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「デザイン思考」がカギになる!オフィスを「おしゃれ」にするメリット、実践方法

成長著しい会社のオフィスを訪れると、斬新なデザインとスタイリッシュな什器、ユニークなレイアウトが目を引くことが多くなりました。こういった「おしゃれ」なオフィスを見ると、働き方の変化によってオフィスの役割が大きく変わってきたと感じます。

一方、単にオフィスを「おしゃれ」にするためにこれらのインテリアがあるわけではありません。ベースにあるのは「デザイン思考」という考え方。実は、デザイン思考に基づいた様々なアプローチの先に、「おしゃれ」なオフィスがあると言えるのです。

この記事では、そもそも「デザイン思考」とは何か、その思考を取り入れることがどのようなメリットがあるのかについて解説します。加えて、どうすれば「おしゃれな」オフィスになるのか、いわゆる基本的な考え方についてお伝えします。

1.「デザイン思考」とオフィスづくりの関係
1-1.「デザイン思考」の概要とその例
2.デザイン思考でオフィスをつくるメリット
2-1.創造性を高めイノベーションを実現する
2-2.コミュニケーションを活性化する
2-3.ブランディングに貢献する
2-4.エンゲージメントを高める
3.デザイン思考でつくる、「おしゃれな」オフィスの構成要素
3-1.エントランス
3-2.レイアウト
3-3.カラーコーディネート
3-4.デスク、チェア
3-5.壁
3-6.床
3-7.照明
4.オフィスづくりで忘れたくないポイント
4-1.オフィスコンセプト
4-2.あくまでもオフィス空間、商業空間や居住空間とは異なる
4-3.セキュリティ
4-4.安全性
4-5.小規模オフィスの場合
5.まとめ

「デザイン思考」とオフィスづくりの関係

洗練されたトーンや遊び心のあるしつらえ…こういった「おしゃれ」なオフィスはスタートアップだけでなく、大手企業にも多く取り入れられています。至る所にある観葉植物やバーカウンターのような休憩スペース、靴を脱いで集まれるミーティングスペースなど、長机とオフィスチェアで統一された従来のオフィスに慣れた人には異空間に映るでしょう。

このような空間がオフィスに取り入れられるようになったのは、デザイン思考を実践するシリコンバレーのスタートアップがはじまりです。デザイン思考は米デザインコンサルティング会社 IDEO によってビジネスの世界に広められました。その本質は、人間を中心とした課題解決のための手段であり、解決すべき課題を見つけ出すための方法であると IDEO の共同創業者トム・ケリー氏は語っています。

また、デザイン思考の源流とされるスタンフォード大学デザイン研究所(d.school)の共同ディレクター、スコット・ドーリー氏は著書「make space」のなかで「スペースはイノベーションとコラボレーションのための道具」であると指摘しています。

つまり、イノベーションを目指すスタートアップが、オフィスにビリヤード台を置いたり、スナックを片手にブレインストーミングをするのは、創造性を高めチームを活性化させるためであり、その仕掛けとしてオフィス空間を利用しているのです。単にオフィスがおしゃれならいいというわけではなく、その先の生産性や創造性を追求していると言えるでしょう。

「デザイン思考」の概要とその例

そもそも、「デザイン」はインダストリアルデザインや環境デザインといった意匠や空間の設計に加え、キャリアデザインやシステムデザインなど、特定の目標を達成するための計画や仕様といった意味を持っています。

そして、「デザイン思考」はこれらデザイナーの考え方やプロセスをビジネスの課題解決に取り入れたものであり、次のような特徴があります。

  • 「共感 → 定義 → ソリューション → 試作 → テスト」を繰り返し正解に近づく
  • 課題発見に人間への理解と共感を重視する
  • 課題解決のために集団の知恵を活用する

例えば、従来の業界慣習や価値観を破壊したとされるUberとAirbnb。彼らは「移動」と「宿泊」の価値を再定義し、試行錯誤をスピーディーに繰り返すことで新たなビジネスモデル創出に成功しました。まさに、デザイン思考を体現する代表例といえるでしょう。

国内でも、近年は経済産業省や特許庁が主導してブランド構築・イノベーション創出を目指す「デザイン経営」が提唱されています。一方、デザイン思考は従来の階層型の管理システム、トップダウン型の経営方針になじまない点も多く、経営トップの意識改革や組織変革を合わせて考えることになります。

デザイン思考でオフィスをつくるメリット

前段ではデザイン思考の概要やオフィスづくりとの関係性についてお伝えしてきました。デザイン思考はイノベーションを起こすための様々な導線・仕掛けを含んでおり、オフィスのあり方にも大きく影響しています。ここではもう一歩踏み込んで、オフィスにデザイン思考を取り入れること、その結果オフィスを「おしゃれ」にすることのメリットを解説します。

