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コーチングとは?必要性や具体的な手法、マインドについて

「コーチング」はスポーツの世界でお馴染みです。陸上や水泳など、著名な指導者・コーチが何人ものオリンピックメダリストを輩出してきた事実を考えると、選手のパフォーマンスを極限まで高める育成法や指導法への関心が高まります。

ビジネスの世界でもコーチングを活用した人材育成の取り組みは多くの企業で取り入れられ、マネージャーが身につけるべきスキルとして定着しています。

一方で、コーチングは自己啓発や脳力開発といった分野で産業化し、さまざまな対象や目的を持つコーチングが存在することから、コーチングそのものの輪郭を描きにくいのもまた事実です。

この記事では、コーチングの必要性と技法に焦点をあて、マネジメント全体を考える上で、コーチングをどのように活用すべきものなのかを解説します。明日からのマネジメントに活かして頂ければ幸いです。

1.コーチングの定義・由来
1-1.コーチングの定義
1-2.コーチングの歴史
2.コーチングがなぜ必要か、他の手法との違い
2-1.コーチングの必要性:外発的動機づけの限界
2-2.コーチングと他の手法の違い
3.コーチングにおける3つの技法
3-1.その1:傾聴技法
3-2.その2:承認技法
3-3.その3:質問技法
4.コーチングがうまくいかない原因
4-1.コーチングの目的を「目標達成に向け、相手が持っている力や可能性を最大限に引き出すこと」としてしまう
4-2.自身の先入観・前提を交えてしまうこと
4-3.承認が「褒める」ことであるという勘違い
4-4.コーチングの理想的な形
5.コーチングに求められる心構え・マインド
6.まとめ

コーチングの定義・由来

最初にコーチングの定義や歴史について押さえておきましょう。コーチングが目指すことを理解することで、マネジメントに活かすための方向性が見えてくるはずです。

コーチングの定義

ベストセラー「エクセレント・カンパニー」の著者であるトム・ピーターズが1985年の著書「Passion for Excellence」でコーチングを以下のように定義づけています。

・フェイス・トゥ・フェイスで発揮されるリーダーシップ

・多様な経歴・才能・経験・関心を持った人々をまとめあげること

・それぞれが責任を果たし業績をあげるように勇気づけること

・部下をパートナーであり、職務に欠くことのできない存在として大切に扱うこと

「コーチング」について統一された明確な定義はありませんが、ビジネスコーチングの一般的な共通認識は以下のようなものと考えてよいでしょう。

コーチングの歴史

「コーチ(Coach)」は馬車を意味する言葉で、鉄道車両や自動車の車体にもコーチという呼び名が使われることがあります。

「目的地まで運んでくれるもの」が転じて現在のコーチの意味として使われるようになったのは、1800年代に英オックスフォード大学の学生が雇った個人教師をコーチと呼んだことにはじまります。それ以降、スポーツの分野で選手の育成や指導にあたる役割を持つ人物をコーチと呼ぶことが広まっていきました。

ビジネスの世界で「コーチング」という言葉が注目されたのは、1950年代にハーバード・ビジネス・スクールの教授であったマイルズ・メイズが著書のなかで、人間中心のマネジメントのなかでのコーチングスキルの重要性をあげたことが最初といわれています。

1980年代に入ると、前述のトム・ピーターズの著書に加え、コーチングのスキルについて解説したデニス C・キンローの著書「Coaching for Commitment」の影響からコーチングの普及にはずみがつき、企業や経営者向けの研修のなかでコーチングが取り入れられるようになっていきました。

コーチングがなぜ必要か、他の手法との違い

コーチングスキルはチームをまとめあげ、組織として機能させるために役立ちます。

10の力を持つ個人10人分のアウトプットの合計は100です。この10人が組織の目標のために自律的に行動できるようにすることで、100よりも大きなアウトプットを引き出すのがマネージャーの役割といえます。さらに、組織のメンバー一人ひとりが持てる能力を伸ばし成長を促すことで、個人の持つ10の力を15にも20にもしていくのが、マネージャーに求められるコーチングのスキルです。

コーチングの必要性:外発的動機づけの限界

会社組織では、報酬や評価、賞罰などの仕組みを通じて、組織の目的達成のための行動原理が形作られます。このような外部からのインセンティブを要因とする行動原理を外発的動機づけといいます。

これに対し、興味や関心といった内面から沸き起こる心理を起点とする動機づけ要因が内発的動機づけです。

外発的動機づけは短期間での行動変容が可能ですが、インセンティブの程度に行動の範囲が影響され、慣れることで動機づけが働きにくくなることが指摘されています。内発的動機づけは行動そのものが動機づけ要因となることが多く、持続的なモチベーションにつながるといわれています。

