事業計画の作り方を徹底解説!重要な項目とポイントを紹介
事業計画は経営・人事・会計・総務・営業など、あらゆる部門の基本指針でもあります。
事業計画は創業時や資金調達のためだけに作るものではなく、戦略の見直しや、新規プロジェクト、人事計画立案など、さまざまな場面で組織の方向性を統一し、必要となるアクションを伝えるツールです。
精度の高い事業計画、「先の見通し」を立てることで、廃業を回避し、企業の成長をさらに早く、強くすることが可能でしょう。
この記事では、事業計画の目的、具体的な作り方・制作期間や仕上げるべきイメージをご紹介します。
2.事業計画を立てる目的とメリット
2-1.経営者自身の思考が整理される
2-2.他のメンバーと方向性が共有できる
2-3.必要な経営リソースが逆算できる
2-4.経営上重要なKPIの見定めに役立つ
2-5.経営の軌道修正に役立ち、目標が達成しやすくなる
2-6.資金調達で活用できる
2-7.先を見越して採用活動ができる
3.事業計画でカバーすべき項目
3-1.WHO:誰とやるのか?
3-2.WHAT:何をやるのか?
3-3.WHY:なぜ、それをやるのか?
3-4.WHEN:いつまでにやるのか?
3-5.WHERE:どの業界、領域で始めるのか?
3-6.HOW:どうやって実現するのか?
3-7.HOW MUCH:どれだけの資金が必要か?
4.事業計画書の書き方・記載項目
4-1.企業概要・組織体制
4-2.事業コンセプト・理念
4-3.想定する顧客(ペルソナ)
4-4.商品・サービス(提供価値)の概要
4-5.競合状況・市場環境と自社の強み
4-6.売上目標・財務計画
4-7.事業スケジュール
4-8.事業・マーケティング戦略
4-9.リスク・不確実性情報
5.事業計画に必要な収支計画の立て方
5-1.必要な固定費を挙げる
5-2.変動費を計算する
5-3.売上予想・目標を立てる
5-4.損益分岐点を試算・目標利益率を決める
6.効果的な事業計画を作成するために意識したいポイント
6-1.活用場面を把握しておく
6-2.分かりやすく簡潔な内容にする
6-3.客観的なアドバイスを求める
6-4.リスクや弱点についても十分に検討する
6-5.継続的に事業計画をアップデートする
7.事業計画作成の失敗を避けるために重要なこと
7-1.ターゲット(想定顧客)を絞り切る
7-2.あったらいいな(Nice to have)ではなく、なくては困る(Must Have)を提供する
7-3.提供価値を絞る
7-4.競合優位性を構築する
7-5.ピボットを恐れない
8.事業計画についてのよくある疑問
8-1.何年先まで計画するべき?
8-2.根拠にするデータの調べ方は?
8-3.事業計画書は何ページ必要?
