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フリーアドレスとは?オフィスへ導入する際のポイントをメリット・デメリットとあわせてご紹介

近年、テレワーク導入によって出勤者が少なくなった企業や、多様な働き方を推進したい企業でフリーアドレスの導入事例が増えてきました。森ビル株式会社による「2021年 東京23区オフィスニーズに関する調査」では、東京23区内の企業でフリーアドレスを導入したのは32%(導入予定も含めると43%)。2019年に行われた同調査では、19%(導入予定も含めると29%)であったことからも、フリーアドレスを導入した企業が増加していることが分かります。

しかし、いざ自社に導入するとなると、大規模なレイアウト変更やそれに伴うルール・規則の変更が想定されることから、自社にマッチするか慎重に検討したい企業も多いのではないでしょうか。

この記事では、フリーアドレスの導入を任された担当者や経営者に向けて、フリーアドレスとは何かをはじめ、メリット・デメリット、どんなことを何から始めたらいいのかをご紹介します。また、昨今話題となっているオンライン商談対応や、コミュニケーションの活性化など、目的ごとの導入例や成功のポイントもあわせて紹介していますので、フリーアドレスを既に導入された企業も自社施策に活用いただければと思います。

1.フリーアドレスとは?
1-1.フリーアドレスとは、固定の席はなくオフィス内のどこでも働けるスタイル
1-2.フリーアドレスとABWとの違い
2.フリーアドレスを検討する際のポイント
2-1.フリーアドレスのメリット
2-2.フリーアドレスのデメリット
2-3.フリーアドレスをオフィスに導入する目的は明確に
2-4.フリーアドレスに最適なオフィスのレイアウトを考える
2-5.フリーアドレスに適した家具・什器を選ぶ
3.生産性を上げる!スペースから見るフリーアドレスのおすすめ導入例
3-1.防音性の高い空間でオンライン商談、周囲を気にせず個人ワークに集中
3-2.数人でディスカッション、リラックスして会話
4.フリーアドレスを成功させるコツ
4-1.集中できるスペースを確保
4-2.ペーパーレス化を進める
4-3.オフィス外でも働ける環境を整備
4-4.フリーアドレス後はオフィスのルールが重要
5.まとめ

フリーアドレスとは?

近年より耳にするようになった「フリーアドレス」という言葉ですが、ここでは改めてフリーアドレスの定義や導入する目的、普及が進んでいる背景などを確認していきます。また、フリーアドレスの考え方をさらに推し進めた「ABW」との違いもご説明します。

フリーアドレスとは、固定の席はなくオフィス内のどこでも働けるスタイル

フリーアドレスとは、個別のデスクがなく、空いている席を自由に選んで業務をするオフィスのスタイルです。社内のどの席も自由に選べる「完全フリーアドレス」や、部署やグループごとにエリアを設ける「グループアドレス」など、企業が実現したい働き方や業種に適した運用方法があります。

フリーアドレスの特徴として、オフィススペースの有効活用や、従業員同士のコミュニケーション活性化が挙げられます。元々は外出が多い営業部などの作業スペースを有効活用するためのスタイルでしたが、現在は、働き方改革に伴うテレワークの導入により出勤者が減ったことで、フリーアドレスを採用する企業も増えています。

またフリーアドレスの採用を多くの企業が検討できるようになったのは、ペーパーレス化やクラウドサービスなどのICTの進化も後押ししています。ノートパソコンが1台あれば、どこでも仕事ができるケースが増えてきました。そのため、一般的にフリーアドレスが向くのは、テレワーク導入などの働き方改革を推進しており、オフィス外でも仕事ができる従業員が多い職場とされています。

フリーアドレスとABWとの違い

フリーアドレスとよく混同される言葉に「ABW」という考え方があります。ABWとは「Activity Based Working」の略で、オランダのワークスタイルコンサルティング企業が提唱したとされる「活動に応じて自ら働く場所を選ぶ」働き方のことです。ABWはグローバル企業を中心に広がっていき、日本においてもIT企業やクリエイティブ系企業などで導入されています。

