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OKRの概要、他管理手法との違い、具体的なメリットや導入方法

事業は「目標を設定し、そこに向かうこと」とほぼ同義ですが、これまでもさまざまな目標管理の方法や理論が提唱されてきました。それでも、多くの企業は目標の設定や管理、達成に苦労しており、それは小さな企業でも、世界的な大企業でも変わりません。

本記事で紹介するOKRは、いわゆる最新の管理手法ですが、目標をシンプルかつ明確にし、それらを効果的に追い求めるための概念・制度といえます。本記事ではOKRの特徴、これまでの管理手法との違いに加え、効果的な導入・運用方法についてお伝えします。

あらゆる企業・事業における目標設定・管理に役立てていただければ幸いです。

1.OKRの意味と目的・主要な目標との違い
1-1.OKRの意味と目的
1-2.OKRを構成する基本要素
1-3.ノルマ、KPI、KGIとの違い
2.OKRとMBOの違い、それぞれ向いている業種・企業
2-1.OKRとMBOの違い
2-2.OKRが向いている企業・業種
2-3.MBOが向いている企業・業種
2-4.企業やビジネスの状況に合わせた組み合わせを模索する
3.OKRを導入する4つのメリット
3-1.コミュニケーションの活発化
3-2.従業員のモチベーション向上
3-3.従業員・事業の成長幅の拡大
3-4.取り組む課題の選択と集中
4.OKRを導入・運用する手順
4-1.全社OKRの設定
4-2.事業部門ごとのOKR設定、全社OKRの調整
4-3.個人OKRの設定
4-4.進捗評価:チェックインミーティング
5.OKRをより効果的に運用する方法
5-1.フラットな組織づくりを目指す
5-2.「重要だが緊急度が高くない」業務に目を向ける
6.OKRを人事評価に用いるべきか?
7.まとめ:OKRを効率的に導入しよう

OKRの意味と目的・主要な目標との違い

OKRは「目標の設定・管理」をする手法です。ここでは、OKRの意味や目的、OKRの基本要素と、似たような意味で使われる「ノルマ」「KPI」「KGI」との違いを解説します。

OKRの意味と目的

OKRとは目標の設定・管理手法の1つで、「Objectives and Key Results」(目標と主要な結果)の略称です。米インテル社が導入したことで広まった手法であり、GoogleやFacebookのような有名企業にも取り入れられています。

OKRは、事業上の「目標」と「重要な結果」を明確化し、それらの進捗を定期的に確認できるようにするのが目的です。また、高い頻度で設定・レビューを行うという特徴もあります。

OKRを構成する基本要素

OKRを構成する基本要素はObjectives(目標)とKey Results(主要な結果)です。1つの「目標」に、複数の「主要な結果」が付随するのがOKRの基本形です。

Objectives(目標)

Objectives(目標)は、文字通りOKRにおける目標となりますが、Objectives(目標)はできる限りシンプルであるのが望ましいとされています。また定量的な目標ではなく、定性的なものがよいとされています。OKRにおける目標はいわゆる「ムーンショット」であり、チームのモチベーションを刺激するような、高い目標を設定すべきとされています。

Key Results(主要な結果)

Key Results(主要な結果)は、Objectives(目標)につながる具体的な指標を指します。1つのObjectivesに対して、2〜5のKey Resultsを設定するのが理想の形です。

定性的なものを定めるObjectives(目標)とは異なり、Key Results(主要な結果)では定量的な指標を設定します。「難しいがベストを尽くせば到達できそう」なものを定め、6割から7割ほどの達成度で成功とみなします。

ノルマ、KPI、KGIとの違い

OKRと似たような意味として使われる単語としては、「ノルマ」「KPI」「KGI」があります。しかしこれらはあくまで目標であり、目標設定・管理の手法であるOKRとは意味が異なる用語です。ここではOKRとノルマ、KPI、KGIとの違いについて解説します。

単語 意味
OKR 目標の設定・管理をする手法
ノルマ 最低限達成すべき目標・指標
KPI 中間的な目標を把握・管理するために設定される定量的な指標(重要業績評価指標)
KGI 大きな目標を達成するための指標(重要目標達成指標)

ノルマとの違い

ノルマは「達成すべき目標」であり、「営業のノルマ」「売上のノルマ」といわれるように、目標のなかでも、最低限達成すべき数値という意味で用いられます。しかしOKRは、いわゆる「ムーンショット」として、達成困難な目標や未踏のチャレンジを目指します。

KPIとの違い

KPI(Key Performance Indicator)は、「重要業績評価指標」であり、KGIのような最終目標に対する中間的な目標を把握・管理するために設定される定量的な指標です。