9.作りこまれた事業計画でビジネスを成功へ導く
そもそも事業計画とは何か
事業計画の作成方法を確認するにあたり、改めてその定義を確認しておきましょう。
事業のコンセプトや目標・戦略、そのための行動過程などを記載した文書
出資・融資を受けるために作成することもありますが、事業見直しの指標や人事計画などに使用する資料としても作成されます。文書やスライドの形でまとめるのが一般的で、誰に事業計画書を見てもらうのかによって記載内容の粒度を調整し、目的にあった形で作成されます。
事業計画は創業時に作ってそのままにするのではなく、事業がスタートした後も戦略の見直しなどのため、定期的に更新が必要になることも珍しくありません。
事業計画は、その内容や精度次第では売上やビジネスの展開に大きく影響することもあります。
事業計画を立てる目的とメリット
なぜ事業計画を作る必要があるのでしょうか。
事業計画を立てるには多くの分析や計算が必要で、手間と時間がかかるものです。それにもかかわらず、多くの事業者が事業計画を作っています。
中小企業庁の作成した「小規模企業白書」によると、法人の64%が事業計画(経営計画)を「作成したことがある」と回答。多くの企業が事業計画の必要性を感じ、実際に作成しています。なぜ事業計画を作る必要があるのか、その目的とメリットを以下にまとめました。
経営者自身の思考が整理される
事業計画を作ることには、作成する過程を通じて事業のアイデアが整理・可視化されるというメリットがあります。
頭のなかだけで考えているよりもビジネスの全体像が具体化され、粒度の深い部分や改善すべき点についての気づきを得られることもあるでしょう。
実際、多くの企業がこの点にメリットを感じて事業計画を作成しています。前述の「小規模企業白書」では、事業計画(経営計画)を作成した理由について、「経営状態を正しく知りたかったから」と回答した企業は58.1%と半数以上を占めています。
事業計画を作ること自体が、自己分析ツールとして機能するということです。
他のメンバーと方向性が共有できる
経営者の考えを他のメンバーと共有するためにも、事業計画が役立ちます。
事業計画のない経営は、目的地も地図もなく荒野を走り続ける状態に近いといえるでしょう。
地図の役割を果たす事業計画を作成して他のメンバーと共有することで、目的地とそこへ至る方法、時間軸が関係者全員のなかで明確になります。その結果、全社員が自身の役割を理解し、自律的に正しいアクションを行いやすくなるのです。
必要な経営リソースが逆算できる
経営リソースがどのタイミングで必要となるかが逆算できることも、事業計画を立てるメリットです。経営リソースには以下の4つがあります。
- ヒト:人員計画
- モノ:設備投資や製品開発
- カネ:資金調達
- 情報:顧客データや市場動向等
いずれも必要になってから取得するまでに数ヶ月、長い場合には1年以上かかることもあるため、不足が発生してから動き出していては間に合いません。
事業計画を立てることで、どのタイミングでどの程度のリソースが必要になるかを前もって知っておくなら、経営リソース確保のために早めに動き出すことができます。
経営上重要なKPIの見定めに役立つ
事業計画を策定することで、会社の売上や利益に大きな影響を及ぼすKPIを見定めることができます。
KPIとは「重要業績評価指標」のことで、目標を達成するまでのプロセスで到達するうえで不可欠な数値目安。経営上のゴールとして設定する目標をKGI(=経営目標達成指標)と呼びます。
特に事業計画に必要な要素の1つである「収支計画」の策定をすることで、KGIを達成するために必要なKPIが、精度の高い数値として現れてくるはずです。
重要なKPIが明らかになったなら、そこを達成するために集中的にリソースを投下することで、会社成長のスピードを速めることができます。
経営の軌道修正に役立ち、目標が達成しやすくなる
事業計画で目標が明らかになることで、目標との予実差がある場合にそれが明瞭化され、予実差を埋めるためにすべきアクションが分かりやすくなります。
経営者は、社会情勢の変化などによって事業開始当時と比べて考慮すべき要素が変わっていないかどうか、常に把握していなければなりません。
事業計画を定期的に更新することで、最新の市場調査や社内の状況に合わせて「軌道修正すべき部分」が具体化されます。その結果、採用方針の変更や、資金調達プランの見直しなど、効果的に売上目標を達成するために必要なアクションがしやすくなるのです。
「小規模企業白書」によると、経営計画を作成したことがない事業者と比べて、作成したことがある事業者の方が14ポイント多く「売上が増加」と回答しています。質の高い事業計画は、売上という目に見える結果を生み出すといえるのです。
資金調達で活用できる
優れた事業計画は、資金調達のしやすさにもつながります。
出資や補助金・助成金を受ける際に事業計画の提出を求められることがあり、その内容が審査結果に大きく影響するためです。
例えば「小規模事業者持続化補助金」の申請にあたっては「経営計画書」の添付を要件とし、経営計画にもとづく経営を促しています。
事業計画で数字などの根拠を示すことで、銀行や出資者、補助金・助成金の運営組織が、「この事業は資金を出す価値がある」「安定して返済される見込みがある」と確認しやすくなるのです。
先を見越して採用活動ができる
事業計画は、採用計画のベースとしても利用できるものです。
採用は、半年以上先を見越して動かなければ必要な時に必要な人員を確保することができません。事業計画をもとに採用計画を引くことで、必要な人員の不足に早期に気づくことができ、先手でリソースの確保に向けたアクションを取ることができます。
事業計画は、人員不足による事業成長の停滞を防ぐことにもつながるのです。
事業計画でカバーすべき項目
事業計画を立てるうえで、その内容としてカバーすべき項目を押さえておくことが重要です。思いつくままに記載するだけでは、必要な要素の抜けが発生する可能性があります。
事業計画で特に必須といえるのは「5W2H」です。5W2Hは、物事を明確に伝えるために役立つビジネスの基本ともいえるフレームワーク。そこに含まれる7項目をカバーすることで、事業計画に必要な要素の抜けを避けることができます。
各項目の意味と内容は以下の通りです。
WHO:誰とやるのか?
