事業計画書は目的と用途にあわせて作る!種類別テンプレートを紹介
事業計画はビジネスのいわば「設計図」としての役割を果たしますが、それを内外に示すために作成するのが事業計画書。事業計画書には目的と用途があり、それにあわせた書き方が求められます。
本記事では、これから起業する方や創業から間もない方がビジネスの計画を立てる場合や、投資や融資を受けるために活用できる、種類別の事業計画書の書き方を解説しました。
1-1.ビジネスの「設計図」としての事業計画書
1-2.スタートアップの投資家向け資料
1-3.金融機関からの融資を受ける場合の事業計画書
1-4.補助金・助成金の申請書類の一部としての事業計画書
1-5.新規事業を立ち上げる場合の事業計画書
1-6.中長期事業計画
1-7.業務提携、M&A、事業承継の際に作成する事業計画書
2.目的・用途別の事業計画書テンプレート
2-1.新たに事業を始める方、スモールビジネス向けの事業企画書
2-2.スタートアップの投資家に向けた事業計画書
2-3.金融機関から融資を獲得するための事業計画書
2-4.補助金・助成金を獲得するための事業計画書
3.まとめ
事業計画書を作成する目的・用途
一口に事業計画書といっても、大手企業がIRの一環として公開している中長期の事業ロードマップから、飲食店を開業するにあたって公的金融機関に融資を申請する際の創業計画書まで、事業計画書の目的と用途はさまざまです。
まずは、事業計画書には以下のような目的・用途があることを確認しましょう。
ビジネスの「設計図」としての事業計画書
ビジネスを継続して成長させるには、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営リソースの効率的な運用が欠かせません。
そこで、事業に必要な体制や見込まれる費用、利益の見通しなど、ビジネスの仕組み全体を計画し、それに沿って試行錯誤を繰り返すことで失敗の可能性を少なくできるでしょう。
また、策定された事業計画書は組織全体の業務遂行の指針となり、意思決定の判断基準となります。つまり、事業計画書はビジネスの設計図であり、事業の存続と成長のため継続的に運用するものです。
スタートアップの投資家向け資料
スタートアップが創業・起業の各段階で投資家から資金を獲得する目的で、ビジネスの価値と実現可能性のアピールに用いる資料も事業計画書のひとつです。「事業計画」と聞いたときに、こちらをイメージする方が多いかもしれません。
「ピッチ・プレゼン資料」として作成され、ビジネスの革新性や市場に対するインパクト、ユニークな洞察などが重視されます。これまでにないビジネスの将来的な可能性を示す、納得度の高いロジックが求められます。
金融機関からの融資を受ける場合の事業計画書
スモールビジネスの開業資金など、金融機関から融資を受ける際にも事業計画書が必要です。投資のための事業計画書のような新しいビジネスの期待度が求められるものではありませんが、融資資金が回収できる見込みが重視されます。
既存事業の見通しや新しく行う取り組みの実現可能性など、収支の数値的な説得力と裏付けが必須です。
補助金・助成金の申請書類の一部としての事業計画書
公的な補助金や・助成金を申請する際にも、申請書類の一部として事業計画書の作成が求められます。
資金調達という意味では前述の投資や融資のための事業計画書と同じですが、補助金や助成金は目的を持って給付されるものであるため、それぞれの補助金・助成金の目的・趣旨と給付要件に沿ったものを作成しなければなりません。
新規事業を立ち上げる場合の事業計画書
会社が新しい事業を立ち上げる際、社内の承認を得るために事業計画書が作成されます。この場合は企画書としての意味合いが強くなるでしょう。
新規事業企画の起案者と作成者はそれぞれのケースによりますが、経営上層部が新規事業について検討し、実行に移すかどうかの判断材料となるものです。
中長期事業計画
また、上場企業など実績のある会社が、社内と株主等のステークホルダーに向けて全社的な方針を示す、中長期の事業計画書としての性質もあります。
企業理念や経営方針といった企業のあり方を示すとともに、事業戦略の骨子や外部環境への対応といったマクロ的な見通しを記載することが一般的です。