ABWでは、勤務中の活動内容により、それぞれ自分で適切なスペースを選ぶことを促します。例えば、高い集中力が求められる活動なら、パーテーションの設けられた席や周りの音が気にならないスペースを選ぶことが考えられるでしょう。また、企画会議やブレインストーミングなどであれば、会議室やオープンなミーティングスペースなどが選択肢として考えられます。

従業員の働きやすさやパフォーマンスの向上を重視している点はどちらも共通していますが、ABWがフリーアドレスと違う点は、オフィス以外の働き場所もあるということです。テレワークで在宅勤務したり、コワーキングスペースで働いたりする方法も選択肢に入ります。

フリーアドレスを検討する際のポイント

フリーアドレスを検討する上で気になる点は、やはり「どのような効果が期待できるのか?」「自社にマッチするのか?」ではないでしょうか?そのためにはフリーアドレスを導入する前に、メリットとデメリットの両面をよく知っておくことが重要です。あわせて、フリーアドレスを導入する目的を明確にしておき、自社に合ったレイアウトを選ぶことが大切です。

フリーアドレスのメリット

前述のとおり、フリーアドレスを導入することで、オフィススペースの有効活用やコミュニケーションの活性化、また、従業員の主体性の向上に紐づく業務効率化などの効果を期待できます。

オフィススペースを有効活用できる

フリーアドレスはテレワークや外回りの従業員の固定デスクが必要ないため、スペースを有効活用できます。一般的なオフィスでは、不在の人の固定デスクがデッドスペースになってしまいますが、フリーアドレスでは別の従業員の作業場所として使えます。

特に在席率が低い職場では、大幅にスペースを削減できるケースもあるでしょう。スペースが空けば、カフェスタイルの休憩スペースを設置したり、数人でディスカッションできるスペースを設けたりするなど、従業員の満足度向上に繋がる多彩なスペースを設置する自由度も広がります。

また、間接的な効果としては、個人の私物が減ってオフィスがすっきりしたという声もよく聞かれます。デスクがあると資料や郵便物、文房具などがたまりがちです。なかには仕事以外の私物も自席近くに置く人もいるかもしれません。フリーアドレスにすると、仕事に最低限必要なものだけ持つようになるため、自然と環境美化が進むようです。

コミュニケーションが活性化される

フリーアドレスにすると、普段交流のない人とも近くの席になることで人間関係が広がりやすく、固定席に比べコミュニケーションが活性化されます。「日立製作所と大阪ガスの実証実験」では、フリーアドレス型オフィスでは固定席型オフィスに比べて、上司との対面コミュニケーションを行っている回数および時間が2倍になる、という結果も出ています。

社員が自立的であれば、部署やグループを横断する「完全フリーアドレス」の場合、偶発的な会話の中で視野が広がったり、コラボレーション効果でアイデアがひらめいたりということも期待できます。

また、同じ部署やグループでフリーアドレスを活用する際にも、今の業務に合わせて、柔軟に席を変えられるのは便利です。例えば、共同で企画書を作成したり、ソフトウェアの接続テストをしたりする場合などでは、当事者同士の席が近いと作業が捗るでしょう。

従業員の自律性が高まる

フリーアドレス制を導入すると、従業員の自律性を高める効果も期待できます。その大きな理由は、集中して作業できる場所を自分で選んだり、共同作業のためにメンバーで集まったりするなど、自主的に業務を効率化する方法を考える習慣が付くためです。

従来のフリーアドレスがスペースの有効利用を目的にするのに対し、現在のフリーアドレスでは、企業は生産性を上げるために従業員の柔軟な働き方をサポートし、従業員は自身の働きやすい自由な働き方を推進することで、生産性を高める目的も含まれることが特徴です。それは先に紹介したABWにつながる効果も期待できます。

フリーアドレスのデメリット

フリーアドレスを無理に導入すると、作業効率が下がる場合があります。また、マネジメントに支障が出るリスクも考慮しておきましょう。

業務に集中できない人も一定数発生する

自席が決まっていないと、業務に集中できない人は少なからずいます。フリーアドレスのスペースは共同作業にも使われるため、周囲の会話や雑音が耳に付く人もいるでしょう。知らない人と隣同士になることで、気を遣う人もいるかもしれません。