事業計画における「WHO」には、以下の要素が含まれます。
- 社内メンバー・組織体制
- ビジネスパートナー・提携企業・外注先
- 顧客(ペルソナ)
事業計画には、社内のチームの体制や、それぞれの役割について詳しく記載する必要があります。さらに社内だけでなく、商品・サービスを提供するために必要な外注先やビジネスパートナーなど「社外の要素」も計画することが重要です。
対象とする顧客の具体的な人物像(ペルソナ)についても記載することで、事業計画が具体化されていきます。
WHAT:何をやるのか?
事業計画の「WHAT」とは、扱う商品やサービスのことです。
商品やサービスについて書くといっても、単にその仕様や特徴を記載するだけでは十分ではありません。顧客の抱える「何の課題」を解決するのかを記載することが重要だといえます。
「WHO」で設定した顧客にマッチした価値を提供できるように記載することがポイントです。設定した顧客に対して、後述する「バーニングニーズ」と呼ばれるような、「すぐにでも解決したい」と思う緊急性・必要性の高い問題を解決できる商品・サービスを提供するような内容にできれば、事業計画としての質が高くなります。
WHY:なぜ、それをやるのか?
事業計画の「WHY」は、なぜこの事業をするのかを示すコンセプトや理念などの項目です。
事業の発端となる原体験や、成し遂げたい大儀、アイデアにたどり着いたきっかけなどについて事業計画に記載します。
事業計画に経営者の熱い思いを記載することは、社員が経営者の理念に共感し、単にお金のためだけではない高いモチベーションを維持して働くためにも重要なことです。
金融機関・投資家は、経営者がビジネスを成功へと導く高い意識を持っているかどうかについて、事業計画に盛り込まれた理念やコンセプトをもとに審査します。
このように事業計画の「WHY」は、共感・賛同を得るために大きな役割があるといえるのです。
WHEN:いつまでにやるのか?
「WHEN」は期日や目標・行動スケジュールの部分です。
事業において重要なマイルストーンをいくつか設定し、それぞれに到達する時期はいつなのか、実現可能なスケジュールを設定していきます。
多くの場合、KGI(最終目標)から逆算して、達成すべきKPI(中間地点)をいくつか設定。次にKPIごとに詳しく精査し、いつまでに達成可能かを計算していくという流れが基本です。
事業計画の「WHEN」を具体化することで、思い描いたアイデアを絵に描いた餅にしない姿勢を示すことにもなります。
WHERE:どの業界、領域で始めるのか?
「WHERE」は、事業を展開する業界や領域についてです。
市場や顧客のセグメンテーションを実施して、自社のビジネスが対象とするターゲット層を切り分け、選定します。
ビジネスの主戦場として選んだ業界・領域について、十分な売上を達成できるボリュームがあるかどうか、なぜ最適な選択といえるのかなどについて、具体的なデータなどの根拠を使って示すことが重要です。
HOW:どうやって実現するのか?