KPIの特徴は、あくまでも定量的な指標になっていることです。OKRの取り組みでも定量的な指標は用いられますが、KPIの方がより具体的な数値を設定します。

KGIとの違い

KGI(Key Goal Indicator)は、「重要目標達成指標」であり、大きな目標を達成するための指標です。KPIは目標達成のための中間的な指標であるのに対し、KGIは最終目標を指します。

KPIの項目で見たものと同じように、KGIはより具体的かつ定量的な指標です。KGIはあくまでも目標の指標であり、目標管理の手法を指すOKRとは性質が異なります。

OKRとMBOの違い、それぞれ向いている業種・企業

OKRと同じく主要な目標管理手法として用いられるのがMBOですが、それぞれは根本的な思想から、具体的な管理方法まで異なります。ただし、どちらかが正しいというわけではなく、両者の性質を理解し、自社に合った形で上手く組み合わせるとよいでしょう。

OKRとMBOの違い

OKRとMBOの違いは、「評価期間と頻度」「目標の性質」「目標を共有する範囲」「目標達成の基準」の4つの項目が挙げられます。

評価期間と頻度

MBOは1年、短くても半期での評価を行う一方、OKRは四半期またはそれより短い期間で目標を見直します。MBOは中間評価といった形で、会計年度の半期または四半期ごとに目標に対する進捗を確認します。一方OKRは、チェックインミーティングのような形で、週1回などの頻度で進捗を共有・確認します。

目標の性質

OKRとMBOでは目標の性質も異なります。OKRは、定性的なObjectivesと定量的なKey Resultsを組み合わせることで評価する手法です。

一方のMBOは、一般的には定量的な目標を用いる手法です。OKRと異なり、定性的な指標と定量的な指標を組み合わせるやり方ではないこと、後述のように達成基準も変わることから、根本思想が異なる手法といえます。

目標を共有する範囲

MBOは、個人に合わせて目標を設定するマネジメント手法であり、直属の上司と目標を設計し合意・共有するものです。一方のOKRは、個人の目標ではあるものの、上司や部署の枠を超えて目標を全社的に共有する特徴があります。

目標達成の基準

目標達成の基準にも大きな違いがあります。MBOは、目標を100%達成することが原則です。そのため、個人に課されるのは、あくまでも「達成すべき目標」となります。

一方のOKRは「ムーンショット」を目指すものであり、基本的には60~70%の達成率に着地するような目標を設定します。

OKRが向いている企業・業種

OKRは評価スパンの短さや設定基準の高さ(いわゆるムーンショット)、そして関わる範囲の広さが特徴です。そのため、PMF(Product Market Fit)途上のベンチャー企業や、プロダクトやサービスの転換・成長が求められる部署・企業がOKRに向いているといえるでしょう。加えて経営層やマネジメント層など、全社的に関わり、かつ事業への強いコミットが求められる役割にも適した手法です。

MBOが向いている企業・業種

MBOはOKRに比べて評価スパンが長く、部下と上司の間で管理を行う手法となっています。OKRに比べてトップダウン型なので、運用が比較的簡単なのも大きな特徴です。そしてムーンショットを目指すOKRとは異なり、「100%達成すべき目標」を立てます。MBOの導入に適しているのは基本的には大企業であり、プロダクトやサービスがすでに市場に受け入れられ、その維持を主眼とする企業に向いています

企業やビジネスの状況に合わせた組み合わせを模索する

OKRとMBOはそれぞれ特徴が異なり、向き・不向きもあります。しかし、「ベンチャーであればOKRを導入し、大企業であればMBOを使えばよい」のかといえば、そうではありません。

大企業でもPMF的な動きが求められる場合は、OKRが適しています。一方、ベンチャーにおいても、上司と部下の間で目標を管理したい場合は、MBOを導入するべきです。

「どちらが正解」という話ではなく、目標を達成し、従業員のモチベーションを高める方法を探す観点から、OKRとMBOを組み合わせるのが重要です。

OKRを導入する4つのメリット

OKRを導入すると、社員が目標を明確にし、大きな成長を目指すきっかけを持つといったメリットがありますが、より具体的な目標設定のメリットを5つ紹介します。

1.コミュニケーションの活発化

代表的なメリットとしては、コミュニケーションの活発化が挙げられます。OKRは全社で同じ目標を共有し、同じ方法で進捗を管理するため、部署ごとにばらつきが発生しにくくなります。

そして、全社で目標を揃えることは、その目標がいわば社内の「共通言語」になることを意味します。OKRが浸透すれば、各部署・社員が施策を行う際も「自社の目標に照らしてどうか?」「目標を達成するべきに今何をすべきか?」といった議論が生まれやすく、闊達な交流が期待できるでしょう。