また、ITリテラシーが低いために業務の能率が下がってしまうケースもあります。フリーアドレスでは、紙の文書やファイルを協力減らし、かわりにデジタル文書の閲覧・編集を主にすることが多く、コミュニケーションもITツール中心です。一概には言えませんが、新しいツールに抵抗感が強い方ほど、こうした業務にストレスを感じる傾向があります。

フリーアドレスに不向きな業務もある

フリーアドレスに向かないと言われる部署、業務もあります。例えば以下のような業務です。

部門 理由
経理や財務・人事 ・紙文書が必要なことが多い
・機密情報を扱う機会が多い
製造・開発・制作 ・特別な工具が必要
・高性能なデスクトップパソコンでないと業務に支障が出る
カスタマーサポート ・顧客との電話やオンライン商談などの声が、周りの迷惑になる場合がある

特に、近年問題になっているのは、オンライン商談やテレワーク勤務者とのweb会議が頻繁にある場合です。一般的な業務でも、フリーアドレスのスペースでオンライン会議を行うようになったため、周囲の迷惑になる状況があります。かといって、一人のために会議室を使うのも非効率なので、悩みの種になってしまうリスクがあります。

これらはレイアウトの工夫やフリーアドレスに適した家具・什器の導入によって改善できます。対処法については、後ほど詳しくご紹介します。

マネジメントをしにくくなる

フリーアドレスを導入したことによって、上司が部下をマネジメントしにくくなるという声も聞かれます。「上司と部下のコミュニケーションが減った」という声もあれば、「誰がどこにいるかわからず困る」という状態になってしまうケースもあるようです。

そのような場合は、フリーアドレスの導入と共に、ITツールをベースとしたコミュニケーション制度の設計も進めましょう。例えば、ビジネスチャットツールやWeb会議システムなどを活用すれば、上司と部下がいつでもコミュニケーションがとれる状態にしておくことが可能です。あわせて1on1ミーティングなど、業務上・プライベート上の課題を定期的に会話する機会を持つことで、コミュニケーション不足を補うことができます。

従来のマネジメント方法から急に移行するのが難しい場合は、フリーアドレスに適した部署、グループから順に、グループアドレス方式で導入を進める方法もあります。この場合、オフィスレイアウトを段階的に変えていくことを視野に入れ、家具や什器を選定することをおすすめします。

フリーアドレスをオフィスに導入する目的は明確に

ここまでフリーアドレスのメリットとデメリットをご紹介してきましたが、フリーアドレスを導入する上ではまず、目的を明確にしておくことが何より重要です。株式会社ザイマックス不動産総合研究所の「大都市圏オフィス需要調査2021秋」からも最近の企業がオフィスにどのような価値や役割を期待しているのかを見てとれるように、1位の「社内のコミュニケーション活性化」(64.9%)など上位に入ってくる目的は、フリーアドレスの特徴に親和性の高い項目が多いことが見えてきます。

一例として、よく指標とされる目的と内容を大きく以下の4つに分類しています。この他にも「従業員の満足度向上」や「社内風土の醸成」など企業ごとに目指したい姿に沿って、自社に合わせてさらに具体化していきましょう。主要な目的の優先順位を決めることで、フリーアドレスを適用する範囲やレイアウトの方針が決まります。

目的 内容
オフィスの効率化 ・オフィススペースの削減
・賃料や光熱費などのコストカット
・テレワーク導入への対応
コミュニケーション活性化 ・部署やグループを横断した交流の促進
・業務に合わせて柔軟にメンバーが集まれる環境の整備
従業員の生産性向上 ・集中しやすい環境を自分で選べるようになる
意識改革 ・自席をなくすことで多様な働き方やABWを促進
・セルフマネジメント力を向上させる

目的を決める際には、従業員の意見や要望も聞き取り、ディスカッションできる機会を設けることも大切です。経営者層や責任者と従業員の間に共通意識を持つことで、フリーアドレスの定着がスムーズになります。