事業アイデアが実現可能か、どのように実現するかは「HOW」あるいは「HOW TO」に該当します。
描いたコンセプトや目標・スケジュールが実現可能であることを証明する「根拠」を示す部分です。
テストマーケティングの調査結果や、一般的な市場調査のデータなどをもとに、自社の優位性や実現可能性を示していきます。
HOW MUCH:どれだけの資金が必要か?
事業計画の「HOW MUCH」は、主に資金についての項目です。
商品・サービスの対価としていくらもらえるのか、経済性・キャッシュフローは成り立つのかなどについて、具体的な根拠とともに記載します。
資金調達の目的で作成する事業計画の場合、特にこの項目が重要です。受けられる融資の金額に影響することもあるため、ミスのない計算を実施して、妥当な数字を記載する必要があります。
事業計画書の書き方・記載項目
事業計画書にはどのような内容を含めればよいのでしょうか。
基本的には、前述のフレームワーク「5W2H」を十分に満たす内容を記載していくことで、必要な情報をもれなく盛り込むことができます。
金融機関の作成した「事業計画書テンプレート」や、日本政策金融公庫の「創業計画書テンプレート」などを利用することも可能です。
ここでは事業計画書の記載項目として重要な9つの項目を紹介します。ただし社外用・社内用など提示する相手によって必要な項目は異なり、場合によっては一部を省略することも可能です。
企業概要・組織体制
自社の「事業体としての概要」を記載する部分です。5W2Hの「WHO」にあたります。
WebサイトのURLや、メールアドレス、電話番号、従業員数など、決定している基本情報を記載します。
特に重要なのは、創業メンバーの「経歴や資格、保有するスキル」や、実行部隊である組織体制についてです。
この項目には「なぜこの事業体なら成功するといえるかを示す」という目的があります。資金調達の際には、金融機関や投資家に対して自分たちの強みをアピールするために役立つ項目です。
企業概要・組織体制をまとめることで、自社の特徴や競合優位性を整理でき、取るべき戦略についての気づきを得ることにもなるでしょう。
事業コンセプト・理念
なぜこの事業を始めようと思ったのか、何のために、どのようなことを成し遂げることを目指すのかなどの「理念・ビジョン」を記載する部分です。5W2Hの「WHY」にあたります。
商品・サービスのアイデアを発案したきっかけやエピソードを簡潔にまとめるなど、ビジネスの創業から将来的な成功に至るまでのストーリーが具体的にイメージできるように工夫することがポイントです。
この項目が十分に記載されていることで、投資家や金融機関は、「この経営者は事業に対するモチベーションが高い」「途中で投げ出さずにやり遂げる意志がある」ことを確認できます。
想定する顧客(ペルソナ)
5W2Hの「WHO」を構成するもう1つの要素として、想定する顧客についての項目も必要です。
「ペルソナ」と呼ばれる架空の人物像を設定し、その詳細を記載します。
年齢・性別などの基本情報だけでなく、家族構成や職業、趣味、居住エリアなどを詳しく設定するのがポイントです。人物像のイメージに近い顔写真などを載せてもよいでしょう。
具体的に記載することでメンバーとのイメージ共有ができ、顧客のニーズを深堀りしやすくなります。
商品・サービス(提供価値)の概要
顧客に提供する「提供価値」となる商品やサービスを記載する部分です。5W2Hの「WHAT」にあたります。
提供価値を考える際には「4つの価値」を意識することがポイントです。以下の4つの価値に分類し、商品・サービスによって得られる顧客のベネフィットを考えていきます。
- 機能的価値:高い性能や品質
- 情緒的価値:使用することによって得られるプラスの感情・感覚
- 自己表現価値:所有することなどで得られる自己実現
- 社会的価値:所有や加入によって帰属意識が得られる
「機能的価値」は、製品やサービスの機能性や便利さです。よくある失敗として、機能的価値だけに終始してしまうことがありますが、コスト競争などの表面的な戦いになりやすく、消耗戦になってしまいます。