2.従業員のモチベーション向上

上記のコミュニケーション活発化に加え、モチベーション向上が期待できることもOKRのメリットです。OKRは「目標」と「主要な結果」という極めてシンプルな形で目標設定・管理を行う手法であり、「自分が何を目指すべきか」を明確にすることが可能です。そのため、社員にとっても「今」何をするべきかが明確になり、それを達成することでどのような結果がもたらされるかを納得感をもって把握することができます。

一方、モチベーション向上のためには、目標設定・管理を明確にすることに加え、達成によってどのような評価・報酬が期待できるかを明示することも必要です。その面では、OKRに加えて人事評価の制度を整備することが必須でしょう。

3.従業員・事業の成長幅の拡大

OKRはこれまで伝えたように未踏の目標、「ムーンショット」を目指すものです。例えば、MBOといった管理手法やノルマなどの目標においては、「100%達成」が前提であり達成度合いが評価に直結するため、ともすると保守的な目標を置くことになり、結果として社員の成長幅が小さくなる可能性があります。

一方、OKRは適切に管理・運用することで、ストレッチした目標による能力の底上げが期待でき、それに伴って事業全体も大きくドライブできるかもしれません。ただし、後述のように目標と評価を直結させないことが前提であり、従業員の挑戦・失敗を容認し、心理的安全性を担保することが求められます。

4.取り組む課題の選択と集中

OKRは1つの目標といくつかの主要な結果を設定するため、期間中のやるべきことが明確になり、自身や企業のリソースをそこに集中できます。目標管理のよくある失敗として、「目標は設定したが何をすべきか分からない」「目標に紐づかないタスクに忙殺される」といったことが挙げられますが、週次のチェックインミーティングを行うことで、自分が行ったこと、目標に対する進捗を振り返ることができ、自分が取り組むべき物事に集中できるようになります。

OKRを導入・運用する手順

OKRを適切に導入・運用していく手順は次の6つです。手順1〜3はそれぞれ1か月程度の期間を想定しておき、実際の運用に入るまでは3か月程度の余裕を見ておくとよいでしょう。

  1. 全社OKRの設定
  2. 事業部門ごとのOKR設定、全社OKRの調整
  3. 個人OKRの設定
  4. 進捗評価:チェックインミーティング
  5. 定期的な更新

1.全社OKRの設定

まずは経営者、役員、事業部門長によって全社OKRを設定します。Objectives(目標)は定性的、シンプルかつ具体的な「企業・事業が到達したい状態」を設定し、Key Results(主要な結果)は目標を達成するための定量的な数値を設定します。

次の点に留意しながら設定するとよいでしょう。

  • Objectivesについて
    • シンプルで具体的な内容になっているか?
    • 四半期で70%の到達となるような「野心的」な内容か?
    • 自身がこれを聞いたときに、やる気になるような表現か?
  • Key Resultsについて
    • 計測可能な内容か?
    • 難しい一方、実現不可能ではないか?反面簡単すぎではないか?
    • ObjectivesとKRの達成に因果関係が存在するか?

2.事業部門ごとのOKR設定、全社OKRの調整

次に、各事業部門において意見を集め、自部門のOKRを設定することになります。前述のようなポイントを意識することに加え、自部門のOKRが全社OKRにどのような影響を与えるかについても考える必要があります。

一方、全社OKRに紐づく形で自部門のObjectivesやKey Resultsが設定できない場合もあるでしょう。その場合は、経営に対して理由を明示するとともに全社のOKRの調整を行うことになります。そのため、手順1と2は何往復か発生することになり、ある程度期間にゆとりを持つことが必要です。

3.個人OKRの設定

個人のOKRも、上長やメンターとの1on1・ミーティングを通じて事業部門のOKRに紐づく内容を設定します。

加えて、個人のOKRも全社に共有し、日々のタスクに落とし込むことで常に進捗が追える状態にすることが重要です。

4.進捗評価:チェックインミーティング

OKRが他の目標管理手法と違うところは、週次といった細かいスパンで確認・改善を行うところにあります。

OKRの管理でよく使われる手法が「チェックインミーティング」と言われる会議体であり、週次・短時間で次の4点を確認します。

  1. OKRの進捗
  2. OKRに対する自信度
  3. OKR達成における課題
  4. 達成のための次の一手

「OKRの進捗」は文字通り、期初に立てたOKRに対する達成度を確認するものであり、期間内にどれだけ達成できるかの見通しも合わせて報告します。

「自信度」は上記に合わせてOKRを達成できる可能性を「1~10」の数値で伝えることが多いです。1は「実現不可能」を意味し、設定したOKRが難しすぎた、現実性がなかったと考えることができます。一方10は「楽勝」と言ってもよく、そもそもの目標が保守的過ぎたと考えることができます。あくまで感覚的ですが、理想は「5~6」の「難しいが、努力すれば達成可能」である目標を立てることであり、期中であったとしても目標の調整・方向転換を行う必要があります。