さらに、目的を明確にした後は、影響が出る部署すべてにアナウンスするとともに、丁寧な説明も行いましょう。元々自席があった場合、自席がなくなることへの不安などを未然に防ぐことにもなります。

フリーアドレスに最適なオフィスのレイアウトを考える

次に、自社に合ったフリーアドレスのレイアウトを考えます。レイアウトを決める際には、フリーアドレスの適用範囲を明確にしておくことが重要です。先に紹介したように、部署単位でも向き・不向きが分かれるため、フリーアドレスに移行しやすい部署から段階的に導入するのもよい方法です。

レイアウトを決める際には、目的に沿ったスペースの割り当てが必要です。例えば、コミュニケーション活性化が目的なら、実務をメインで行うスペース以外にも、数人が集まれるソファスペースやスタンディングでミーティングできるスペースもいいかもしれません。また、集中して作業したい従業員が多い場合は、パーテーションのある集中作業ブースを設置したりとスペースの割り当てを考えていきます。

フリーアドレスに適した家具・什器を選ぶ

フリーアドレスには、従来のオフィスと違う家具や什器の特徴があります。必要に応じて導入し環境を整えましょう。代表例をまとめたのが以下の表です。

家具・什器 特徴
大型のテーブル ・4~10人ほどがフレキシブルに利用できる大型のテーブル
・個々の作業スペースとして利用したり、数人でミーティングしたりと、1台で複数の業務に対応可能
チェア ・集中作業用なのかリラックス用なのかという用途と、座る人の体型や好みによっても様々な種類があるため、試しながら最適なチェアを見つけることが理想
移動式ホワイトボード ・ホワイトボードとしての機能はもちろん、簡易的な間仕切りとしても使用可能
ロッカー・収納 ・自席がなくなるため、個人の荷物を収納するパーソナルロッカーや収納スペースが必要となることが多い
ミーティング用ワークソファ ・3~4人程度のオープンなミーティングブースとして利用可能
・セミクローズなファミレス型のミーティングブースを設置する企業も多い
オンライン会議用ブース ・周囲の環境が変化しやすいフリーアドレスでは、オンライン会議用のスペースとして人気が高まっている
・周囲の会話や雑音をさえぎる防音遮音性の高い電話ボックスタイプから、視線を遮るための簡易的なブースまで、様々な種類の商品が出てきている

家具・什器は従業員満足度に直結する要素なので、フリーアドレスを成功させるための重要なポイントです。導入時には利用頻度が高い部署や従業員の意見を取り入れましょう。

例えば、簡易的なチェアでは集中できない人や、疲れやすくなってしまう人もいます。特に、長時間のデスクワーク中心の業務では、座り心地のよい高品質なチェアを選ぶことをおすすめします。さまざまな人が利用することを想定し、高さや角度などが簡単に調整できることもポイントです。

フリーアドレスでは、その時々の業務や周囲の環境によって、気軽に移動できることが特徴です。ゆえに「周囲の音を気にせず個人作業に集中」したり、「数人でディスカッション」したり、それぞれの目的に応じた家具・什器が設置されたスペースが必要となります。

費用を抑えるため自分たちでフリーアドレス化を始める場合は、自社の働き方にマッチしたスペースを見つけるため、家具・什器を試せるサービスを利用することも検討されてもいいかと思います。一方で、どのようなスペースを配置するのかレイアウトを考慮しつつ、適切な家具・什器を選定するには時間と手間がかかるため、専門企業に相談することもおすすめです。

生産性を上げる!スペースから見るフリーアドレスのおすすめ導入例

自社の働き方にマッチした環境・スペースを考えていく上でここでは、フリーアドレスで生産性を上げるためにおすすめな環境構築例を2つご紹介します。1つ目は、近年急増しているオンライン商談や会議への対策で、2つ目はコミュニケーション活性化のために設置しておきたいオープンなミーティングブースについてです。自社の環境構築を検討するのにお役立てください。

防音性の高い空間でオンライン商談、周囲を気にせず個人ワークに集中

コロナ禍によってオンライン商談が急速に増えるなか、周囲の雑音が気にならず、周りに迷惑をかける心配もないスペースの確保が重要になっています。特にフリーアドレスを導入すると、人の行き来が多くなったり、他部署の従業員が近くにいたりすることで、何かとストレスに感じる場面が少なくありません。