機能的価値は主に目に見える形で提供されるのに対し、「情緒的価値」は、目に見えない感情や経験として提供されるものです。
さらに「自己表現価値」や「社会的価値」は、顧客のライフスタイルにも影響を与える価値であり、製品・サービスを顧客にとって不可欠な存在にすら押し上げることを可能にします。
これら機能的価値以外を提供することにも注力し、4つの価値全てを提供できるようにすることが重要です。また、販売チャネルや、必要なコスト、リソース、パートナー(取引先)など、商品・サービス提供に必要な要素も練っておく必要があります。
競合状況・市場環境と自社の強み
自社の強みについて、競合や市場の状況と比較してまとめる項目です。5W2Hのうち「HOW/HOW TO」や「WHERE」に該当します。
自社の強み・競合優位性を分析する際には、競合他社や市場規模など「外部の状況」だけでなく、自社の特徴など「内部の状況」と比較して検討していくことがポイントです。ここで役立つフレームワークには「3C分析」や「SWOT分析」などが挙げられます。
強みをまとめることは、銀行の融資を受けるためだけでなく、現状の問題点や今後の課題を明らかにするためにも役立ちます。
売上目標・財務計画
いつまでにどの程度の売上や利益を達成するのか、売上予想や収支計画をまとめる部分です。5W2Hの「WHEN」と「HOW MUCH」に該当します。
この項目では、実際のデータ・市場調査などのエビデンスを示しながら記述することが重要です。収支計画で使用したデータのうち、特に重要なものをピックアップして分かりやすくまとめます。
財務計画については、予想外の事態が発生して目標修正が必要になっても負債が大きくならないように、ある程度の余裕を持たせておくことが重要です。
事業スケジュール
目標達成に必要な具体的なタスクスケジュールを整理して記載します。5W2Hの「WHEN」にあたる項目です。
目標とする期日から逆算して、それを達成するために必要な各タスクに費やせる期間を設定していきます。
関係する社内メンバーや金融機関の担当者が一目で確認できるよう、できるだけ視覚的に分かりやすく記述することが重要です。例えば「ガントチャート」などの図で示すと分かりやすくなるでしょう。
事業・マーケティング戦略
商品・サービスを広く普及させ、売上目標やスケジュールを達成するために自社が取るべき「マーケティング戦略」を詳しくまとめます。5W2Hの「HOW/HOW TO」にあたる項目です。
販売チャネルや、商品・サービス提供のために必要なコスト・リソース、パートナー(取引先)など、提供価値を実現する方法を詳しく記載します。
価格設定やキャンペーン内容などを具体的に記載することがポイントです。「なぜこの戦略が効果的といえるのか?」という視点を意識して、実現可能性の根拠を示していくことも求められます。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)なども考えた長期的な戦略を立てることも重要です。
リスク・不確実性情報
事業のリスクや不確実な要素についても記載することが大切です。これも5W2Hの「HOW/HOW TO」に関係します。
事業の成長を妨げるどのようなリスクが考えられるか、そのためにどのような対策ができるかを記載する部分です。
この項目が充実していることで、売上の低下や損失に対してあらかじめ備えることになるだけでなく、マイナス面を無視せず十分に検討していることを金融機関や投資家にアピールすることにもなります。
事業計画に必要な収支計画の立て方
事業計画と合わせて、お金の流れに特化した「収支計画」も詳しく立てる必要があります。企業の血液ともいわれるお金の流れに問題があると負債が膨らみ、事業が失敗に至りかねません。収支計画を立てる際の基本的な手順を、4つの手順に分けて以下に解説します。
1. 必要な固定費を挙げる
事業に必要な費用のうち、まずは「必ずかかる固定費用」を挙げていきます。
