット・デメリットについて解説しています。

1.資金調達の基礎知識
1-1.資金調達の意味・目的
1-2.資金調達を行う3つの方法
1-3.資金調達で重要なポイント
2.資金調達が必要な状況・タイミングと最適な調達方法
2-1.起業・新規プロジェクトを立ち上げる時
2-2.設備投資・事業拡大をする時
2-3.運転資金が不足する時
2-4.ラウンドが変わる時
3.資金調達方法1.エクイティファイナンスの仕組み・特徴・手法
3-1.エクイティファイナンスの仕組み
3-2.エクイティファイナンスのメリット
3-3.エクイティファイナンスのデメリット
3-4.エクイティファイナンスの5つの主な手法
3-5.主なエクイティファイナンスの出資者
4.資金調達方法2.デットファイナンスの仕組み・特徴・手法
4-1.デットファイナンスの仕組み
4-2.デットファイナンスのメリット
4-3.デットファイナンスのデメリット
4-4.デットファイナンスの具体的な7つの手法
5.資金調達方法3.アセットファイナンスの仕組み・特徴・手法
5-1.アセットファイナンスの仕組み
5-2.アセットファイナンスのメリット
5-3.アセットファイナンスのデメリット
5-4.アセットファイナンスの具体的な2つの手法
6.資金調達方法4.補助金・助成金の活用・その他
6-1.小規模事業者持続化補助金
6-2.事業再構築補助金
6-3.キャリアアップ助成金
6-4.クラウドファンディング
7.資金調達についてよくある疑問とその回答
7-1.担保や連帯保証人は必要?
7-2.事業計画書は必要?
7-3.資金調達のタイミングをどのように見極める?
8.まとめ

資金調達の基礎知識

まずは資金調達の基本として、その意味や目的、具体的な方法の分類について確認しておきましょう。資金調達を効果的に進めるうえで重要なポイントについても解説しています。

資金調達の意味・目的

資金調達には、不足した資金を補うという「守り」の目的だけでなく、事業の拡大や成長につなげる「攻め」の目的もあります。

また資金調達は会社の「信用力アップ」にもなる要素です。大手金融機関からの融資を受けている企業は、審査に通過するような優れた事業計画があるとみなされ、金融機関の後ろ盾がある企業として取引先からも信用されやすくなります。

ビジネスを軌道に乗せ、企業として大きく成長していくために、資金調達は欠かせないといえるでしょう。

資金調達を行う3つの方法

融資だけが資金調達ではありません。大きく分けると以下の3つに分類されます。

  • エクイティファイナンス(Equity finance)
  • デットファイナンス(Debt finance)
  • アセットファイナンス(Asset finance)

「エクイティファイナンス」は、株式発行などによって出資を受ける資金調達です。上場していない企業でも利用できます。

「デッドファイナンス」は、融資を受ける資金調達です。銀行だけでなく、さまざまな利用先があります。

「アセットファイナンス」は、保有する資産を売却する方法です。資金調達に利用できる資産としては、不動産や売掛債権などさまざまな種類があります。

上記それぞれの仕組みやメリット・デメリット、具体的な方法について、当記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

資金調達で重要なポイント

効果的な資金調達を実現するには、利用できる方法の選択肢を全体的に把握し、それぞれの手順やメリット・デメリットを知ったうえで、自社の状況やタイミングに合った方法を選択することが重要です。

前述のfreee finance lab株式会社の調査で、資金調達でアドバイスを受けたいこととして最も多く挙げられていたのは「自社に適した資金調達先の選び方」でした。つまり多くの経営者が、数ある資金調達方法のうち「どれを選べばよいか」で悩んでいることがうかがえます。

次項からは資金調達方法の種類と、それぞれの特徴やメリット・デメリット、具体的な手法について解説しているので、適切な方法を選ぶための参考にしてください。

資金調達が必要な状況・タイミングと最適な調達方法

会社経営において資金調達が必要になるのはどのような状況が考えられるでしょうか。会社設立の時は必要となりますが、そのケースだけではありません。主に以下の4つの状況が考えられます。