業務提携、M&A、事業承継の際に作成する事業計画書
複数の企業が関わり、資金・事業のやりとりや組織の分割・統合などを行う場合にも事業計画書が作成されます。事業・業務提携の事業計画書は提携後の事業・業務のあり方や仕組み、取り決めなどを記載します。
M&Aの場合は、売却側が買い手となる仲介会社やファンドなどに向けて、財務面を中心とした売却企業・事業価値の客観的評価を記載します。
事業承継で作成される事業計画書は「事業承継計画書」といわれ、後継者交代のスケジュールが記載されます。単なるトップの交代にとどまらず、財産分配や納税などを含めた資金計画、承継後の新たな事業の取り組み方など長期的な計画を想定します。
目的・用途別の事業計画書テンプレート
さまざまな事業計画書、これから事業をはじめる方、起業したばかりの方にはどれが関係するのでしょうか。ここでは、起業家に関連のある事業計画書の例をご紹介します。
すべて資金調達を目的とするものですが、外部に向けて作成する事業計画書には、それぞれの種類ごとに特徴があるため、用途に応じた作成のポイントを知っておくことが必要です。
新たに事業を始める方、スモールビジネス向けの事業企画書
①日本政策金融公庫の創業者向け事業計画書
出典:日本政策金融公庫「創業の手引」p.7、8
上記の事業計画書は日本政策金融公庫の国民生活事業(7,200万円までの融資)を受ける際に、創業予定者、個人事業主、小規模企業の方が作成する創業計画書です。
この創業計画書には、次の項目を記載します。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品・サービス
- 取引先・取引関係
- 従業員
- 借り入れの状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し(月平均)
- 自由記述欄(追加でアピールしたいこと、事業を行ううえでの悩み、欲しいアドバイス等)
この事業計画書の見本は日本政策金融公庫の「創業の手引」に記載されており、書式そのものは日本政策金融公庫のサイトからダウンロードできます。
「創業の手引」にはこれから事業を始める方に向けて、「ビジネスプランの立て方」と事業計画を立てる際の基本的な考えがまとめられています。
- ビジネスプランの策定ステップ
- アイディアの整理
- ビジネスモデルの検討①、②
- 資金計画
- 収支計画
- 返済計画
- 売上予測
これらの要素は、ほとんどの事業計画書に共通するものであり、事業の設計図を作る上で基本となるものでしょう。このほかにも「創業の手引」には、創業に伴う届出や税金、資金繰りなどについてわかりやすく解説されています。
これからビジネスを始める方、事業計画書の作成にはじめて取り組む方は一読してみてはいかがでしょうか。
スタートアップの投資家に向けた事業計画書
②Airbnbのピッチ資料
出典:Slideshare
スタートアップがビジネスのアイディアやビジネスモデルの価値を、短い時間のなかで投資家に理解してもらうために作られるのがピッチ資料です。ピッチはプレゼンテーションと同じですが、短時間でポイントを伝えることを目的としています。
上記のスライドは、日本でいう民泊のビジネスモデルで急成長を遂げた米Airbnbの初期ピッチ資料を取り上げました。全14枚の各スライドは文字数も少なく、チャートや数値を用いながらビジネスモデルを端的に説明しています。
ピッチ資料に書くべき項目は特に決められたものがありません。ですが、少ない情報量でいかにビジネスの全体像をわかりやすく表現し、投資する価値を納得させることに重点が置かれているかがわかるかと思います。
投資家向けのピッチ資料に書かれる一般的な内容を下記にまとめました。
- 世の中で解決されていない課題
- ミッションやビジョン
- 課題の解決策
- 課題を解決することによってどれだけの新しい市場が生まれるかとその根拠
- 課題解決のためのビジネスモデル
- 市場環境や競合状況
- 自社の強み
- チームメンバーの経歴
- 資金調達の概要