そこでおすすめなのが、個室ブースの設置です。昨今、電話ボックスのようなタイプから、視線を遮るための簡易的な間仕切りブースまで、様々な種類の商品が出てきていますが、オンライン商談の急増に伴い押さえておきたい要素は「防音・遮音性の高さ」ではないでしょうか。

防音・遮音性の高い個室ブースを使えば、周囲に気をつかうことなく大切なオンライン商談や電話商談に集中できます。また、高い集中力を伴う業務や慎重な作業を行うときも周囲の音を気にせず自分だけの集中スペースとして利用できるでしょう。1人用のブースから4人程度まで一緒に利用できるタイプもあるため、秘匿性の高い会話やメンバーとの1on1など、スポット的に活用できるのも便利です。

また一般的に個室ブースは設置型なので、オフィスの工事は不要です。内装工事を行い会議室をつくろうとすると費用はもちろん、利用できるまでの時間や手間も大きいことに比べ、設置するだけで使用可能な最小単位の会議スペースとして活用できることは大きなメリットです。最近では購入する以外にもレンタルやサブスクリプションでも提供されているので、初期費用をかけずに導入または試してみることができる商品が増えています。

個室ブースについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

数人でディスカッション、リラックスして会話

個室ブースと組み合わせたいのが、数人でリラックスしてディスカッション、会話ができるオープンなミーティングスペースです。情報交換の相手が流動化しやすいフリーアドレスでは、ふとしたきっかけでアイデアが生まれることもよくあります。

複数人で使用できるソファを並べたスペースや複数台のチェアを並べた大型のテーブルなどのオープンなミーティングスペースは、打ち合わせや個々の作業スペースとして利用することはもちろん、雑談や日常会話など自由なコミュニケーションをとる場として多目的に活用できます。運用次第ではフリーアドレスによってマネジメントしにくくなったというデメリットを補うための交流スペースとして役立てられるでしょう。

フリーアドレスを成功させるコツ

ここまでフリーアドレスを成功させるためには、目的を明確にし、業務の実態に合わせてスペースを確保することが大切であることをご紹介してきました。あとは導入するだけ、と言いたいところですが最後に「優先して考慮しておいた方がよいこと」と「運用ルール」も確認しておきましょう。

目的にあわせた適切なスペースが構築されていても運用ルールがなければ、「フリーアドレスなのに席が固定されてしまう」「騒がしい人がいて集中できない」などの事態が起こってしまい、フリーアドレスが有効に機能しません。また、ペーパーレス化や在宅勤務環境の整備など、フリーアドレス導入と並行して取り組むべき施策もありますので、あわせて見ていきましょう。

集中できるスペースを確保

まず、空いている席を自由に選んで業務をするフリーアドレスでは、各メンバーがさまざまな業務で利用することを想定し、先にあげた個室ブースのように、スポット的に利用できる集中スペースを優先的に用意しておくことが効果的です。個室ブースまでいかなくともパーテーションで仕切られた作業スペースを確保しておくだけでも⾳や視線の影響を受けにくく、作業効率アップが期待できます。

オフィススペースに余裕がない場合は、デスクに設置できる簡易的な卓上パーテーションを導入するのもよい方法です。向かいや隣の人の視線をシャットアウトできるので、集中しやすくなります。個室ブースほどではありませんが、多少の遮音性もあるため、ちょっとしたオンライン会議をする際も便利です。

ペーパーレス化を進める

そしてフリーアドレス導入にあわせてに進めておいた方がいい対策が、ペーパーレス化です。フリーアドレスでは基本的にノートパソコン1台を持ち歩いて、自由に席を選んで作業をすることが多いので、可能なかぎり紙媒体の文書を減らしておく必要があります。