  • 起業・新規プロジェクトを立ち上げる時
  • 設備投資・事業拡大をする時
  • 運転資金が不足する時
  • ラウンドが変わる時

それぞれの状況で一般的に用いられる資金調達の方法も紹介するので、参考にしてください。

起業・新規プロジェクトを立ち上げる時

まず資金が必要になるのは会社設立の時ですが、会社設立後に新しいプロジェクトを立ち上げる際にも、まとまった資金を集める必要が生じます。

この場合に特にメリットのある資金調達方法は、創業者向けの「補助金・助成金」です。金融機関や地方自治体などが運営・提供する創業者向けの「融資」も利用されます。

設備投資・事業拡大をする時

新たな設備投資が必要になった場合や、既に進めている事業・プロジェクトの拡大をする際にも、まとまった資金の確保が必要になることがあります。

この場合、ある程度ビジネスを進めて実績がある状態なので、「エクイティファイナンス」によって投資家による出資を受けることも選択肢に入ります。

一定の条件を満たす設備投資などをする場合は、「補助金・助成金」の利用も可能です。

運転資金が不足する時

キャッシュフローの悪化などによって運転資金が不足した場合にも、資金調達が必要になります。前掲のfreee finance lab株式会社の調査によると、企業の調達した資金の使途として最も多かったのは「手元資金の確保」(33件)で、次が「賃金・経費の支払い」(29件)です。

売上が好調だとしても、その入金タイミングのずれによって資金が足りなくなり、資金調達が必要になることがあります。

この場合の解決策として、「融資」を受ける以外に、アセットファイナンスの一種である「ファクタリング」も候補に挙がるでしょう。ファクタリングの仕組みについて詳しくは後述しています。

ラウンドが変わる時

資金調達ラウンド(投資ラウンド)が切り替わるタイミングでも、資金調達が行われることがあります。

資金調達ラウンドとは、企業の成長をいくつかに切り分けた各段階(フェーズ)のことです。多くの場合、投資家が企業への資金投入を考えるうえでの目安として利用されます。その切り分け方は、以下の5段階が基本です。

フェーズ 概要 プロダクト・事業展開
シード 起業直前直後 事業アイデア構築~プロダクトα版リリース
シリーズA ビジネス開始・検証 プロダクトのPoC(概念実証)完了
プロダクトβ版~正式版リリース
シリーズB グロースステージ プロダクトのPMF(市場への適合)完了
正式版の機能強化
シリーズC 事業堅調・IPO視野 エコノミクス(収益性)が証明され、グロースに従い黒字化が見込める
より協力なmoat(競合優位性)構築
シリーズD プレIPO アンカー投資家(主要投資家)の獲得によるIPO基盤確立

事業が成長し、次のフェーズへ進むタイミングに差し掛かると、資金調達が必要になるのが一般的です。通常は後ろのフェーズに進むほど大きな資金が必要になります。

資金調達方法1.エクイティファイナンスの仕組み・特徴・手法

前述の3タイプのうち、「エクイティファイナンス」にあたる資金調達について、その特徴やメリット・デメリット、具体的な手法を以下に詳しく解説します。

エクイティファイナンスの仕組み

エクイティファイナンスは、株主資本(エクイティ)を増やすことによる資金調達です。

貸借対照表の「純資産」を増やす形で資金調達をするため、「負債」を増やす場合のように返済をする必要はありません。

社内・社外を含めてさまざまな出資者から、会社に対して投資をしてもらうことで資金調達します。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの出資など、さまざまな方法が利用可能です。

エクイティファイナンスのメリット

エクイティファイナンスの大きなメリットは、前述の通り「返済の義務がないこと」です。

融資の場合とは異なり、資金調達後に毎月の返済が発生するということがなく、キャッシュフローを圧迫することを避けられます。

出資者となった株主からのサポートを期待できることもメリットの1つです。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルは、投資した企業が成長しなければ損失となってしまいます。そのため、投資をした会社が成功するよう何らかのサポートをしてくれるのが一般的です。