創造性を高めイノベーションを実現する

米西海岸のスタートアップと聞くと、例えばホワイトボードや壁に多数貼られた付箋を前に会議する光景をイメージするのではないでしょうか。しかし、こういったいわゆる「最新鋭の」働き方は、単に見た目がよいといった理由で行われているわけではありません。というのも、ホワイトボードや付箋を利用することは、メンバーの考えを可視化・共有し、アイディアを膨らませたり、フレームワークに落とし込むのに有効な方法と言われています。

また、すぐに試作に取り組めるスペースや作業台を用意し、アイディアを形にして改善を繰り返すのもデザイン思考のアプローチです。理論や考察が行き詰まるときは、とりあえず形にすることで学習経験とインサイトを得ることができます。

加えて、1人や少人数で集中するスペースとリラックス目的のスペースとのメリハリをつけること、部門や階層を超えたコミュニケーションが生まれる場所を意図的に作ることなども、クリエイティブな結果を生み出すことに貢献します。

コミュニケーションを活性化する

「いかなる個人よりも全員のほうが賢い」、これは IDEO 社が掲げるスローガンのひとつです。この言葉はダイバーシティを認め、専門性やバックグラウンドを越えた連携がイノベーションの源泉になることを端的に示しています。

一方、多種多様なメンバーが協力しながら一つの目的に向かうには活発なコミュニケーションが不可欠です。しかし、それが簡単にできれば苦労はしません。

この難しい課題に対し、デザイン思考は「スペースの特性」を利用することで解決を図りました。つまり、空間にいる人の密度、向き、イスの高さや種類によって変わる姿勢、照明や質感・色・音が醸し出す空気感など、空間が人の心理や行動に与える影響を考慮してオフィススペースを設計するのです。

例えば、センシティブなテーマを扱ったり、振り返りを行ったりするような場面では、イスではなくスツールや床に座ります。この形で行うミーティングはメンバーの参加意識や目的意識が高まるとされています。

また、「ハドルルーム」という2〜3人または5〜6人程度で使うクローズドなスペースがあります。これらはカジュアルなチームミーティングから上司部下の面談、採用面接まで多目的に使うことを前提としており、会議室のような予約制にはせずオープンスペースに近い場所に複数設置することで、いつでも気軽に利用できる場所として、コミュニケーション活性化させます。

このように、デザイン思考に基づくオフィス設計を追求することによってコミュニケーションを活発化する糸口が見つかるかもしれません。

ブランディングに貢献する

会社や組織が利用するオフィスや会議室といった「場所」は、その組織の文化を反映します。そして、組織の文化を自らのアイデンティティとして共有することで、一体感と帰属意識が生まれることにつながります。

具体的には、インテリアにコーポレートカラーを取り入れる、組織文化を象徴する場所を作るなど、オフィス空間を活用してさまざまなメッセージを届ける工夫がメンバーの行動に影響を与えます。

また、オフィスの顔となるエントランスは外部に向けて組織のカルチャーを発信する場所となります。企業イメージを印象づけるデザインを施すことで、外部に向けたブランディングに大きな役割を果たします。

エンゲージメントを高める

ここまで述べたようなデザイン思考を体現するおしゃれなオフィスは、インナーブランディングに貢献すると同時にメンバーのエンゲージメントを高める効果も持っています。

デザイン思考が浸透した職場環境では、メンバーの主体性がより重視され協働や共創の機会が積極的に作られます。必然的に仕事に対する自己認識が高まり、自信や働きがいにつながる組織文化が醸成されます。

このような文化と環境を持つ組織は刺激が多く充実感も大きい反面、ストレスフルな要素も多分に含んでいます。ラウンジや横になれる場所は一見オフィスにはそぐわない印象を与えますが、休息や考え事をするためにくつろげる場所は自律的で変化の大きい職場環境には欠かせないスペースです。

デザイン思考でつくる、「おしゃれな」オフィスの構成要素

これまでお伝えした通り、オフィス空間をデザインすることは働く人の行動にプラスの効果を与えるためであり、その結果おしゃれなオフィスが実現できます。オフィスを構成するさまざまな要素に工夫や知恵を取り入れることで、創造的で生産性の高いオフィスに変えていくことができます。

エントランス

エントランスは来訪者の企業に対するイメージを決定づけます。空間デザインでメッセージを発信できる場としてブランディングに効果的な役割を果たします。

コーポレートカラーを配した造作やロゴ・シンボルの配置とともに、照明や壁・床の色などによって空間を大きくイメージづけることができます。待合スペースがある場合は家具の選択や配置などによっても来訪者の印象は大きく変わるでしょう。

