人事評価とは?制度の作り方や導入ステップ、よくある問題点や疑問を解説
人事評価は、マネジメントや事業運営に不可欠な制度の1つです。大企業に限らず、起業したばかりの小規模な会社でも、社員のパフォーマンスを評価することの重要性は共通しています。
その一方で、人事評価制度が適切に機能しておらず、社員が人事評価に不満を持っている企業が多いのも実情でしょう。
人事評価を機能させるには、制度設計・運用に多大な労力をかけ、慎重な判断をしていくことが必要です。
このコラムでは人事評価制度の概要と必要性、そして人事評価制度を適切に設計して運用する方法について解説します。経営者や人事評価担当の方に役立つ記事となれば幸いです。
2.人事評価の現状
3.人事評価設計で気を付けたい4つのポイント
3-1.ポイント1:制度を複雑にしすぎない
3-2.ポイント2:評価基準を決め切りすぎない、遊びを持たせる
3-3.ポイント3:評価者の意識を高める
3-4.ポイント4:事業に合わせた評価頻度を設定する
4.人事評価を設計するための6つのステップ
4-1.ステップ1:人事評価の目的を設定する
4-2.ステップ2:評価の枠組み・仕組みを決める
4-3.ステップ3:評価項目を決める
4-4.ステップ4:評価と待遇を連携させる
4-5.ステップ5:評価者研修、全社員への説明会の実施
4-6.ステップ6:評価・フィードバックの実施
5.あわせて考えたい:等級制度・報酬制度の概要と人事評価の関係性
5-1.等級制度
5-2.報酬制度
6.まとめ:人事評価のポイント
人事評価の定義・必要な理由
「人事評価制度」とは、企業の目標に対する社員のパフォーマンス・生産性などを定期的に評価する制度です。
人事評価はマネジメント・組織運営において必須のものであり、企業規模の大小に関係なく「必ず行うべきもの」といえます。
人事評価が重要な理由は、主に以下の3つです。
- 企業の理念・ビジョン・目標を実現するため
- 社員のモチベーションを確保し、長期的・計画的な能力育成を促進するため
- 人材を最適に配置し、待遇の公正さを担保するため
逆に人事評価を行わないことは、上記3点の達成が難しくなるということです。つまり、企業の目標やビジョンを達成できなくなり、社員のモチベーション低下や、社員の待遇・評価に対する納得度の阻害を招きます。
特に中小企業の場合は、社員1人ひとりの業務への寄与度が高く、各自の目標設計が強く求められます。小さな企業こそ一層、人事評価に気を配るべきです。
人事評価の現状
一方で、人事評価制度を作っただけでは、それが適切に機能するとは限りません。
「日経BPコンサルティング」の2018年調査によると、「あなたはお勤め先の人事評価制度に満足していますか」という質問に対して「不満」と答えたのは62.3%という高い割合でした。人事評価が存在していても、それが適切に機能せず、社員の不満につながっているケースが多いことが分かります。
人事評価制度を作るだけでなく、その目的を適切に設定し、効果的な「運用方法」まで把握することが重要です。
人事評価設計で気を付けたい4つのポイント
前述の調査結果を見ると、人事評価で不満が発生しやすいポイントは主に次の4つの点です。
- 評価の基準が分かりにくい・納得できない
- 評価が待遇に結びつかない
- 評価者によって違いがある・ブレがある
- 評価フロー・フィードバックが不明確
上記を踏まえると、人事評価は前提として「評価基準を定性的・定量的に明確にすること」が重要だといえるでしょう。
また「達成度合いによる昇給・降給の幅を明示すること」や、「評価フローやフィードバックの体制を明確にすること」も必要です。
実際に人事制度を設計する前に気をつけたいポイントを4つ解説します。
ポイント1:制度を複雑にしすぎない
ありがちな失敗として、公正を期すあまり評価基準を盛り込みすぎて、「運用や修正が追いつかない」といった点が挙げられます。
人事評価は、評価指標をシンプルに「1つか2つの指標」によって運用することが望ましいでしょう。
具体的には、役職に合わせた各チーム・個人の目標(売り上げなどの経営数値)を設定し、それに対する進捗を確認するといったシンプルな運用方法が望ましいです。
ポイント2:評価基準を決め切りすぎない、遊びを持たせる
評価基準をシンプルにする一方、その基準だけをもって杓子定規に運用することも避けたいものです。
例えば「目標を達成できない場合は評価を下げる」という運用にした場合、当人の努力や避けようのない市況の変化などの要素をそぎ落とすことになり、被評価者のモチベーションを著しく下げてしまいます。
そこで数値目標だけでなく、「自社のバリュー体現度」といったある程度余白のある指標を組み合わせる評価方法がおすすめです。