また社内からの出資を求めた場合には、社員が株主としての意識と責任を持つことにもなり、モチベーションアップにつながります。

エクイティファイナンスのデメリット

エクイティファイナンスは返済不要とはいえ、一定の調達コストがかかります。場合によっては金利を加味しても融資の方が安いこともあるため、注意が必要です。

エクイティファイナンスを行うためには、会社法やコーポレートガバナンス・コードなど各種法律・指針に則って正しく手続きを進める必要があり、適切な判断をするには専門知識を要します。判断を間違えると「経営権分散」や、上場した際の「報酬割合の減少」などのデメリットにもつながりかねません。

経営権分散は、株の売り先を自由に決められてしまうことや、株主の反対によって追加の資金調達ができなくなるリスク、株主の素性によっては上場できなくなってしまう可能性などをはらんでいます。

経営上非常に重要な決定となるため、専門家に委託する場合でも、ある程度のコストは見込んだ上で進める必要があるでしょう。「知らなかった」で失敗することがないように、契約書のチェック体制などを含めて、ある程度の知見を十分に蓄えてから利用すべき方法です。

また配当金は損金にならないため、利息が損金になる融資と比べて、税金面で不利になる可能性もあります。

エクイティファイナンスの5つの主な手法

では具体的なエクイティファイナンスの手法を5つ紹介します。それぞれの方法ごとに比較したメリット・デメリットについても確認し、自社に最適な方法を見つける参考にしてください。

1.第三者割当増資

メリット ・株主を選定できる
・手続きが比較的少なくて容易
デメリット ・自社、既存株主の持ち株比率が低下する

「特定の第三者」に対して株式を引き受けてもらう方法です。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資からの出資は通常これに該当します。

融資などと比べて手続きが比較的少ないため、短期間での資金調達に適した方法です。非上場企業の増資方法としてよく利用されます。

ただし新たな株主が増えることになるため、自社・既存株主の持ち株比率が低下し、経営権が弱まるリスクがある点がデメリットです。

2.公募増資

メリット ・特定の投資家に権利が集中しにくい
デメリット ・自社、既存株主の持ち株比率が低下する

第三者割当増資とは異なり、特定の第三者ではなく「不特定多数」に株式を売却する方法です。

新規上場、もしくは上場済みの企業にしか利用できない方法ですが、複数の投資家に株式を分散できるため、第三者割当増資と比べて特定の投資家に株式が集中しにくいことがメリットです。

ただしこちらも第三者割当増資と同じように、自社・既存株主の持ち株比率が低下するというデメリットがあります。

3.株主割当増資

メリット ・自社・既存株主の持ち株比率が変化しない
デメリット ・必ず引き受けてくれるわけではない

こちらは「既存の株主」に対して、現在の持ち株比率に応じた数の新規株式を引き受けてもらう方法です。

ここまで紹介した方法とは異なり「新たな株主」が発生しないため、自社・既存株主の持ち株比率が変化しにくいというメリットがあります。

ただし全ての既存株主が新規株式を引き受けてくれるとは限らないため、受け入れを拒否する株主が発生した場合には持ち株比率が変わり、経営権の変化が起きる可能性がある点には注意が必要です。

4.転換社債型新株予約権付社債(CB)

メリット ・普通社債よりも低金利にできる
・株式に交換されると償還金が不要になる
デメリット ・株式に交換されない場合は償還金が必要
・株式に交換されると既存の株主価値に影響を与える

転換社債型新株予約権付社債(CB:Convertible Bond)とは、あらかじめ決められた価格で「新株と交換できる権利」がついた債権のことです。普通債権を発行するよりも金利を低く設定できるというメリットがあります。

また「株式への転換」というオプションが行使されることで償還金が不要(返済が不要)になることも、普通社債と比較した場合のメリットです。

ただし「権利」なので必ずしも株式に交換されるとは限りません。株式に交換された場合でも、既存の株主価値が低下するというデメリットがあることも把握しておく必要があります。

5.有償新株予約権(J-KISS)

メリット ・負債が増えない
・新株発行による株式の希薄化を(一時的に)回避できる
・手続きが比較的簡単
デメリット ・権利が行使されると株式が希薄化するリスクがある

