グループアドレスとは?フリーアドレスと比較したメリットや導入方法を解説
どのような企業も、社員がパフォーマンスを発揮できる・働きやすい環境を実現したいと思うのではないでしょうか。働きやすいオフィス形態としては「ABW」や「フリーアドレス」が候補に挙がるかもしれませんが、「もっと手軽な方法」を考えたい方も多いはずです。
この記事では、ABWやフリーアドレスよりも手軽に導入できる「グループアドレス」を紹介します。グループアドレスのメリットや導入方法、注意点についてもお伝えします。この記事が、グループアドレス導入を検討・実践する際の参考になれば幸いです。
2.グループアドレス導入の6つのメリット
2-1.部署内のコミュニケーション活性化によるパフォーマンス向上
2-2.省スペース化・整理整頓の習慣化
2-3.導入ハードルが低い
2-4.運用の自由度が高い
2-5.チーム・グループの連携がしやすい
3.グループアドレスを導入する6つの手順
3-1.導入目的・目標の設定
3-2.対象とする部署の具体化
3-3.レイアウトや必要なツール・オフィス家具の検討
3-4.試験導入
3-5.ルールの周知・運用開始
3-6.検証・フィードバック・修正
4.グループアドレスに向く企業・部門の特徴
4-1.在席率が低い
4-2.業務で使用する物が少ない
5.グループアドレスの導入に必要な設備や環境
5-1.個人用のキャビネット・ロッカー
5-2.ソファなどを配置したラウンジ・共有スペース
5-3.個人用の集中スペース・リモート会議ボックス
5-4.ホテリングシステム
6.グループアドレスを成功させるためのポイント
6-1.目的を十分に周知する
6-2.部署ごとに向き・不向きを検討する
6-3.固定席のような使い方にならないように注意する
6-4.ペーパーレス化を意識する
7.グループアドレスの導入事例
7-1.ファーストリテイリング
7-2.三井物産
7-3.東急不動産ホールディングス
8.さらに柔軟な働き方として「ABW」も検討する
9.まとめ:さまざまなオフィス形態を検討し「最適解」を見つける
グループアドレスとは・フリーアドレスとの違い
グループアドレスとは、部署・チームごとに管理される「フリーアドレスの一種」です。
そもそもフリーアドレスとは、個人ごとの固定席がなく、空いている席を自由に使って働くオフィス形態のこと。完全なフリーアドレスの場合、部署・グループの区別なく、全社員が空いている席を自由に使うことができます。
グループアドレスと完全なフリーアドレスの違いは、チーム・部署ごとに席のエリアが指定されるという点です。割り当てられたエリア内で、空いている席を自由に使って働く方式をグループアドレスと呼びます。
グループアドレス導入の6つのメリット
ここからは、グループアドレスとフリーアドレスに共通するメリットと、フリーアドレスと比較した場合のグループアドレスのメリットを解説します。
部署内のコミュニケーション活性化によるパフォーマンス向上
フリーアドレス全般に共通するメリットの1つは「コミュニケーションの活性化」です。
固定席の場合、席か近い人とのコミュニケーションはできますが、席が遠い人と会話する機会は少なくなります。
一方、フリーアドレスでは隣に座る人が固定されないため、さまざまな人とコミュニケーションをする機会が生まれやすくなります。グループアドレスでも、部署・チーム内のコミュニケーションが活性化するという点は共通です。
メンバー同士の会話によって、人間関係の円滑化や社員のモチベーションアップ、業務効率の向上が期待できます。
省スペース化・整理整頓の習慣化
オフィスの「省スペース化」も、フリーアドレス・グループアドレスに共通するメリットです。
特にメンバーの外出が多い部署では、必ずしも人数分のデスクを用意する必要がなくなり、必要最低限の家具を用意すればよくなります。席数が減ることで空いたスペースを、フリースペースなど他の用途に使うことができ、オフィスの機能アップを図れます。
リモートワークが増えたらデスクを減らし、大規模プロジェクトが始まったらデスクを増やすなど、柔軟に対応することもできます。また席を使った後は次に使う人のために私物を片づける必要があるため、整理整頓が促進される点もメリットです。
導入ハードルが低い
完全なフリーアドレスと比べて、グループアドレスは「導入しやすい」というメリットがあります。
グループアドレスは、フリーアドレスよりも固定席に近い運用方法です。そのため、これまで固定席で運用してきたオフィスでも、スタッフの大幅な環境変化を避けられます。
