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ピボットでビジネスを成功へ導く!成功事例やリスク、方法を一挙に解説

スタートアップは新しい技術要素やアイデアをビジネスモデルに落とし込み、短期間での成長を目指します。その過程において、当初の方向性やビジネスの枠組み自体を大きく変更する場合にピボットという言葉が使われます。

また、VUCAという言葉に象徴される外部環境の急速な変化により、歴史のある企業が事業再構築を迫られる例は少なくありません。この場合の事業再編や方針転換もピボットといわれます。

どちらの場合の方針転換や路線変更は大きな決断であり、難しい判断を迫られることになります。大きなリスクを伴うピボットについて、意思決定の基準やタイミングなど、考えなければならないことについて解説します。

1.ビジネスにおけるピボット(pivot)とは
2.ビジネスにおけるピボットの必要性
3.ピボットがもたらすリスクへの考え方
4.ビジネスにおけるピボットの10の手法
 4-1.ズームイン
 4-2.ズームアウト
 4-3.顧客セグメント
 4-4.顧客ニーズ
 4-5.プラットフォーム
 4-6.ビジネスモデル
 4-7.収益モデル
 4-8.成長エンジン
 4-9.チャネル
 4-10.テクノロジー
5.ピボット・ピラミッドから何をピボットすべきかを考える
 5-1.ターゲット
 5-2.課題
 5-3.解決方法
 5-4.テクノロジー
 5-5.グロース
6.ピボットを実行すべきタイミング
7.ピボットに成功している企業事例
 7-1.カミナシ
 7-2.富士フイルム
8.ピボットは徹底的に検証して実行しよう

ビジネスにおけるピボット(pivot)とは

ピボットとは軸足を起点に旋回して向きを変えることを指します。スポーツの世界でよく使われる言葉ですが、ビジネスの世界では概ね以下のような意味合いを持っています。

1. スタートアップが成長軌道に至るまでの過程で、当初、想定したプロダクトやビジネスモデルの根幹に関わる部分を変更すること。

2. 既に実績を作り上げてきた歴史ある企業が、その過程で外部環境の変化に合わせて既存事業の大幅な方針転換・事業再構築を行うこと。

どちらも、市場ニーズに対応するため、PMF※を目指すための変化のプロセスといえますが、プロダクトの部分的な改善や多角化のための新規事業の立ち上げはピボットとは呼びません。

「向きを変える」という意味が示すように、同じ方向性や路線を保ったままの変更ではなく、時には痛みを伴うような大きな変化・変革を指すのがピボットです。

※PMF(プロダクト・マーケット・フィット):製品・サービスが市場に受け入れられている状態

ビジネスにおけるピボットの必要性

スタートアップと既に実績のある企業ではピボットの意味合いが異なります。

新しいアイデアや技術要素を市場に受け入れられる製品やサービスに転換し、経済合理性のあるビジネスに仕立て上げるのがスタートアップです。誰の、どんな課題を、どうやって解決し、それがビジネスとして成立するかについての仮説検証を行いながら事業化を図っていきます。

ユーザーニーズやソリューションの提供方法、ビジネスとして成立させるための見極めが正しくなかったといったことは、まだ見ぬ市場を取りに行くスタートアップでは頻繁に起こりえます。

その時に、当初描いたビジネスモデル全体を見直して軌道修正を図ることがスタートアップにとってのピボットです。

一方、継続して事業を行っている企業は既に独自の市場を獲得しています。自社の市場が変化した場合、または、将来的な変化が確実視される場合にピボットの必要性がクローズアップされます。

ピボットは、スタートアップにとっては成功を見つける、または、成長するためのもの、既に市場を持っている企業にとっては生き残るために必要なことということができます。

ピボットがもたらすリスクへの考え方

イノベーションを効率的に創出するマネジメント手法を提唱した、エリック・リース氏の著書「リーン・スタートアップ」では、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を市場に問い、検証とピボットをスピーディーに繰り返すことで起業の成功率が高まるとしています。

リーン・スタートアップでは、ピボットはPMFに到達するための試行錯誤のひとつに過ぎず、失敗と学習を繰り返しながらプロダクトの市場性を確かめていくやり方を取ります。

むしろ、スタートアップにとっては、当初のアイデアと仮説に固執したままプロダクトを作り込んで、失敗した場合の時間とコストこそ最大のリスクと考えます。

生き残るためのピボットを経験してきた企業は数多く存在します。国内の代表例としては、スマートフォンやデジタルカメラの普及により主力事業を写真材料やカメラからヘルスケアにシフトした富士フイルム、TwitterやInstagramなどの台頭によりSNSからスマホゲームにピボットしたミクシィ(mixi)などがあげられます。