新株予約権とは「ストックオプション」とも呼ばれるもので、将来的に特定の条件で新株を購入する権利のこと。その権利を「有償」で、特定の価格で販売することで資金調達に活用できます。これが「有償新株予約権」による資金調達です。

日本の法律に対応し、シード期の資金調達向けに手続きをシンプル化した「J-KISS」と呼ばれる有償新株予約権も登場し、国内でも利用のハードルが下がっています。

有償新株予約権は「社債」ではないため、会社の負債を増やすことなく資金調達ができることがメリットです。

さらに株式発行を先送りできるため、株式を発行することによる既存株式の希薄化(価値の下落)も一時的に回避できます。ただし将来的に新株を購入する権利が行使されると、株式の希薄化リスクが発生することには注意が必要です。

主なエクイティファイナンスの出資者

上記で紹介したエクイティファイナンスの方法を利用するには、「株主」つまり出資者の存在が不可欠です。資金調達では一般的にどのような出資者が考えられるのでしょうか。主な3つの出資者について、それぞれのメリット・デメリットとともに解説します。

・1.エンジェル投資家

メリット ・投資家からのアドバイス・サポートを受けられる
デメリット ・個人対個人の付き合いになりやすく、場合によっては過度に干渉されてしまうケースもある

エンジェル投資家とは、ベンチャー・スタートアップに出資する投資家のことです。

中小企業庁が公開している資料「中小企業実態調査事業報告書」によると、「創業時の資本構成に関する改善点」として、「経営に対して助言をしてもらえる経験者がいるとよかった」と回答した企業は39.1%で、「無議決権株式によるエンジェル投資を検討すればよかった」と回答した企業は10.9%です。つまりエンジェル投資家にメリットを感じていて、もっと早く利用を検討すべきだったと考える起業家が一定数存在することが分かります。

エンジェル投資家による出資は、前述の通り事業を成功させるためのアドバイス・サポートを受けられるというメリットがありますが、個人対個人の付き合いになりやすく、場合によっては過度に干渉されてしまうケースもあることに注意が必要です。

エンジェル投資家からの出資は、まだビジネスの形がない創業初期には非常に有意義な資金調達手段となり得ますが、個人的な相性も含めて、会社にあった投資家を見極めて投資を受けるようにしましょう。

・2.ベンチャーキャピタル、金融機関

メリット ・経営サポートを受けられる

・ネットワーク支援を受けられる
デメリット ・ベンチャーキャピタルの方針に左右されることがある

ベンチャーキャピタルや金融機関も、よく利用される出資元です。前掲の中小企業庁「中小企業実態調査事業報告書」によると、2018年、日本国内においてベンチャーキャピタルがベンチャー企業に投資した額は2,706億円に上りました。

ベンチャーキャピタルは、エンジェル投資家と同じようにベンチャー・スタートアップを対象としていますが、こちらは組織的な経営アドバイス・サポートを利用できることがメリットです。

専門家ネットワークサービスがあり、自社の状況に合った分野に詳しいアドバイザーを紹介してくれるサービスを提供していることもあります。

ただしベンチャーキャピタルの方針が経営に大きく影響することもあり、「過度に干渉される」というリスクがないわけではありません。アドバイス・サポートを利用できるといっても、それに依存しすぎないように注意が必要です。

・3.事業会社

メリット ・取引先と強い関係性を構築できる
デメリット ・経営の干渉を受けるリスクがある

・提携解除になると株式の買い戻しが必要

取引先などの事業会社に株式を購入してもらうこともできます。つまり他の企業と資本提携・パートナーシップを結ぶということです。

提携企業との強い関係性を構築でき、ともに事業を成功へ導いていく仲間を作れるというメリットがあります。

ただしこの場合も、経営の干渉を受けるリスクに注意しなければなりません。また将来的に提携解除になった場合、引き受けてもらった自社の株式を買い戻す必要があり、資金繰りの悪化が起こる可能性もあります。

提携先を慎重に選び、長期的に良好な関係を築けそうな企業とのパートナーシップを作ることが重要です。

資金調達方法2.デットファイナンスの仕組み・特徴・手法

次に、「デットファイナンス」にあたる資金調達方法を見ていきましょう。

freee finance lab株式会社の調査によると、資金調達手段として挙げられたのは、1位が「日本政策金融公庫(59.4%)」で、次いで「銀行融資(34.4%)」であり、デットファイナンスがかなりの割合を占めています。