またフリー化する部署としない部署を分けられるため、「テスト的に一部の部署だけに導入する」という始め方も可能です。全社一括で完全フリーにする場合よりも、ハードルが低いといえます。
運用の自由度が高い
グループアドレスでは、部署ごとの業務内容やプロジェクトの状況に応じて、柔軟にルールや運用方法を調整できます。
例えば、フリーアドレスを導入していた企業が、ある部署は密な連携が必要といった理由からグループアドレス化・固定席化といった形で運用方法を変更したとします。その際、他の部署が特定の場所をワークスペースとして使えなくなる、全社的にレイアウトを変更する必要がある、といった影響が発生します。そのため、一部の運用を変更する場合は全社員への周知・調整が必要となるでしょう。
一方、グループアドレスは部署ごとを単位とするため、変更・調整ができ、部署ごとに異なる運用ルールを適用することも可能です。部署・チームごとの最適な運用方法を探りながら、柔軟に導入できます。
チーム・グループの連携がしやすい
フリーアドレスと比較して、チームの連携がしやすいこともグループアドレスのメリットです。
フリーアドレスは席が決まっていないため、定例会や共有会を定期的に設定しない限り、メンバーと顔を合わせる機会が減ることになります。加えて、グループウェアなどの「オンライン」上の会話より、対面しての「オフライン」の会話のほうが情報共有の速度や深さが上回ることは否定できません。そのため、フリーアドレスではとりわけオンライン・オフラインを組み合わせた積極的なコミュニケーション促進が必要となります。
その点、グループアドレスでは1ヶ所に集まって仕事をするため、メンバー間の連帯感醸成や情報共有の活発化などを促進できます。先輩が後輩に教えたりなどの育成もしやすい環境です。
グループアドレスを導入する6つの手順
実際にグループアドレスを導入するには、どのような準備や作業が必要でしょうか。
導入までに検討すべき項目や、運用開始までに踏むべき手順について、6つのステップに分けて解説します。
1.導入目的・目標の設定
まずは前提として、グループアドレスを導入する「目的」を決めることが重要です。
グループアドレスの導入は、自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に貢献するものである必要があります。MVVから逆算して、「その実現につながるオフィス形態とは何か」を逆算して考えていきましょう。
ただし、経営陣の理想だけを押し付けてしまい、現場の社員にとって使いにくいオフィスになってしまう事態は避けたいところです。アンケートを実施して意見を求め、社員の共感が得られる方法を探っていくなら、オフィス形態の変更による不満の発生を防止できます。
2.対象とする部署の具体化
次に、どの部署・チームにグループアドレスを導入するかを決めます。
グループアドレスは部署・チームごとの運用なので、全部署に一括で導入する必要はありません。部署の業務内容によって向き不向きがあることを把握し、場合によってはグループアドレスを導入しない部署を決めることも必要です。
前述のアンケート結果を分析すると、どの部署がグループアドレスに好意的で、どの部署が否定的かが分かり、部署ごとの向き・不向きを判断しやすくなるでしょう。
3.レイアウトや必要なツール・オフィス家具の検討
フリーアドレスの運用では一般的に「ホテリング(社員数より少ない席数に減らし、出社時は予約を行う制度)」ができるシステムを利用します。
また、グループアドレスのレイアウトは、大型のロングデスクやキャスター付きデスクなど、レイアウト変更がしやすい家具が便利です。個人用のキャビネットやロッカーなど、社員の荷物置き場についても検討する必要があります。
4.試験導入
グループアドレス導入においては、まずは試験的に導入し、社員の反応やオフィスを使っている様子を分析することが重要です。
もともと想定した使い方がなされているか、社員が不便を感じている部分はないかなどを分析します。
アンケートを実施やヒアリングを実施し、見つかった問題点・改善点などを参考に、運用方法を修正していきます。
5.ルールの周知・運用開始
試験運用を経て課題をつぶした後は、最終的な運用ルールをマニュアル化して共有します。
必要に応じて説明会を開き、オフィスの使い方や、グループアドレスを導入する目的などを関係するメンバー全員に伝えます。本格始動までに不明点が残らないようにしておくことが重要です。
6.検証・フィードバック・修正