「課題」や「次の一手」は文字通り達成における次のタスクを意味しますが、チェックインミーティングで重要なのは未達を責めるものではなく、「どうすれば現状をよりよくできるのか」を考える場として利用することです。

OKRをより効果的に運用する方法

OKRは目標のシンプル化、細かな進捗確認といった成功率を上げるための仕組みが整っているとはいえど、様々な制度と同じく形骸化するリスクは避けられません。また、OKR自体が高い目標を自身に課すものであり、従業員の負担、いわば「息切れ」の状態にならないよう気を配る必要があるでしょう。

ここでは、OKRが形骸化せず、また、適切な運用ができるようにするためのポイントをお伝えします。

フラットな組織づくりを目指す

まず意識したいのは、フラットな組織づくりを目指すことです。OKRは全社が共有するものなので、課題や意見を積極的に表明し、議論を重ねられる環境が必要になります。上司・部下といった関係を超え、相互に議論できる空気が求められます。

他方、上司が威圧的であったり、部下の意見を聞き入れないような職場であれば、貴重な意見が出てこなくなります。OKRを効果的に運用するためにも、普段から組織の風通しをよくするような工夫が大切です。

「重要だが緊急度が高くない」業務に目を向ける

「重要だが緊急度が高くない」業務に目線を向けるのも重要です。とはいえ、普段の仕事は「重要ではないが緊急度が高いもの」「重要かつ緊急度が高いもの」に多くが占められています。例えば日々のメールの返信、請求書の対応、決裁・承認の対応、報告の会議やその資料作成…挙げればキリがありません。その一方で、「重要だが緊急度が高くない」業務は、自社の長期的な戦略、企業風土の醸成、ミッション・ビジョン・バリューの定義と浸透といった、生半可でなく、かつ、対応に時間がかかるものばかりです。

しかし、よくよく考えると、OKRに代表されるような「野心的な」目標は、いずれも「重要だが緊急度が高くない」地点を示すことに気づくでしょう。前置きが長くなりましたが、日々の「緊急度」に振り回されるあまり、本当にやるべきことに手が付けられなかったというのは、どこにでもありふれた話です。

だからこそ、OKRを実践するにはチームメンバーやリーダーの目が重要になります。毎週のチェックインミーティングで、「今週やったことは、OKRの達成に役立ったのか?」を常に問うことが必要でしょう。もし、他の業務に忙殺されているようなら、「完全にその業務をなくす」「外注・システム化によって工数を減らす」「別の関係者に割り当てる」といった方策を検討します。

OKRだけでなく、大事なことは「何をやるか」よりも「何をやめるか」に尽きるでしょう。

OKRを人事評価に用いるべきか?

一般的に、OKRは人事評価と連動させません。評価と連動させてしまうことで、従業員が保守的で簡単に達成可能な目標を立てる可能性があるからです。

OKRの基本思想は、「ムーンショット」に代表されるように、一見すると達成困難な目標を立てることで事業・個人を飛躍的に成長させることにあります。その結果によって報酬や役職が決められてしまうと、従業員に大きなストレスがかかります。

一方で、OKR以外の「継続的パフォーマンス評価」といった制度を設計して運用することは非常に工数がかかり、リソースの足りない企業にとって現実的ではないでしょう。

そこで一つの解決策として考えられるのが、「KRの達成度合い」と「企業のバリューをどれだけ体現しているか」という2つの軸によって評価を行うことです。一部分でOKRと人事評価を連動させることにはなりますが、「100%の達成ではなく50~60%の達成であっても評価する」という運用を行えば従業員に過度なストレスはかかりにくく、保守的な姿勢になる事態を防げるでしょう。

まとめ:OKRを効率的に導入しよう

今回はOKRについて、メリットや効果的に運用する方法など、幅広く解説しました。OKRは、目標をシンプルかつ明確にし、結果を効果的に追い求める手法ですが、メリットやコストを整理しつつ、導入・運用するかどうかを考えましょう。

OKRを効率的に運用するためには、フラットな組織づくりやリソースの選択と集中など、意識すべきポイントが多くあります。今回解説した内容を参考にして、ぜひ事業に役立ててください。