スタートアップは、アイディアの段階から事業化する段階、黒字化する段階など成長過程のいくつかの段階で資金調達を行います。そのため、各段階に応じた資金調達にあわせてピッチ資料が作成されます。
金融機関から融資を獲得するための事業計画書
③東京都 「女性・若者・シニア創業サポート事業」において信用金庫・信用組合に提出する事業計画書
出典:東京都 「女性・若者・シニア創業サポート事業 事業計画書記入例」
新しく事業を始める場合の創業融資や創業間もない会社が融資を受ける場合、最初にあげた日本政策金融公庫や信用金庫・信用組合が一般的な借入先となります。
上記の例は、東京都の創業支援事業「女性・若者・シニア創業サポート事業」を取り上げました。こちらは信用金庫・信用組合を窓口とする創業融資のための事業計画書です。
ちなみに、「女性・若者・シニア創業サポート事業」は①39歳以下の女性、②55歳以上の男性、③これから創業する方または創業後5年未満の方を対象とし、1,500万円までの借り入れができる制度です。
この事業計画書では以下のような項目を記載する必要があります。
1.申請者 ・法人名・屋号 ・開業事業所の住所 ・業種 ・代表者 ・事業開始届出予定日、許認可等 2.事業内容 ・代表者経歴 ・経営理念・目的・動機 ・事業コンセプト ・事業内容 ・雇用・人員計画 ・地域連携・情報発信計画 ・補足事項 (計画の実現性・実行スケジュール) |
3.販売先・仕入先(予定) ・主な販売先・受注先 ・主な仕入先・外注先 4.必要な資金と調達法 ・ 設備資金(資金の使途・調達の方法) ・運転資金(資金の使途・調達の方法) 5.収支計画(創業当初・軌道に乗った後) ・売上高 ・売上原価 ・経費 人件費 家賃 支払利息 その他 ・利益 6.ビジネスモデル図 |
投資を獲得するための事業計画書は「将来性」が求められますが、融資目的の事業計画書は「過去の実績」が重視されます。
この点で、創業時は事業の実績がなく金融機関との取引が浅いため、金融機関からの融資は条件が厳しく、ハードルの高い資金調達方法と言えるでしょう。
金融機関の種類ごとに見ると、都市銀行、地方銀行、信用金庫・信用組合という順番で創業融資を獲得できる可能性が高まり、政府系金融機関である日本政策金融公庫や自治体が設ける創業支援の制度が、創業者や実績の浅い会社の借入先となることが一般的です。
補助金・助成金を獲得するための事業計画書
④「事業再構築補助金」に申請する際の事業計画書
出典:経済産業省「事業再構築補助金 採択事例紹介」
最後に、補助金や助成金の事例を紹介します。
補助金や助成金においても、創業資金の助成を目的とするものや、中小企業が特定の目的に使う資金を対象とするものがあります。こちらについても、事業計画書が求められるケースがあります。
上の事例は、経済産業省の「事業再構築補助金」に採択された企業の事業計画書を紹介しています。こちらの「事業再構築補助金」は、新型コロナウイルス感染症の影響により経営が悪化した事業者に向けて、業態転換や新規事業の展開などを支援する補助金です。
この事業計画書では、コロナ禍による自社の業績や業界全体の影響を踏まえ、どのように既存事業を再構築するかを具体的に示します。加えて、実施にあたっての機会と脅威、自社の強みと弱みなどの分析、収支計画や成功に向けた取り組みといった詳細が求められます。
また、数多くの自治体が創業者に支援を行っています。例えば、地元で創業するスモールビジネスなどを対象とした補助金・助成金の制度が多く確認できるでしょう。この場合も、事業計画書が求められますが、先ほどの③東京都「女性・若者・シニア創業サポート事業」と同じような事業計画書が書ければ問題ありません。
まとめ
経営を継続させ会社を成長させていくために事業計画は必要です。その計画は経営者が頭の中で常に考えていることを形にしたものといえるかもしれません。
それを対外的に示すものが事業計画書であり、事業が生み出す価値が認められれば、投資や融資という事業の存続や成長の機会を得る可能性が開かれます。
これから事業計画書を作る方は、目的や用途に沿った書類を作るということにとどまらず、自社を取り巻く環境を分析し、過去の実績と将来の見通しを客観的に厳しく評価する視点が必要かもしれません。