グループアドレスがスタートした後にも定期的にアンケート・ヒアリングを実施し、フィードバックを集めることで、実際の運用に対しても柔軟な修正を行うことが可能になります。
デスクやチェアをはじめとしたオフィス家具の使用率をチェックし、活用されていないスペースがある等の問題はないか、不要な家具はないかなどを定期的にチェックします。
実際に業務を進めていくうちに、テスト運用では気がつかなかった不満が出てくることもあるでしょう。また、業務内容が変化し、グループアドレス導入当初とは「最適なオフィス設計」が変わる可能性もあります。そのため、働き方やビジネスの状況に合わせたアップデートが重要です。
グループアドレスに向く企業・部門の特徴
グループアドレスが向いている企業・部門は、次のいずれかに当てはまる場合が多いといえます。
在席率が低い
1つ目の特徴は「在席率が低い」企業・部門が挙げられます。社員がデスクにいる時間が短く、外回りが多い営業部門や、エンジニアやWebデザイナーといった在宅業務でも成立する部門は、グループアドレスに向いていると言えるでしょう。また、そのような業務を主体とする企業もグループアドレスが向いていると考えられます。
業務で使用する物が少ない
ノートPC1つで仕事が完結するなど、業務で使用する物が少ない業種では、グループアドレスがマッチしやすいといえます。
逆に、例えば大型の機材が必要な研究職や書類作業が多い経理等の部署など、業務で使う物が多い場合は席の移動がしにくいため、グループアドレスが向いていないでしょう。
グループアドレスの導入に必要な設備や環境
グループアドレス導入で検討すべき4種類の設備・ツールを紹介します。
個人用のキャビネット・ロッカー
個人用のデスクが指定されないグループアドレスでも、「荷物の置き場所」についてはメンバーごとに固定するのが一般的です。
施錠式のキャビネットやロッカーを設置しておくと、個人が「オフィスに置いておきたい荷物」を保管でき、オフィスの利便性が向上します。
ソファなどを配置したラウンジ・共有スペース
自由な交流を生むために、ラウンジや共有スペースの配置も検討したいところです。ラウンジや共有スペースがあれば、普段接しない部署や社員とも交流が生まれる可能性があります。
ソファやカウンターなどを配置して、自然に会話が生まれる空間を作るよう意識したいです。
個人用の集中スペース・リモート会議ボックス
「1人で集中したい」場合に適した個人用スペースがあると、業務目的に応じたワークスペースの使い分けができるようになります。また、Web会議が多い場合は遮音機能のあるボックス席にすることで、会議中に音声が干渉しなくなり働きやすさも高まります。
ホテリングシステム
フリーアドレスやグループアドレスでは、席を決めるために「ホテリング」システムを導入することがあります。ホテリングとは、利用したい座席を予約できる仕組みのことで、各メンバーが自分のスマホやPCを使って、どこからでも席の予約ができるようになります。
席の管理をシステム化することで、出社率のコントロールや、誰がどこにいるかの把握、ソーシャルディスタンスの確保がしやすくなるといったメリットにつながります。
グループアドレスを成功させるためのポイント
グループアドレスを導入しても、上手く機能しないことや社員に不満が募るおそれもあります。グループアドレス導入で注意すべき4つのポイントを解説します。
目的を十分に周知する
なぜグループアドレスを導入するのか、その目的・目標を社員に周知することは重要なポイントです。
目的意識が共有されなければ、グループアドレスの仕組みを効果的に使ってもらうことは難しくなります。社員からの十分な理解を得ることで、不満の発生を防ぐことにもなるはずです。
周知の際には一方的に説明するだけでなく、どう思っているかについてヒアリング・アンケートなどを実施しながら、誤解や理解不足が発生しないようにしましょう。
部署ごとに向き・不向きを検討する
グループアドレスを導入する際は、前述のように部署ごとの業務内容とグループアドレスとの相性を確認し、「向き・不向き」を判断しておく必要があります。
運用方法についても、全ての部署で同じにするより、部署ごとに適した方法を探るのが理想です。部署によってはグループアドレスを導入しない方がよいと判断される場合もあります。細かいルールやエリアの使い方は各部署に任せるなど、柔軟性を持たせた運用方法にすることがポイントです。
固定席のような使い方にならないように注意する