VUCAの(不確実性の高い)時代といわれる現代において、創造性やチャレンジする姿勢、当事者意識がより求められる環境下では、内発的動機づけにもとづく行動がより結果に結びつきやすいとする考え方が主流になってきました。

内発的動機づけをより強化するために必要なのがコーチングスキルであり、マネジメントのあり方も時代に沿ったものに変えていくことが求められています。

コーチングと他の手法の違い

上司が部下を対象として行うという点では、コーチングも従来の指導や教育と同じです。しかし、コーチングはティーチング(=教えること)とコミュニケーションに対するアプローチが異なります。

また、コーチングは相手自身の考えや答えを「引き出す」ものですが、実践の現場で陥りがちなのが誘導尋問になってしまうことです。

この2つの点について解説します。

ティーチングとの違い

ティーチングによって部下が上司から得られるものは、上司の知識や経験です。

それに対し、コーチングで部下が得られるものは自分自身の新たな気付きやこれまでになかった考え方です。

ティーチングでは上司と部下の関係において、上司が豊富な知識や経験を持っていることが前提であり、それを部下に対して与える行為です。

コーチングは「与えるもの」ではなく、対話を通じて部下の内面から自発的なものを引き出す行為といえます。

誘導尋問との違い

組織には目的があり、コーチングも部下の目標達成に向けての答えを引き出すものであることから、上司の側は組織の目的に沿う部下の答えを期待してしまいます。

コーチングを実践する際の対話を、上司の側の意向や考えの方向に部下の答えを誘導したのでは、コーチングの意味がありません。

忘れてはならないのは、内面的動機づけにもとづく答えや考えでなければ、行動には結びつかないという点です。

コーチングの対話では、時間をかけプロセスを踏みながら、組織の目的と個人の目標の共通項を探し当てていくという考え方が必要になります。

コーチングにおける3つの技法

コーチングは1対1の対話を通して行われます。その際のコミュニケーションの仕方がコーチングの技術であり、「傾聴=聞くこと」「承認=認めること」「質問=問いかけ」の3つの技術が必要とされています。

その1:傾聴技法

単に相手の話を聞くことを超えて、言わんとしている話を促すこと、言葉にならない気持ちを言語化してもらうこと、また、本人も気づいていない気持ちや考えを引き出すための対話を行います。

部下がありのままの正直な気持ちを話せることが重要であり、話したことが受け入れられ、それに共感してもらえるという心理的安全性が確保されることが必要です。

そのための環境づくりといえるのが、傾聴(アクティブリスニング)というコーチングを行う側の態度や反応です。

傾聴は相手との信頼関係を築き、対話を深めるために最も重要視すべきコーチングスキルであるとされています。

コーチングを行う側が傾聴を行う際の具体的な態度や反応の示し方は以下のようなものがあります。

①目線

目線を合わせすぎず、そらし過ぎない。相手の話に関心を持っていること、相手を信頼していることを表す。

②相づち

相手の話を聞いていること、興味関心があることの意思表示。

③ペーシング

話す速度や声のトーン・しぐさ・姿・表情・呼吸を相手のペースに合わせ、より話しやすい雰囲気を作る。

④話を遮らない

話の途中で遮ることはせず、話をすべて最後まですべて聞いているという姿勢を示す。

⑤言葉を待つ

相手から言葉が出てこないときは、考える時間を与えて沈黙して待つことも必要。

⑥オウム返し(リフレイン)

相手の言葉を繰り返すことで、こちらが理解したことを示す。

⑦接続詞を使って促す

「それで」「だから」「それから」「確かに」「具体的には」「他には」「要するに」など、接続詞を使うことで相手の話を広げていく。

⑧要約・言い換え

相手の話を言い換えたり要約してみることで、相手の真意を確認し、理解を深める。

その2:承認技法

承認技法とは相手を認め、尊重していることを表すことで承認欲求を満たし、信頼関係にもとづく関係性を築くための働きかけです。承認は時間をとって深い対話を行う場面だけでなく、日常的なコンタクトのある場面での行動の積み重ねによって醸成されます。

相手の「存在」そのもの、これまでの「結果」、行動や変化などの「事実」の3つのポイントについてありのままを認めてあげます。

①存在承認

自分の存在そのものが認められている、自分の居場所がここにある、関心を向けられている存在であるということを示すための働きかけを行います。

・名前を呼ぶ、挨拶をする

・声をかける

・ありがとうの感謝の気持ちを表す

・頼りにする

・期待する

・変化に気づく

②結果承認

過去のポジティブに捉えられる結果や成果が認識・評価されていることを伝えるものです。部下があげた成果に対して、それが組織に貢献するものであり、部下本人にとっても価値があることを認識してもらうことを目的とします。