特に起業前から企業間もない段階では、3タイプのなかで最も利用しやすい資金調達方法といえるでしょう。デットファイナンスの仕組みやメリット・デメリット・具体的な手法を以下に紹介します。

デットファイナンスの仕組み

デットファイナンスでは、金融機関などから融資を受け、貸借対照表の「負債」を増やすことで資金調達を行います。債権(社債)を発行することによる資金調達も、デットファイナンスの一種です。

比較的難易度の低いイメージのある資金調達方法ですが、有利な条件で融資を受けるには、超えなければならないハードルも高いのが現実です。デットファイナンスのメリットやデメリットについて、以下より詳しく見ていきましょう。

デットファイナンスのメリット

デットファイナンスは調達先の選択肢が多いことがメリットです。申込み先によっては、比較的短期間で資金調達できることがあります。審査に通過できれば、大きな資金を調達することも可能です。

そして「利息が損金になる」というメリットもあります。エクイティファイナンスの配当金など、資金調達コストのなかには損金にならず経費にできない項目がありますが、デットファイナンスの利息にはそのようなデメリットがありません。

デットファイナンスのデメリット

デットファイナンスで調達した資金は負債にあたるので「返済が必要」という点が大きなデメリットです。

毎月などのペースで返済費用の支払いが発生し、支出額が増加します。支出の増加がキャッシュフローの悪化をもたらさないように注意が必要です。

また審査に通過するには、自己資金や代表者個人の与信、会社の与信があることが前提のため、与信に問題があるなど条件に適合しない場合は使えないという点もデメリットといえます。特に創業初期は会社の与信はほぼゼロであるケースが多いため、個人として融資を受けるに足る信用の蓄積を積み重ねてきたかどうかが強く問われます。

デットファイナンスの具体的な7つの手法

デットファイナンスで利用できるのは銀行だけではありません。主な7つの選択肢について、それぞれの特徴や利用方法を、メリット・デメリットとともに紹介します。

1.日本政策金融公庫の融資

メリット ・事業開始前でも利用可能
・金利が低い
デメリット ・審査項目が多い
・申込み・審査に時間がかかる

日本政策金融公庫の融資にはいくつかの種類があります。「一般貸付」の他に、企業の資金調達に利用されることが多いのは「新規開業資金」や「新創業融資制度」「マル経融資」などです。

国の政策に基づいて管理されているため、営利性の高い銀行などと比べて金利が低いというメリットがあります。事業開始前にも利用できますが、申込みの際の審査項目が多く、手続きの準備に時間がかかることがデメリットです。

申込みは日本政策金融公庫の支店窓口だけでなく、オンラインでも受け付けています。

2.制度融資

メリット ・事業開始前でも利用可能
・利息、保証料の一部が補助される
・経営サポートも利用可能
デメリット ・申込み・審査に時間がかかる
・保証料を支払う必要がある

制度融資とは、地方自治体が管理し、金融機関、信用保証協会と連携して実施する融資制度のことです。

地方自治体が管理しているため低金利で、利息・保証料の一部が補助されることもあります。経営に関するアドバイスを受けられるなどのサポートも利用できることがメリットです。

ただしこちらも申込み・審査の手続きに手間がかかり、審査結果が出るまでに時間がかかることがデメリットです。利息とは別に信用保証協会に支払う保証料も必要です。

詳しい内容と申込み方法は管轄の地方自治体によって異なります。一般的には地域の商工会議所又は商工会に相談し、現地確認の依頼や申込書の提出を行うという流れです。

3.銀行の融資

メリット ・大手銀行と契約できると会社の社会的信用度がアップする
デメリット ・低金利で大きな金額を調達するには審査が厳しい

銀行の融資を契約できると、特に有名な大手銀行の場合には、「会社の社会的信用度アップ」というメリットにつながります。

「プロパー融資」「流動資産担保融資」「ビジネスローン」など、種類ごとに借りられる金額や、審査の厳しさが異なります。例えばビジネスローンは比較的審査を通過しやすい一方で、金利は高めの傾向です。