オフィスのテナント料や、インターネット料金、ソフトウェア使用料、設備リース料など、毎月の金額があらかじめ決まっている費用です。
固定費の合計額が、事業を運営するうえで最低限必要な支出のベースとなります。
2. 変動費を計算する
次に、必要な支出のうち「変動する費用」を計算します。例えば以下の費用です。
- 水道光熱費
- 人件費
- 外注費
- 売上原価
上記の費用は、売上状況や市場相場などによって変動するため、ある程度の予想を立てて計算する必要があります。
業界ごとの一般的な原価率や粗利益率の相場なども参考にしながら、できるだけ正確な予想を立てることが必要です。次に解説する「売上予想・目標」を先に計算して、そこから変動費を逆算するという方法もあります。
3. 売上予想・目標を立てる
次は売上目標や予想を立てる段階です。売上予想は通常、具体的な根拠にもとづいて算出されます。その計算方法は、大きく分けると以下の2種類です。
- トップダウン方式
- ボトムアップ方式
「トップダウン方式」は、市場の状況などから逆算する手法です。市場規模や成長率、シェアなどを目安に、現実的な売上予想を立てていきます。
「ボトムアップ方式」は、自社の状況から積み上げて計算する手法です。自社の拠点・製品・顧客数などの現状をもとに、実現可能な売上を算出します。
どちらか一方の方式だけでなく、両方の手法で計算して比較することで、実現可能性の高い売上予想を立てることができます。
4. 損益分岐点を試算・目標利益率を決める
ここまでのステップで計算してきた売上と費用の目処をもとにして、「損益分岐点」や、目標とする「利益率」を算出します。
計算した売上予想に対して固定費・変動費の占める割合を計算すると、予想される利益率が分かってくるはずです。赤字が発生するデッドラインである「損益分岐点」も把握できるようになります。
損益が好ましくなければ、前のステップに戻って売上目標を高めたり、削れる費用項目がないか洗い出したりして調整していくという流れです。
この段階によって、収支がとれて持続的に利益が出るような事業計画になるよう仕上げることができます。
効果的な事業計画を作成するために意識したいポイント
事業計画は「どのような場面・部署で使うのか」を意識して作ることが重要です。主に以下の活用場面があります。
- 各部門計画の作成
- 金融機関や出資者との交渉
- 事業提携や協業の提案
- 採用面接・説明会
事業部門全体の指針となる事業計画は、「各部門計画」を作るために参照される基本指針です。例えば人事部門では、事業計画が採用計画の指針として参照され、具体的な採用方針が決定されます。全ての部門が、事業計画の実現に向けて動くことが理想です。そのためには、各部門に必要な情報が盛り込まれるよう意識して作成することが求められます。
事業計画を活用する場面はそれだけではありません。「金融機関や出資者との交渉」はもちろん、「事業提携や協業の提案」「採用面接・説明会」など、さまざまな交渉ごとで提示する資料としても活用できます。
事業計画を活用する際には、毎回「計画の全ページ」を提示するのではなく、相手に合わせて、その時に必要な一部だけを提示するという方法もあります。場面に合わせて調整しながら活用することが重要です。
分かりやすく簡潔な内容にする
事業計画をどのような場面で使うとしても「分かりやすさ」は重要です。
どんな資料も読む人に伝わらなければ意味がありません。目を通すのに余計な時間がかかっていては非効率でもあります。
社内だけで参照するとしても、必要な項目がどこに書かれているかを分かりやすく、簡潔にまとめることで機能性の高い事業計画になります。
事業計画は明瞭・簡潔・平易なものとし、図やグラフ、イラストなどを用いて分かりやすい資料にすることが大切です。提示する相手によっては、専門用語を使いすぎないことや、用語の意味を説明することも必要でしょう。
客観的なアドバイスを求める
作成した事業計画について、客観的な視点でのアドバイスをもらうことも重要です。