ビジネスにおけるピボットの10の手法

前に取り上げた「リーン・スタートアップ」では、スタートアップがピボットを行う際に、当初の事業プランを考え直すための10の視点が提示されています。

1.ズームイン

製品の特徴がユーザーにはっきりと認識されていない場合に、複数ある機能や便益を絞り込み訴求要素をシンプルにします。初期採用者以降に広がりが見られない場合に、製品イメージをわかりやすく伝えるための方法です。

2.ズームアウト

ズームインの反対の方法を取ることです。ひとつの価値提案だけではユーザーの課題解決に結びつかない場合、より高度なソリューションが求められる場合に考えるべき視点です。

3.顧客セグメント

想定した顧客セグメントが正しくない場合が考えられます。製品・サービスの特性に、よりマッチするコアな顧客層を見つけ出すことができれば、ビジネスのグロースに近づきます。

4.顧客ニーズ

製品・サービスが想定するソリューションが、ユーザーが持つ本来の課題とずれている場合です。本来の顧客ニーズをあぶり出し、より実用的で魅力的なプロダクトへの再構成が求められます。

5.プラットフォーム

プラットフォーム開発を目指す場合、プラットフォーム上のキラーアプリを開発することでプラットフォームの価値を高めることができます。当初ロールプレイングゲームとして開発されたFlickerが、ゲームのなかの写真共有機能を独立させ、写真共有アプリとしてピボットを成功させた例があてはまります。

6.ビジネスモデル

端的な例としてあげられるのが、低マージンでマスマーケットを獲得するビジネスモデルか、高いマージンを得られるマーケットで顧客を絞り込むかの選択です。一方から他方に移行することで成功する例も見られます。

7.収益モデル

ビジネスモデルのなかでキャッシュポイントをどこに作るかという問題です。手数料、広告収益、従量課金など方法の選択と組み合わせが考えられます。類似サービスとの比較を行うなど、戦略的な検討が必要です。

8.成長エンジン

成長に貢献する施策の何に重点を置くかについて検討を行います。「リーン・スタートアップ」では粘着性、バイラル、有料広告の3つのパターンを例示しています。マーケティング戦略や組織のリソース配分にも影響するピボットです。

9.チャネル

製品・サービスの提供方法を変更することです。スタートアップでは直接販売が選択されることが一般的ですが、既存の流通チャネルに目を向けてみることで、新たな販売先が見つかる可能性があります。

10.テクノロジー

新しいテクノロジーを採用することで、ソリューションのコストやパフォーマンスを改善します。

ピボット・ピラミッドから何をピボットすべきかを考える

上にあげたピボットを行う際の10の要素について、ゲームチャットアプリ「Bunch」のCEO、Selcuk Atli氏は、それぞれが他を制約する関係にあり、階層構造を成していることを提唱しました。すべてがこれに当てはまるわけではありませんが、ピボットする要素がビジネスモデル全体に影響する度合いを認識する際に役に立ちます。

次の5つの要素を「ピボット・ピラミッド」と呼び、下層にある要素が上層の要素に影響を与えることを示しています。

1.ターゲット

ビジネスを規定する最も根本的な要素がターゲットとなる顧客セグメントです。顧客セグメントが異なれば、解決すべき課題や考え方、嗜好などが違うと想定され、それに伴い解決方法や使うべきテクノロジーも影響されます。

しかし、思いのほか顧客層に広がりが見られるケースや当初の想定とは異なる顧客層に受け入れられるケースなども存在するので、その場合のボリュームをどう解釈するかが問題となります。

2.課題

新しいビジネスを作る際、技術要素やプロダクトの視点からはユーザーの真の課題は見えてきません。作る側がそうであろうと想定したユーザーが持つ課題は見当違いであることは多くのスタートアップが経験していることです。

「リーン・スタートアップ」では、インタビューの重要性を指摘しています。マーケットの定量的な部分だけではなく、実際にユーザーの声を聞き数値に現れない定性情報を集めることがユーザーが持つ課題を正しく把握することにつながります。

3.解決方法

課題を把握できたとしても、提供するプロダクトが課題解決に結びつく十分な機能やスペックを持つものでなければユーザーには受け入れられません。ターゲットと課題の把握について問題がなければ、プロダクトに磨きをかけると同時に、PMFを達成したあとのグロースについても意識しなければならない段階に入ります。