ブランディングに果たす機能以外にも、エントランスにはセキュリティ、PR、ホスピタリティなどいくつかの機能があり、自社に必要なエントランスの機能に合わせた総合的なデザインが求められます。

レイアウト

オフィスのレイアウトとそれに伴う動線計画は業務効率を左右します。加えて、スペースの持つ機能や導線の配置を意図的に行うことで、コミュニケーションを誘発する仕掛けを作り出したり、スペースユーティリティを高めたりすることも可能になります。

従来のオフィスレイアウトは、組織の階層や部門を基準とすることが一般的ですが、冒頭にあげた「make space」では以下の4つの種類の分類を紹介しています。

  • ホーム:固定席やプロジェクトルーム、制作・掲示・収納のための場所
  • ギャザリングスペース:会議室やラウンジ、コピー機などの共有ツールの近くのエリアなど人が集まる場所
  • 境界・移行部:通路や廊下。各スペースを移動する際の切り替えの場所となる
  • サポート設備:キッチンや資材置き場など、他のスペースでの活動をサポートするための場所

さらに、それぞれのスペースを設計するにあたり、人とモノの相対的な位置関係がメンバーの関係性や意識づけに影響を与えること、密度を調整することで場所の活気や創造性をコントロールできることが指摘されています。

位置関係という点では固定席の配置やミーティングの際の座席の配置があげられ、身体の向きが一方向に向いている場合と、それ以外の場合では意識の向く方向が異なります。

人が多い密集したスペースでは場の持つエネルギーが高まり、参加を促す空気が生まれます。反対に、周囲に十分なスペースが確保された空間では集中して何かに取り組んだり、創造的な作業をするのに適しています。

位置関係と密度のコントロールには、キャスターのついたデスクやパーテーションなど可動式の什器を積極的に活用することが有効です。

また、スペースの境界部やオープンスペースのなかのアクセントとなる部分で、気軽な会話が始まることが多いといったコミュニケーションの要素も、レイアウトを設計する際に意識したいポイントです。

カラーコーディネート

空間の色が与える心理的効果もオフィスをデザインする際の重要な要素です。それぞれの色やトーンが持つ心理的効果を、特定の行動を促すために活用することは、デザイン本来の役割といえるでしょう。

色は場の空気感に大きな影響を与えます。それぞれのスペースで行われるアクティビティにふさわしい配色にすることが生産性を高める効果を発揮します。

各スペースの機能に応じた配色を施すことのほかに、コーポレートカラーを効果的に取り入れることはブランディングに貢献します。コーポレートカラーを軸にコーディネートされたエントランスや、壁面や床、什器などパーツに取り入れるやり方など、さまざまな方法が考えられます。

デスク、チェア

デスクやチェアといった姿勢や体勢を規定する什器も、そこで行われる作業に応じたもの、あるいは、スペースの目的に合った特定のアクティビティを促すものを採用することで、生産性を高め、成果につながるコラボレーションを生み出すことができます。

「make space」のなかで、ソファーにゆったり座る場合と床に座るような姿勢を取る場合、ほとんどが立ち姿勢の場合の3つのケースでコラボレーションを行った結果が紹介されています。

ソファーに座る場合は互いに批判的になる傾向があり、床に座る姿勢の場合は立った時に威圧的な印象を与えてしまうことから、いずれも上手くいきませんでした。積極的な議論を求められる場で最もよい成果が生まれたのは、立ち姿勢に近い状態を取った場合だったということです。

この例が示すように、各スペースで取られる行動がどのような体勢で行われるかという点に着目して什器を選択すると、これまでとは違った仕事の成果が生み出される可能性があります。

壁にはスペースを区切る機能があるほか、見せることに使ったり収納に使ったりすることができます。

スペースの仕切としての壁は、固定されているか可動式のものとするか、また、仕切りの高さによって空間の閉鎖性が決まるので、スペースの用途にあった造作を施します。

可動式の間仕切りには、スライディングウォールや連結式、折りたたみ式などの種類があり、開口部を移動させたり遮蔽する位置を調整したりすることで、スペースユーティリティを高められます。

壁面を見せるためのスペースとして使う場合は、掲示物を貼り付ける、ウォールアート、コーポレートロゴ、MVV(ミッション・バリュー・ビジョン)の掲示といったことが想定されます。

エントランスの壁面はコーポレートロゴ以外に、広い面積を使ったウォールアートを描くことで空間に大きなインパクトを与えます。

掲示物の貼り付けスペースは人が集まる場としての特徴を活かすことができます。また、スペースの目的や機能、MVV(ミッション・バリュー・ビジョン)をイメージさせるメッセージやグラフィックを描くことで場の空気感を演出できます。