社内の人間で話しあうだけでは、どうしても主観的になりやすく、客観的な視点が欠けてしまうことがあります。
アドバイスを求める相手には、経営の知識や経験が豊富な人物を選ぶことがポイントです。例えば経験豊富な経営者や投資家など、会社の上場や大きな売却などを経験しているような人物が適しています。
優秀な経営者や投資家と出会うことをまずは第一目標とし、そのような人物からの客観的かつ厳しいアドバイスをもらうことがポイントです。
リスクや弱点についても十分に検討する
強みや目標などのプラス面ばかりでなく、リスクや弱点について検討する批判的な視点も忘れないようにしましょう
模倣される可能性や、失敗するとしたらどのような流れが考えられるかについて十分に検討しておきます。
投資家や金融機関からリスクと弱点について質問された際にも、すぐに回答できるようにしておくことが重要です。
リスクを回避し、弱点を克服する対策を事前に講じておくことで、事業計画の成功確率を高めることができます。
継続的に事業計画をアップデートする
裏付けとなる調査データや計算をして、根拠のある内容にすることが事業計画の基本です。
特に重要なKPIは、ベンチマークとなる既存の他社サービスなどの指標を用いて設定することで、過度に楽観的になって高すぎる目標を立てたり、逆に悲観的になってしまったりすることを避けられます。
ただし、新しい領域で事業を始める場合などは既存のベンチマークがないこともあるでしょう。そういった場合は実態に即して事業を進行させながら、頻繁に事業計画をアップデートし続けることで、精度を向上させることができます。
事業計画作成の失敗を避けるために重要なこと
精度の低い事業計画は、単なる「参考資料」にとどまってしまうことがあります。効果・結果を生み出さない事業計画は、作る価値がありません。どのような点に注意すれば、失敗を避けることができるのでしょうか。特に気をつけるべき5つのポイントを解説します。
ターゲット(想定顧客)を絞り切る
事業計画で失敗しないために特に重要なのは「ターゲットの絞り込み」です。
総務省の作成した「事業計画作成とベンチャー経営の手引き」によると、「事業計画に多く見られる問題点」として「顧客ニーズの把握が甘い」ことが挙げられています。
顧客ニーズの把握でよくある間違いは、広いターゲット設定をしてしまうことです。「ターゲットの範囲が広い方が売上が大きくなる」と勘違いしてしまうケースがあります。
「みんなが欲しい」サービス・商品は、実は「誰も欲しくない」ものであることが多いです。ターゲットを絞ることが、顧客のニーズのなかでも特に重要なニーズ(=バーニングニーズ。詳しくは後述)を見極め、提供価値を研ぎ澄ませることになります。
絞り込んだターゲット領域に対して独占的な状態を作ることに成功して初めて、次のステップとして「ターゲットの拡大」を考えることができるのです。
あったらいいな(Nice to have)ではなく、なくては困る(Must Have)を提供する
特に事業の初期段階で重要なのは、「なくては困る(Must Have)」を提供することです。顧客は「あったらいいな(Nice to have)」程度にはお金を払わない傾向があります。
なくては困る価値を提供するためには、ターゲットの「緊急度と重要度の高いニーズ」にアプローチすることが必要です。このようなニーズを「バーニングニーズ」と呼びます。頭に火が付いた状態(=バーニング)で、すぐにでも解決したいと思う課題のことです。
成功につながる事業計画を作れるかどうかは、できるだけ早い段階で顧客のバーニングニーズを見極められるかどうかがポイントといえます。
提供価値を絞る
さまざまな提供価値を提供しようとするのではなく、「特定の提供価値に絞り込む」ことも重要なポイントです。
ありふれた「それなりの価値」を数多く提供するよりも、バーニングニーズに対応した「圧倒的に重要な価値」を1つ提供することの方が、大きな効果を生み出します。
ここでもターゲット設定と同じく、「絞り込む」ことが成功の秘訣です。