グループアドレスの導入後は、各メンバーがいつも同じ席に座ってしまう傾向にならないよう注意します。できるだけ利用する席に変化を付けるよう周知し、全社員がコミュニケーションを活性化させるよう促すことが重要です。
ランダムに席を決める機能を持つホテリングシステムもあり、「くじ引き」のような形で席を決めてみてもよいかもしれません。
ペーパーレス化を意識する
グループアドレス、並びにフリーアドレスの最大の障壁は「紙業務」でしょう。グループアドレスのメリットを最大化するには「ペーパーレス化」は必ず検討したい部分です。紙を使った業務は持ち運びや片づけが増えてしまい、結果的にグループアドレスが負担を増やすことになります。
一方、ペーパーレス化の導入によって、従来紙業務が前提となっていた経理業務もグループアドレス、ひいては在宅勤務になじむようになるでしょう。働き方の満足度を高める意味でも、ペーパーレス化に向き合うことは必須です。
グループアドレスの導入事例
企業の導入事例を確認しながら、「導入後にどのような効果が見られたのか」「どのような工夫をしているのか」などを解説していきます。
ファーストリテイリング
ファーストリテイリングでは、2010年の本部移転に伴い、フリーアドレスからグループアドレスへの移行を進めました。業務効率の向上や、マネジメント層の強化(部下の成長支援)と、チーム力の最大化などを目指しています。
指定エリアの使い方は部署ごとに任せられていて、マネジメント担当が必要と判断すれば、メンバーの席を指定することもできます。部署ごとの自主性を促し、マネジメント層の強化を図る狙いです。
グループアドレス導入からコミュニケーションが活発化し、「部署の内外に関わらずコミュニケーションの時間、特に隣の部署の部長とマネジメントや仕事、たわいのない話題等も含めて確実に増えている」と言われています。
三井物産
三井物産でも、柔軟な働き方やコミュニケーション活性化、新事業の創出などを目的として本社にグループアドレスを導入しています。
各部署が配置されるエリアはある程度決められていますが、オープンな雰囲気で意見交換しやすいエリアや、1人で集中して仕事ができるエリアなど、活動内容にあわせて働く場所を自由に選べるように工夫されています。
同時に固定電話の廃止やペーパーレス化も進め、業務の効率化を図っています。
東急不動産ホールディングス
東急不動産ホールディングスでも、2019年の本社移転に伴ってグループアドレスを導入しました。
「時間や場所を選ばずに働ける時代だからこそ、わざわざ行きたくなる場所」を目指し、ストレス軽減や快適度が向上するようなオフィスを構築する手段の1つとして、グループアドレスを選択しています。
導入後は、座席数を在籍人数の80%に抑えることに成功しました。座席数が減ることで空いたスペースには、ソファや集中ブースなどを設置して有効利用し、さらに「位置情報システム」を導入して在席の有無が把握できるよう工夫しています。
さらに柔軟な働き方として「ABW」も検討する
グループアドレスの導入を検討するにあたり、「ABW」についても知っておくことは重要です。
ABWとは、「Activity Based Working」の略で、つまり活動ごとに合った場所を選んで働くという考え方です。オランダの企業「Veldhoen + Company」によって推進された考え方で、Microsoft社やLEGO社などの大手企業が導入しています。
フリーアドレスやグループアドレスは主にオフィス内の座席の決め方に限定されますが、ABWはオフィスにとどまらず、カフェや自宅なども選択肢に入れて自由に働く場所を選ぶという考え方です。
ABWを促進するにはフリーアドレスを導入するだけでなく、個人ブースやミーティングスペースなど、さまざまな用途に適したエリアを設けることが求められます。
ABWを促進する手法の1つとしてフリーアドレス・グループアドレスがあるという位置づけであり、密接な関係のある考え方です。
柔軟性の高い、時代に合わせた働き方を実現する考え方として、ABWも検討してはいかがでしょうか。
まとめ:さまざまなオフィス形態を検討し「最適解」を見つける
フリーアドレスは、コミュニケーション促進や省スペース化などのメリットがあるオフィス形態です。その一種であるグループアドレスは、運用の自由度の高さや、マネジメントしやすさなどのメリットがあり、多くの企業が採用しています。
とはいえ業務内容によっては、従来の固定席が向いているケースもあるでしょう。部署ごとの向き・不向きも考慮し、自社にぴったりのオフィス形態を模索することが重要です。