できるだけ低金利で、大きな金額を調達するためには、厳しい審査を通過しなければなりません。銀行担当者との良好な関係を作るなどの継続的な努力も求められます。

4.信用金庫の融資

メリット ・銀行より審査に通りやすく、低い金利で契約しやすい
デメリット ・事業開始前・開始直後は審査に通りにくい
・移転する予定がある場合は基本的に利用できない

信用金庫は銀行よりも審査に通りやすく、金利も低くなりやすいことがメリットですが、特定のエリア内に所在地のある事業者が契約対象であり、移転する予定がある場合は基本的に利用できないというデメリットがあります。

事業開始前や、開始直後で実績が少ない状態では審査に通りにくい点にも注意が必要です。

5.社債を発行する

メリット ・金利を低く設定できる
デメリット ・発行の手続きや、発行後の処理に手間がかかる
・償還日に一括での返済が必要

社債は企業側が発行する債権なので、金利を低く設定できるなど、銀行の融資と比べると条件設定の自由度が高いことがメリットです。

ただし発行の手続きや発行後の処理に、ある程度の手間がかかります。「少人数私募債」など中小企業が利用しやすい社債もありますが、購入者の勧誘や発行総額の決定など、発行までに多くの手順を踏む必要があります。

発行後についても、負債であることから満期にあたる「償還日」には資金を一括で返済しなければならないことを把握し、あらかじめ資金繰りに問題が起きないよう十分な計画のもとで運用しなければなりません。

6.親族・友人から借りる

メリット ・経営権を保持しやすい
・契約条件の自由度が高い
・審査不要
デメリット ・アドバイスが期待できない
・トラブルのリスクがある

親族や友人から会社名義でお金を借りるというのも1つの手段です。契約条件を自由に決めやすく、審査も必要ないというメリットがありますが、デメリットも多くあるため安易に利用しないよう注意すべき方法です。

銀行などの融資とは異なり、経営のサポートやアドバイスは期待できません。さらに、トラブルにつながるリスクについても十分に把握しておくことが必要です。例えば正式な借用書・契約書を作成しないと、税務署から「贈与」とみなされて贈与税が発生する可能性があります。他にも「親族が出資の仕組みを正しく理解せず、利息や返済を求められる」という可能性もあるかもしれません。

親族・知人だからといって口約束で済ませてしまうなど、軽い気持ちで利用すべき方法ではありません。後のトラブルを防ぐためにも、極力選択しないほうが良い選択肢ではありますが、やむを得ず利用する場合には十分なリスク対策と知識のもとで行う必要があることを覚えておきましょう。

7.自己資金(個人資金)の投入

メリット ・資金用途が限られない
デメリット ・大きな資産を確保するのが難しい
・トラブルのリスクがある

役員などの「個人資金」を会社が借りるという形での資金調達も可能です。

前述のように株式による「出資」の形でも個人資金を投入できますが、「役員借入金」として処理し「融資」の形をとる場合にはデットファイナンスにあたります。

ただしこの方法についても、親族・知人からお金を借りる場合と同様に正式な契約書を作成して、トラブルにならないよう細心の注意が必要です。

資金調達方法3.アセットファイナンスの仕組み・特徴・手法

最後に、3つ目の「アセットファイナンス」による資金調達の方法を解説します。基本的な仕組みや、具体的な手法について、他の方法と比較したメリット・デメリットを含めて詳しく見ていきましょう。

アセットファイナンスの仕組み

アセットファイナンスでは、保有する資産(=アセット)を売却して現金化することで資金調達をします。売却できる資産にはさまざまな種類があり、例えば以下のような資産を保有しているなら、アセットファイナンスを利用できるかもしれません。

  • 不動産
  • 在庫品
  • 知的財産権
  • 事業
  • 売掛債権

売却できるものとして不動産や在庫品などはすぐに思いつくかもしれませんが、特許権や商標権などの「知的財産権」の売却や、M&Aによる「事業」の売却についても候補に入れることができます。