床は壁と同様に広い面積を持ち、空間をイメージづける役割を果たします。さらに、床の色や材質を切り替えたり線を引いたりすることで、心理的な間仕切りとして機能します。

床はカラーコーディネートの観点から壁面と調和する色やテクスチャーを選ぶことが一般的です。

材質は、カーペット素材やビニル素材が種類も豊富で防音性の点からも最も多く用いられます。タイルや木材などの素材は高級感や温かみを感じさせ、コンクリートの床は試作などの作業を行う場所に適しています。材質によってメンテナンス性にも違いがあるためスペースの用途も床材を選ぶ際のポイントです。

床面の色や材質を変えることで導線を示すことができるほか、スペースの区切りを緩やかな形で表したり、設備の定位置を示す際などに活用できます。

照明

ほとんどの執務スペースは蛍光灯の明るい光で広い空間を照らすことが一般的です。

蛍光灯の白く強い光は集中力を高め、行動のスピードを早める効果があり、白熱灯の温かみのある光のなかでは、ゆったりとした行動をとるようになりリラックスできます。

空間デザインの要素として照明も重要な役割を果たすため、スペースに合わせた照明の種類、明るさ、配置・方向を検討する必要があります。

エントランスは照明による演出を効果的に活用できる場所です。企業イメージを印象付ける照明デザインにはさまざまな工夫の余地があります。

オフィスづくりで忘れたくないポイント

まず、何を目的に、何を変えることがおしゃれなオフィスにつながるのかの前提として、なぜ変える必要があるのかを明確にしてメンバー間で共有しておく必要があります。また、安全配慮義務など、オフィスに求められる基本的な要件を満たすことは、おしゃれ以前に考えておかなければならない要素です。

オフィスコンセプト

働き方改革に象徴されるワークスタイルの変化は、社会構造の変化によって生じる新しい経営環境への対応でもあります。

時代にそぐわない従来の経営のやり方や組織のあり方に存在する課題を解決し、それに合わせて組織の器となるオフィスを一新するためには、それぞれの企業が持つ課題解決をテーマとするオフィスコンセプトを設定することが必要です。

自社のMVVと合わせて目指す働き方を実現するために何が必要なのか、現状をどう変えていくのかを踏まえてオフィスに求めるものを言語化してみましょう。

あくまでもオフィス空間、商業空間や居住空間とは異なる

おしゃれなオフィスの「おしゃれ」が何を意味するのかをデザイン思考と合わせて解説してきましたが、「おしゃれ」の意味を履き違えると、オフィスは見てくれだけの器でしかなくなります。

何のためにビリヤード台が置かれているのか、おしゃれなカフェテリアは誰のためにあるのかなど、一つひとつ考えた上で何をおしゃれにすべきか考えてみましょう。

セキュリティ

扱われる情報の種類によってはゾーニングを設定して入室制限を行ったり、情報端末が使われる出入りの激しい共用スペースではネットワークセキュリティに配慮する必要があります。

また、フリーアドレスやABWを取り入れる場合には、固定席で働く場合とは異なるセキュリティリスクが想定されるため、リスクを洗い出したうえで対策を行います。

安全性

安全対策は防災、防犯、衛生面にわたり、オフィスをおしゃれにする以前に考えておかなければならない基本的な要素です。BCP(事業継続計画)を策定するとともに、自社のオフィスに存在する危険要素には広く目を配る必要があります。

企業が守らなければならない安全配慮義務には身体の安全とともに、メンタルの衛生面も含まれます。それぞれの職種や個々のメンバーのワークフローを把握し、サーベイなどを併用しながら心の健康にも配慮します。

小規模オフィスの場合

小規模オフィスはスペースに限りがあるため、効率と機能性がより求められます。多目的に活用できるスペースの設置やスペース効率の高い収納什器など、狭いスペースを有効に活用するための工夫が必要です。

視覚効果を利用してより広く見せる仕掛けや、間仕切りを作らないシンプルなレイアウトなど、心理的な狭さを解消する仕掛けを取り入れるとよいでしょう。

まとめ

オフィスをおしゃれに変えていくことは、新しい組織に変えていくこと、新しい経営スタイルを模索していくことと切り離して考えることはできません。デザイン思考は時代に対応するための考え方のひとつであり、変化する経営環境のなかで企業が競争力を高めていくための方法です。

自社にとっての「おしゃれ」とは何なのか、「おしゃれ」にすることで何を目指すのかがオフィスのコンセプトに求められる根本的な問いになります。