結果承認を相手に伝える場合には以下の点に留意します。

・すぐに伝える ー 何が評価されたのかを理解してもらうため

・具体的に伝える ー 評価された内容を具体的にわかってもらう

・評価の一貫性を保つ ー 評価される基準を理解してもらう

プラスに評価していることを伝えることは褒めるということにつながりますが、褒める側の価値観を反映させた褒め方ではなく、結果そのものが事実として価値を持っていることを伝えることが、結果承認の重要なポイントです。

③事実(行動・変化)承認

事実承認は、結果に結びつく行動や変化、プロセスに対するフィードバックという意味合いを持ちます。「自分のことを見てくれている」「結果だけではなくプロセスも評価してくれている」という部分をわかってもらうということです。存在承認と結果承認にもつながる安心感を与えます。

日常業務のなかでの部下の行動や変化について、プラス面・マイナス面に関わらず「気づいている」「知っている」ということを言葉に出して伝えることが事実承認です。

その3:質問技法

対話での質問に対し、部下は自分で考え、答えを導き出そうとします。その考えるプロセスのなかで頭が整理され、新しい気づきを得られるような問いかけを行うことがコーチングにおける質問の仕方です。

質問の仕方には、5W1Hを問う「オープンクエスチョン」とYes or Noを問う「クローズドクエスチョン」があります。オープンククエスチョンは事実や理由、方法、期限など具体的な要素から話題を広げることができます。クローズドクエスチョンは会話を始めるきっかけに適しています。

また、質問の方向性として抽象的なイメージを具体的な事柄に分解していく「チャンクダウン」と具体的な内容をまとめる「チャンクアップ」があります。チャンクダウンする形で質問を進めることで行動への落とし込みがしやすくなります。

質問として問いかける切り口には以下のようなものがあります。

・視点の転換

立場の違いや異なる時間軸、数量の大小など、視点を変えて見た場合の物事のとらえ方

・ビジョンの共有

将来に期待される会社や部署のイメージを共有する

・ロールモデル

イメージできる理想像のあり方や行動を想像する

・解釈の確認

出来事や言動に対するとらえ方や感じ方、評価の違いを発見する

・過去の棚卸し

経験や知識、人脈など、今に活かせるリソースがないかどうか

・連想ゲーム

アイデアの連想ゲームで選択肢の幅や可能性を広げる・増やす

具体的な質問の仕方は、状況に応じてさまざまです。ここでは日本能率協会マネジメントセンター「マンガでやさしくわかるコーチング」から拡大質問の例をご紹介します。

期待に関する質問 ・何が可能ですか?

・何を求めているのですか?

・あなたの望みがかなったらどうですか?

・夢はなんですか?

・これの何があなたをワクワクさせますか?
可能性を探る質問 ・どんな可能性がありますか?

・あなたがまだ探していないのはどの部分ですか?

・いろいろな角度から見たらどう見えますか?

・他にもうひとつ可能性があるとしたら、それはなんですか?
選択肢を広げる質問 ・他にどんな選択肢が考えられますか?

・大胆になったらどんな選択肢がありえますか?

・もしも選べるとしたら、何をしますか?

・やった場合とやらなかった場合、何が変わりますか?
核心を突く質問 ・何が問題なのですか?

・最大の障害は何ですか?

・何があなたを引き止めているのですか?

・今、もっとも望んでいることは何ですか?
行動を促す質問 ・何をしますか?

・いつそれをしますか?

・どんな行動を起こしますか?

・次のステップは何ですか?それはいつまでにやりますか?
学びを深める質問 ・今回のことから得たことは何ですか?

・何を学びましたか?

・この学びを覚えておくためにはどうしますか?

・他にどのようなやり方があったと思いますか?