「売掛債権」については、後述する「ファクタリング」によって現金化が可能です。

アセットファイナンスのメリット

アセットファイナンスは利息や配当の支払いが不要で、低コストで資金調達できることが特徴です。

エクイティファイナンスと同じように、担保や保証人が不要で、負債を増やすことなく資金調達できることもメリットといえます。

アセットファイナンスのデメリット

アセットファイナンスは保有資産がなければ利用できないことがデメリットです。

事業の規模や業種によっては、不動産などの資産を保有していないこともあるでしょう。

特に起業初期の段階では、保有資産が少ないのが一般的です。知的財産権や事業、売掛債権などは通常、企業としてある程度の事績がなければ保有できません。創業時の資金調達方法としては現実的ではない選択肢といえます。

アセットファイナンスの具体的な2つの手法

アセットファイナンスでは、単純に保有資産を売却する以外に、以下のような方法もあります。

リースバック

メリット ・短期間で資金調達できる
・売却した資産を引き続き利用できる
デメリット ・リース代金の支払いが必要

リースバックとは、不動産を売却した後に、その不動産を賃貸として利用し続けるという方法です。

不動産の買い手となるのは不動産会社やリースバックの専門業者なので、買い手を募集する期間が必要なく、短期間で売却できることがメリットです。また不動産をそのまま利用し続けることができるため、事務所など「まだ必要な不動産」を資金調達に利用できるという特徴もあります。

ただしこれまでは不要だったリース代金(賃貸料金)の支出が増えるという点がデメリットです。

この方法を利用するには、まず不動産会社などに依頼し、不動産の査定を受けます。査定が終わると売却価格や賃貸料金などの条件が分かり、その条件に納得がいけば成約に進んで資金を受け取るという流れです。

ファクタリング

メリット ・短期間で資金調達できる
・自社の信用度が低くても利用できる
デメリット ・債権の満額から手数料が差し引かれる

ファクタリングとは、未回収の売掛債権を売却して現金化する手法です。請求書や契約書など、売掛金の存在を証明できるものがあれば利用できます。

利用するには、ファクタリング会社への申込みをして審査を受ける必要がありますが、銀行の審査と比べると通過しやすい点がメリットです。申込みから入金までの期間も短く、すぐに資金調達をしたい場合に適しています。

ただし売掛債権の満額を受け取れるのではなく、手数料が差し引かれた金額が入金されるという点は1つのデメリットです。

資金調達方法4.補助金・助成金の活用・その他

3タイプ以外の資金調達方法として「補助金・助成金」が挙げられます。前掲のfreee finance lab株式会社の調査によると、助成金を利用している企業は「33.3%」と、融資に次いで多い割合です。

補助金・助成金のメリットとしては、返済が不要で、低コストで資金調達ができることが挙げられます。ただし「後払い」が多いため、一旦は費用を負担する必要があることに注意が必要です。また全額ではなく一部支給の場合も多いため、条件を十分に確認したうえで利用する必要があります。たとえば、申請・承認後300万円使った後に、その利用実績を申請して再度承認されれば200万円を補填する、というようなものです。よって、初期の原資は別で確保する必要が出てきてしまうため起業時の資金調達には向かないと考えたほうが良いでしょう。

地域によって利用できるものや条件が異なる場合がありますが、以下では行政の管轄で全国的に利用できるものとして代表的な補助金・助成金と、その他の方法としてクラウドファンディングを紹介します。

補助金・助成金については2022年2月時点での情報です。最新の情報は公式ページよりご確認ください。

小規模事業者持続化補助金

商工会議所が管轄する小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が「販路開拓」や、それに合わせて行う「業務効率化」を実施する場合に利用できる補助金です。

新型コロナウイルス感染症による影響を受けた事業者が対象の「持続化給付金」とは別の制度なので、混同しないようにしましょう。

事前に提出した事業計画書に基づいて必要な費用を負担し、その後に費用の一部を補助されるという流れです。

申込みをするには、管轄の商工会議所に必要書類を提出します。年に数回の受付締切が設定されているので、公式サイトで事前のスケジュール確認が必要です。

事業再構築補助金

中小企業庁が管轄する事業再構築補助金は、新型コロナの影響によって売上が減少している事業者が、「新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編」などに取り組む場合が対象です。