4.テクノロジー

新たなテクノロジーを取り入れることは課題解決のスピードとコスト、ボリュームを大幅に改善する可能性が生まれます。そのためのピボットは積極的に行うべきであり、最新の技術にキャッチアップしておくことが必要です。

5.グロース

ピボット・ピラミッドの最上層に位置する要素であり、下層のフェーズについてはある程度の確信を得られた段階といえます。ここでグロースのきっかけを見つけることができれば、ビジネスを安定成長の軌道に乗せることができます。

この段階の試行錯誤で結果が得られなければ、下層部に問題を残している可能性を改めて検証する必要が出てきます。

ピボットを実行すべきタイミング

スタートアップがピボットを行う場合、短い仮説検証のサイクルのなかでスピーディーな意思決定を行っていくことが理想です。しかし実際には、仮説にもとづき実行した施策を継続すればブレークスルーに到達するのか、ピボットすべきなのか、判断の難しい場面に必ず突き当たります。

「どのタイミングでピボットすべきか」という問いに対し、最終的には売却されてしまったものの、ピボットすることで急成長を遂げたセレクトショップ型EC、Fab.comのCEO、Jason Goldberg氏は、ピボットを行った3つの理由をあげています。

  • 目指すビジネスのマーケットが小さい
  • マーケットに変化の兆しが見られる
  • 新たなチャンスを発見した

また、以下の項目をピボットをする際に確認することとしています。

  • 1年経過してもトラクションがかからない場合はピボットを検討する
  • 投資した時間にこだわらず、結果が見えた場合は素早く乗り換える
  • 方向性が大きく異るピボットであっても躊躇しない
  • 資金があるうちにピボットする
  • 定期的に財政状態のチェックを行う
  • 自らのアイディアやエゴに固執しない
  • ピボットの理由には、客観的事実に加えて熱意も必要
  • 投資家の視点で考える
  • 出資者にもピボットの是非を問う

ピボットに成功している企業事例

スタートアップの領域ではピボットの事例を多く見出すことができます。また、時代の変化を乗り越えてきた歴史ある企業は、結果としてピボットせざるを得なかった例が多く存在しており、それが成功したからこそ存続できたということができます。それぞれの事例を一つづつ紹介します。

カミナシ

食品製造やホテル・飲食などに向けた現場管理業務を効率化するためのSaaSを展開するカミナシは、食品工場の記録管理を電子化するバーティカルSaaS※を2018年にローンチ。大手企業の受注を獲得し、プレシリーズAで1.2億円を調達する。

しかし、創業から3年を経過した時点で、販売可能な食品製造業の顧客セグメントの市場に上限があることが明らかとなり、顧客セグメントを「食品工場」から「ノンデスクワーカー全域」としホリゾンタルSaaS※にピボットした。

ピボット後、1ヶ月で以前のプロダクトの問い合わせ件数を超え、MRR(月間経常収益)に見込みが着いたことで2020年に「カミナシ」を正式にリリース。2021年シリーズAで11億円の資金調達を実施した。

※バーティカルSaaS:業種を限定したSaaS

※ホリゾンタルSaaS:業種にかかわらない部門、職種を対象とするSaaS

富士フイルム

富士フイルムは、主力事業であった写真感光材の市場が2000年にピークアウトして以降、回復の見込みがないことは明らかであることから、2003年に事業再構築に着手し応用領域である再生医療、医薬・化粧品にピボットした。

同社ではピボットするにあたり、全社レベルでの技術資産について棚卸しを実施。コア技術の応用分野を開拓することで、ブランド価値を引き継ぎつつスマートな転身を果たす。特徴的なのは、バリューチェーンの構造改革も実施、ヒット商品チェキを生み出すなど、既存事業の立て直しと強化も同時に成功させたこと。

ピボットは徹底的に検証して実行しよう

サンクコストを意識せざるをえないピボットは決断する際にエネルギーが必要です。スタートアップがピボットを行う場合は、ビジネスモデル・キャンバスなどのテンプレートを活用しながら、客観的な事実にもとづき、仮説検証を繰り返す仕組みを作っておくことが重要です。

また、歴史と伝統がある企業ほど時代の変化という荒波にさらされる機会が増えるのは当然のことです。世界最大のコンサルティングファームであるアクセンチュアは、自らのピボットへの取り組みを踏まえ、伝統的企業が時代に対応していくための変化を「賢明なピボット」としてその必要性を指摘しています。

「変わらないリスク」と「変わるリスク」その見極めがピボットの本質です。