出典:CTIジャパン著「マンガでやさしくわかるコーチング」日本能率協会マネジメントセンター p164

コーチングがうまくいかない原因

コーチングは相手との対話を前提とする技術であり、従来のマネジメントにおける指導・教育とは全く異なるマインドが求められます。

コーチングは部下と同じ目線に立ち、並走しながらサポートする取り組みです。このような関係性がなじむ組織文化があるかどうかという点や、コーチングする側がスキルを習得するまでの時間もあわせて、コーチングを取り入れ成果に結びつけるまでには長期的な視点が必要です。

プロセスを踏むことを疎かにし、性急に結果を求めるとコーチングは上手くいきません。その原因をご紹介します。

コーチングの目的を「目標達成に向け、相手が持っている力や可能性を最大限に引き出すこと」としてしまう

コーチングの定義であげたとおり、最終的には「相手が持っている力や可能性を最大限に引き出すこと」がコーチングの目的です。そこにたどり着くためには、傾聴や承認を通じて信頼関係を構築することが前提であり、十分に経験を積んだ質問のスキルが求められます。

①信頼関係の構築

②心理的安全性の醸成

③自発的な思考や行動につながる質問によるコミュニケーション

これらの①と②のプロセスを時間をかけて実現した上でなければ、③の段階での質問は効果を持たないことを認識しておかなければなりません。

自身の先入観・前提を交えてしまうこと

コーチングはコミュニケーションのスキルである以上、コーチングをする側とコーチングを受ける側の関係性が互いの信頼関係やコミュニケーションの深さに影響します。

この点がコーチングには相性が影響するといわれる所以でもあります。しかし、傾聴・承認・質問のスキルを身につけることによって相性の影響を極力排除し、誰にでも通用するコーチングが可能になります。

相手に対する先入観や前提を作らないこともコーチングにおける関係性構築に大きく影響します。相手の話を最後まで聞き、「なぜ、そういった考えに至ったのか」「その原体験は何か?」を質問し、耳を傾けることで、相手の行動や現在の状況、行動原則の根幹を理解できるようになります。

このような傾聴のポイントを意識することで、自然と心を割って話をしやすい空気感ができあがり、適切な質問を繰り出すことが可能になります。

何よりも、自分と異なる考え方や意見に対しても、余裕を持って対応できる寛容さがコーチングには必要です。

承認が「褒める」ことであるという勘違い

承認と褒めることは異なります。承認とは相手の存在・行動・変化、ひいては悩みなどの心理的な状態も含めて言語化して相手に伝えることです。

結果を承認する場合に、評価できる事柄であれば、褒める言葉を使わないことは現実的には難しくなります。その際に、自発的な行動とそれに対する報酬(褒め言葉)に矛盾があると、褒められた側は褒めた側の意図や作為を敏感に感じ取ります。

また、内発的動機づけによる行動に対し、報酬という外発的動機づけが加えられるとモチベーションが低下する「アンダーマイニング効果」もよく知られています。

褒めることは難しいことであることを理解し、褒める場合には、誠実さを持つことに加えて、努力やプロセス、具体的な行為を褒めるようにすることがポイントです。

コーチングの理想的な形

スポーツの世界では、コーチとしての実績をあげている人物が必ずしもプレーヤーとして優れていたわけではないケースがよく見られます。これは業務遂行能力とコーチングの能力が全く異なるものであり、コーチングは知識や技術、ノウハウなどを伝えるためのティーチングとは別次元のスキルが必要であることを象徴しています。

コーチングに求められるのはコミュニケーション能力であり、時間をかけプロセスを踏みながら関係性を作り上げていく忍耐力、相手の変化に気づくことができる観察力も必要とされます。総じていえることは人間そのものに対する興味・関心と、マネジメントのなかでの人的リソースの重要性を十分に認識していることではないでしょうか。

これを踏まえると、理想的なコーチングは普段のコミュニケーションのなかで、部下の成長を自然にサポートするためにコーチングのスキルを活かせるようになることです。

コーチングに求められる心構え・マインド

最後にコーチングに求められる心構えとして、積極的傾聴(アクティブリスニング)を提唱した米心理学者、カール・ロジャーズの「聴く側に必要な3要素」をご紹介します。

1.共感的理解(empathy, empathic understanding)

常に相手の立場に立って、相手の心情を理解し共感しながら、話を聞くこと。

2. 無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)

相手の話に対する自分自身の価値判断や評価を行うことなく、否定ではなく、肯定的な関心を持って相手の話を全面的に受け入れる態度。聞き手側が無条件で受け入れることで、話し手自身もありのままの自分を受け入れることができるようになる。

3.自己一致(congruence)

話し手の言葉の真意を理解することに努め、話し手が言葉に込めた真意と自分の理解に齟齬が生じないように、誠意を持って確かめながら会話を進めること。

まとめ

これまでにも触れましたが、コーチングは相手との信頼関係が築かれていることが前提となります。傾聴や承認を繰り返しながら互いの誠意を基盤とした対話を行うことができる関係性をつくり、質問により部下の自発性を育んでいくというスタンスが必要です。

本記事の視点に立つことを普段から意識することが、コーチングスキル向上のきっかけになるでしょう。