競合優位性を構築する
自社の強みや競合優位性について十分に検討することも、失敗を避けるために必要な要素です。
「事業計作成画とベンチャー経営の手引き」では、事業計画のよくある失敗例として「競争優位性の説明が非常に不足」という点も挙げています。
競合他社が存在する場合に自社の優位性を構築し、「模倣されずに守り続けること」が求められます。これは「Moat(モート)」と呼ばれ、事業計画のポイントとなる考え方です。
Moatは「都市・城壁の周囲にある堀」という意味の英単語ですが、マーケティング用語としては「競合の参入障壁・競合優位性」などの意味で使われます。
Moatを構築することで、価格競争に巻き込まれたり、シェアを奪われたりする状況を回避できるのです。事業の「継続性」を保ち、「利益構造」を守り続けるために、Moatは不可欠な要素だといえます。
ピボットを恐れない
一度立てた事業計画の変更、つまり「ピボット」を恐れないことも、失敗を避けるために必要です。
事業が当初の計画通りに推進しないことは多々あるものです。多くの仮説や調査をもとに、綿密な計算をして計画を立てたと思っていても、実際の顧客の課題を読み間違っている可能性もあります。
特によくある失敗は「時代が合わない」というもの。時流・タイミングが違うだけで、仮に全く同じ内容の計画でも全く異なる結果になることは多々あります。
計画の調整が必要になることは失敗ではありません。一度作った計画を変えずに猪突猛進していくよりも、時代の流れを読みながら柔軟にピボットを繰り返すことが重要です。
事業計画についてのよくある疑問
事業計画を作成するうえで発生しがちな悩み、よくある疑問のなかから特に重要な3点について、回答を以下にまとめました。
何年先まで計画するべき?
事業の分野や内容によって異なりますが、事業計画は、以下の3種類のスパンに分けて記載するのが原則です。
- 短期計画:1年
- 中期計画:5年
- 長期計画:5~10年
それぞれの期間ごとに収支計画や売上目標・行動スケジュールを立てていきます。
粒度を分けて別々に計画することで、マクロな視点とミクロな視点が両立し、精度の高い計画を作成しやすくなるはずです。
根拠にするデータの調べ方は?
事業計画や収支計画のエビデンスとして使用するデータを集める方法には、主に以下の3種類があります。
- テストマーケティング
- 市場調査の実施
- 調査情報の利用
テストマーケティングとは製品やサービスをリリースする前に、一部の地域などで試験的に展開し、結果や反応を分析する調査手法です。
アンケートなどの市場調査を実施するという方法もあります。リサーチ会社に依頼したり、Webアンケートサービスを利用したりなどの方法で実施可能です。
とはいえ、わざわざ新規でアンケートを実施しなくても、既存の調査情報で使えるものがあるかもしれません。インターネット検索などで探すと、自社の必要にマッチした調査結果が見つかることがあります。
事業計画書は何ページ必要?
事業計画書のページ数に決まりはありませんが、多いと読みにくいという点は意識する必要があります。文書形式なら「長くても10~20ページ」ほどにまとめるのが目安です。1ページだけでも、必要な情報が整理されて分かりやすくまとめられていれば十分でしょう。
融資を受けるために作成する場合には、金融機関ごとに決められたフォーマットのページ数に沿って作成する必要があります。
作りこまれた事業計画でビジネスを成功へ導く
事業計画は、フォーカスして作り込まれていればいるほど、ビジネスを成功へ導く強力な武器になります。「5W2H」のフレームワークを意識して、ターゲットや提供価値、ビジネスモデルを研ぎ澄まし、解像度の高い地図を描くことが、成長を最大化することに繋がります。全社の方向性を統一させ、必要となるアクションを前もって検知するために、どんな業種であっても事業計画の策定は必須といえるでしょう。
コツを押さえた精度の高い事業計画を作成し、ビジネスを成功へ導いていきましょう。