例えば、メルカリのように急成長してきた企業では、OKR(Objective and Key Result:目標と主要な結果)による評価と、「自社のバリュー体現度」による評価を組み合わせています。OKRとバリュー体現度の割合は社員に開示されておらず、杓子定規ではない「バッファのある運用」となっていることがポイントです。
ポイント3:評価者の意識を高める
人事評価の肝となるのが、「評価者」であるマネージャーや経営者です。
部下やメンバーを「好き嫌い」で評価するのは論外として、次の点に気をつける必要があります。
- 社員に対して真摯に向きあう
- 目標達成が難しい社員のフォローやカバーをする
- 評価の理由や改善点を伝える
- 低評価をつける場合は必ずフォローする
前提として、生活の大半の時間を費やしてくれている社員に対して、「真摯」に向き合うことを忘れないことが必須です。
目標達成に向かう途中も定期的な進捗確認を実施し、部下やメンバーが目標に対してビハインドしている場合は、フォローアップやカバーのための施策を考えましょう。
また単に評価を行うだけでなく、その「理由」や「改善点」などを明確に伝え、合意するように努めることも大切です。
「低評価」をしなければならない場合は、被評価者へのフォローアップを徹底し、モチベーションが低下しないように注意する必要があります。
上記の点を徹底することで、人事評価制度が形骸化しないようにします。いずれも手間がかかる活動ですが、その手間を惜しまないように意識することが、人事評価の成功には不可欠です。
ポイント4:事業に合わせた評価頻度を設定する
人事評価は「半期ごと」に実施するのが一般的ですが、事業の段階や特性に応じて、評価頻度を柔軟に調整することが重要です。
例えば、成長著しいSaaS系の企業などの場合、短いスパンで事業目標や社員に求める内容が変わってくるので、「四半期ごと」の細かい目標確認がなじむケースも多くあります。
一方、大企業や重厚長大産業などは頻繁な方針転換が行われることは少なく、むしろ長期的な成長・事業の運営が必要となるため、短いスパンで人事評価をする必要性は低いでしょう。
人事評価を頻繁に実施するほど、手間やコストが大きくなるため、事業スパンに合わせた運用が望ましいといえます。
人事評価を設計するための6つのステップ
人事評価を設計するうえで重要なポイントは、「経営者」「評価者(マネージャー)」「被評価者(社員・メンバー)」の目線が一致していることです。加えて、評価設計そのものを目的とせず、効率的・効果的な「運用」ができるように検討することが挙げられます。
ステップ1:人事評価の目的を設定する
まずは「目的」の具体化です。
なぜ人事評価を行うのかについて、売り上げなどの「事業目標」や、「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の体現」、「公平性の担保」といった観点から検討しましょう。
これらの目標に対して「人事評価がどのような機能を持つのか」を具体的に検討することで、「目的意識」のある人事評価制度を設計しやすくなります。
ステップ2:評価の枠組み・仕組みを決める
次に、設定した目的に対応する「評価手法」を決める段階です。
さまざまな評価手法がありますが、「事業目標の達成に資するか」「運用が可能か」「公平性を担保できるか」などの観点から、どの手法を導入するかを検討しましょう。具体的には下記のような手法などが知られています。
- OKR
- 360度評価
- MBO
- コンピテンシー評価
- ノーレイティング
「OKR」は、事業目標を定性的な目標(Objective)と、定量的な主要な結果(Key Results)に分解し、定期的な確認を行う手法です。
「360度評価」では、評価者だけでなく、同僚・部下の評価を集めて人事評価を行います。
「MBO」とは、「Management By Objectives」(目標による管理)の略で、個人・グループごとに目標を設定し、それに対する達成度を評価する制度です。
「コンピテンシー評価」とは、ハイパフォーマーに共通の行動特性を基準として評価基準を作成する手法を指します。
「ノーレイティング」は、社員のランク付けを行わず、定期的な1on1ミーティングなどによるリアルタイムの目標設定・マネジメントを行う手法です。
さまざまな手法のメリット・デメリットを比較し、自社に合ったものを選択する必要があります。
ステップ3:評価項目を決める
評価の方法だけでなく「評価項目」、つまり「社員の何を評価するか」も決めていきます。
社員にどのようなことを求めるのか、事業部門や等級ごとに担保すべき業績や数値の範囲、スキルセット、マインドや行動を規定し、評価項目を具体化していく段階です。