共有する文書などが紙媒体の場合、保管している場所に取りに行ったり戻しに行ったりと業務が非効率になることや、保管場所近くの席の固定化が促進されてしまう懸念が考えられます。ITツールを導入し、共有で使う文書などをクラウドまたは社内サーバーで閲覧・編集可能にしておくことで、業務進捗などの情報共有がより円滑になる効果も期待できますので、フリーアドレスとあわせて導入することをおすすめします。

あわせて、勤怠管理や現在の居場所の確認などもオンライン上でできるようにしておけば、誰がどこで何をやっているのか、という情報も共有できるため、マネジメント視点でもメリットが大きいです。

オフィス外でも働ける環境を整備

最近ではフリーアドレスをハイブリッドワークの一環として取り組む企業が増えています。ハイブリッドワークとは、オンライン上で完結する仕事をリモートにしつつ、部分的にオフィス出社を取り入れる方法です。

ハイブリッドにすることで、対面で質の高いコミュニケーションを行う機会を確保しながら、実作業はテレワークによって効率化を図れるという利点があります。部分的にテレワークを導入するハイブリッドワークであれば、オフィス環境を快適にすることも重要になるため、業務内容や目的に応じた空間を作ることのできるフリーアドレスと組み合わせやすいことが特徴です。

ハイブリッドワークを実現させるためのポイントは、オフィスワークの方でもテレワークの方でも共同作業しやすいインターネット環境を構築することです。例えば、会議室にオンライン会議用の機器を常設する企業も増えてきました。また、コミュニケーションツールや勤怠管理ツールなど、ITツールの導入も欠かせません。

ハイブリッドワークを実現させるための設備投資は、フリーアドレスを円滑に運用するための施策と重なる部分が少なくありません。そのため、フリーアドレス導入とハイブリッドワーク推進を並行して取り組むのは効率的です。新しい働き方に合った業務体制を整えられればABWの促進にもつながり、より生産性の向上も見込めます。

フリーアドレス後はオフィスのルールが重要

あとはフリーアドレスを維持するための社内の運用ルールの作成です。フリーアドレスを導入したものの、様々な問題が発生している企業は多いのではないでしょうか?「自主的に業務を効率化する方法を考える」ことに繋がるメリットの副作用とも言えますが、あまり細かなルールを強いてしまうと、従業員の自主性を損なう恐れもあるため、最低限のルールを設定することもポイントです。よく聞かれる問題点と対策のためのルールの一例を、以下に示しています。

問題点 対策ルール
フリーアドレスなのに、席が固定されてしまう ・毎日席を変えるルールにする
・全員が確認できる共通のカレンダーツールなどを用いて、商談やミーティングなど用途ごとにスペース利用の優先順位を付け、席がバッティングしないルールをつくる
上司が部下に自分の近くで作業するように指示する 席を選ぶ自由があることを明文化して、周知徹底する
デスクを汚したまま移動する人がいる 机を掃除してから移動するルールを設ける
重要書類の紛失が増える ・クリアデスク(離席の際に書類や記憶媒体を放置しない)ルールを設ける
・必要がない限り、紙文書は持ち歩かないルールにする
騒がしい人がいて集中できない オンライン会議は個室ブース、数人で話す際はミーティングスペースを利用するルールにする
どこに誰がいるかわからない 出退勤および移動時に、カレンダーツールやビジネスチャットツールなどで現在地情報を共有し、更新するようにする

従業員が参加意識を持ちながら、よりよいフリーアドレス環境を整えるルールを作っていくことが大切です。

まとめ

フリーアドレスはもともと限られたオフィススペースを有効活用するために導入されてきました。しかし、現在はコミュニケーションを活性化して風通しのよい社風を作り上げるためや、従業員自らに生産性の高い作業場所を選んでもらうなど、一歩進んだ活用法が求められています。

ただし、やみくもにフリーアドレスを導入してしまうと、周囲の雑音が気になって仕事に集中できない従業員が増えてしまったりと、フリーアドレス本来の効果が期待できません。そのためフリーアドレスを導入する際には、まず何のためにフリーアドレスを導入するのか、目的を明確にしておくことが何より重要です。その目的に沿った具体的なツール、家具・什器やレイアウトは、プロのサポートも活用しつつフリーアドレス化を進めていくことをおすすめします。