申込みは公式サイトからの電子申請によって受け付けています。

キャリアアップ助成金

厚生労働省の管轄するキャリアアップ助成金は、非正規雇用者の正社員への転換などを実施した事業者が対象です。キャリアアップを実施した雇用者の「人数に応じた金額」の支給を受けることができます。

申込み書類の提出先は、管轄の労働局です。こちらもいくつかの要件を満たす必要があるため、事前に厚生労働省のWebサイトを確認しておきましょう。

クラウドファンディング

クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数から少しずつ資金調達をする方法です。

「寄付型」「購入型」「融資型」などいくつかの種類があり、「株式型」はエクイティファイナンスに分類されます。

インターネットを通じてファンの育成ができることがメリットですが、多くの人に賛同を得る必要があり、目標金額に達するまでに時間がかかることがある点がデメリットです。

また「株式型」の場合、上場前から個人の株主が無作為に増えてしまうため、その株主との手続きが煩雑になりやすくなります。さらにベンチャーキャピタルに出資してもらう際に嫌われる要素になる可能性がある点もデメリットです。

クラウドファンディングは近年注目されつつある資金調達方法ですが、多くのデメリットもあることを十分に理解し、安易に利用しないほうが無難と言えるでしょう。

資金調達についてよくある疑問とその回答

資金調達を検討するうえで発生しがちな悩みや疑問について、その回答を以下にまとめています。

担保や連帯保証人は必要?

株式発行やアセットファイナンスによる資金調達の場合には担保や連帯保証人は必要ありませんが、融資を受けるには必要な場合があります。

ただし融資でも、「日本政策金融公庫の融資」や「制度融資」などは、担保や連帯保証人は必要ありません。

事業計画書は必要?

融資や補助金・助成金を利用する場合には、審査のために事業計画書の提出を求められる場合があります。出資を受ける際にも、投資家へのアピール材料として事業計画書を作っておくことは重要です。

また事業計画書は、資金調達のためだけに作るものではありません。ビジネスを軌道に乗せ、安定させるためにも、事業計画書は必須です。
地図のない航海にならないよう、融資や補助金・助成金を利用しない場合でも、経営に事業計画は欠かせないツールであることを認識しておきましょう。

資金調達のタイミングをどのように見極める?

資金調達は、常に先を見て早めにアクションを起こすことが重要です。運転資金が足りなくなってから動き出すようでは、希望通りの調達を行うのは非常に厳しいと言えるでしょう。

融資の場合、資金調達にかかる時間は、申込み手続きが完了してから「3ヶ月~半年」が目安です。申込みの準備までにかかる時間も考えると、遅くても資金が必要になるタイミングの8ヶ月前には金融機関と話を始める必要があります。

さらに「資金が必要になるタイミング」の見極めについても、資金が完全に尽きる前に、少なくとも数ヶ月は余裕を持たせて計画することが重要です。収支計画を十分に行い、遅くてもキャッシュが枯渇しそうなタイミングの1年前には、資金調達に向けて動き出せるようにしましょう。

まとめ

資金調達は、会社の立ち上げや運転資金が枯渇した時だけでなく、攻めの姿勢で会社を成長させるためにも必要で、経営のカギを握る重要な要素です。

資金調達を成功させるには、さまざまな資金調達手法を十分に比較・検討し、自社の状況・戦略に合った最適な方法を選び出す必要があります。

手法ごとに使いやすい時期・タイミングが異なる点にも注意が必要です。例えば、創業間もないタイミングでエクイティファイナンスを安易に選択すると、後々の重大なトラブルにつながるリスクもあります。

また、まとまった資金調達をするには、長期の手続き・審査や、定期的な銀行や投資家との関係構築が必要になるケースが多いため、資金調達後も、経営状況を常に事業計画と照らし合わせながら計画的に行動し、関係者との情報共有を欠かさずに信頼関係を構築ことも必要です。

資金調達についての十分な知見とスキルを持つことは、経営者として成功するために不可欠な要素だといえるでしょう。