評価項目は大きく分けて以下の3種類に分類できることを意識すると、整理して考えやすくなります。
- 成果評価:業績・売上などの成果による評価
- 能力評価:企画力・行動力などの能力による評価
- 情意評価:意欲や態度などの情意による評価
評価項目を決める際にも「人事評価の目的」に沿うように注意し、項目の種類や、項目ごとの比重を調整することが重要です。
ステップ4:評価と待遇を連携させる
人事評価と給与・役職などの「待遇」を、どのように連携させるかを決める必要もあります。
その際、「昇給/降給」や「昇格/降格」の決定に不満感が出ないよう、その根拠が明確になるようにしたいところです。
根拠があいまいな評価は、「業務内容は同じなのに待遇が違うことに納得できない」などの不満につながりかねません。
また、実際にそれらの決定によって影響を受ける社員の割合を明示して、人事評価制度が「他の社員にも公平に適用されている」という実感が湧くようにすることも重要です。
ステップ5:評価者研修、全社員への説明会の実施
評価方法や項目が固まったら、社員へ周知する段階です。
これまで決定してきた人事評価の背景、目的、実際の運用方法について全社員に向けた説明会を実施します。
人事評価を担当する「評価者」向けの研修も実施して、適切な評価をするために必要なマインドを強く伝え、偏りのない真摯なマネジメントができるよう徹底させることが必要です。
説明は一方的に行うのではなく、質問や意見も積極的に受け付けましょう。出された意見や質問には丁寧に対応し、必要に応じて前のステップに戻りながら修正を行い、人事評価制度の完成度を高めましょう。
ステップ6:評価・フィードバックの実施
研修・説明会が終わったら、いよいよ人事評価の運用開始です。
評価期間の終わりごとに「自己評価」と「上司評価」を提示して、フィードバックを実施します。
事前の目標を設定して、それに対する達成度や、企業のMVVに対してどれだけ貢献できているかといった観点を「評価シート」で運用するという方法もあります。
フィードバックで大事にしたいのは、単に「結果を伝える」だけでなく、「成長を支援する」というスタンスで臨むことです。
運用が実際にスタートしてからも定期的な制度の見直しを行い、必要に応じて軌道修正をして、さらに精度を高めていきましょう。
あわせて考えたい:等級制度・報酬制度の概要と人事評価の関係性
人事評価を設計する際は、「等級制度」と「報酬制度」をあわせて検討・設計することが重要です。
人事評価・等級制度・報酬制度の3つが揃うことで、人事評価がより実効的なものとなり、社員のモチベーション向上や公平性確保に資することが期待できます。
人事評価とあわせて考えたい「等級制度」と「報酬制度」の設計方法について、それぞれ以下に詳しく解説します。
等級制度
等級制度とは、「職務」「能力」「役割」などで社員の序列を作る制度です。
一般的に「職務」は事業部門に紐づくため、組織変更のタイミングで等級制度も見直すことになります。
また「役割」「能力」についても、役職に応じて求められる「事業目標・企業理念の体現度合い」を等級制度で描写します。つまり、等級制度で各人の役割を定義し、個別の達成度合いを人事評価によって確認することになります。
等級制度は次のような3つの考え方があります。
- 職能資格制度:「仕事を行うための一般的な能力」によって等級を分類する制度
- 職務等級制度:「個別具体的な業務に求められる能力」によって等級を分類する制度
- 役割等級制度:「経営戦略から求められる仕事の役割」によって「役割価値」を明確化して等級を分類する制度
等級制度の設計においても、企業理念やMVVを意識して、それに資するようにしていくことが重要です。
報酬制度
報酬制度とは、その名の通り、給与、賞与、退職金といった報酬の仕組みです。
前述の等級制度に紐づく形で給与テーブルを設定し、人事評価の結果を「待遇の違い」という形で明確にするために用います。
給与などの待遇は社員のモチベーションや採用に大きく関連するポイントです。そのため、事業規模や業界、職種などにおける給与相場と比較して適切かどうか、慎重に検討する必要があります。
まとめ:人事評価のポイント
人事評価は、企業の大小に関係なく必須の制度だといえます。
とはいえ多くの企業が人事評価の設計・運用に失敗しているという現状があるため、その導入を成功させるために、この記事で解説した「4つのポイント」を意識しながら、運用しやすさも意識した設計を行うことが重要です。
特に、関係する社員や評価者の「納得感」と「意識の統一」を図ることを最優先事項として、人事制度の導入を進めていきましょう。
等級制度・報酬制度との連携についても十分に検討し、優れた効果を発揮する人事評価制度を作ることが、会社経営の成功に大きく貢献するといえます。