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競合優位性を戦略に生かす!5つのフレームワークを解説

起業して事業をはじめるということは、競争環境のなかに身を置くということにほかなりません。多数の競合他社が存在するなかで、いかに生き残りを図り、優位な立場を築くかという命題は、少数の例外を除いてすべての企業に課せられています。

競争優位を築くにはどうすればいいのか、競争戦略にはどんなものがあるかについて、これから起業する方、新たに事業を始める方に向けて、経営戦略論の観点から解説します。

競争優位を築くための競争戦略

経営戦略論はアメリカで大企業の多角化が進んだ1960年代以降、学術的な研究領域と実業界の間で発展を遂げてきました。競争優位をテーマとするものでは、マイケル・ポーターの3つの基本戦略とフィリップ・コトラーの競争地位別戦略がよく知られています。また、日本のオリジナルであるランチェスター戦略も代表的な競争戦略のひとつです。

これらの理論は、競争優位の考え方や競争優位を築くための方法を提示するもので、基本的な知識として役に立ちます。

ポーターの3つの基本戦略

ポーターの3つの基本戦略は、価格と差別化、競争の範囲を軸として、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つの戦略を示すものです。「中小企業白書 2020」では集中戦略を更に「コスト集中戦略」と「差別化集中戦略」に分けています。

出典:中小企業庁「中小企業白書 2020 」Ⅱ-5

コストリーダーシップ戦略

ターゲットを広くとり、価格訴求でシェアを獲得する方法です。規模の経済が前提となり、経験曲線効果や他社にない設備投資などにより低価格を実現します、大企業が取りやすい戦略といえます。

差別化戦略

機能・品質・サービス・ブランド力など付加価値を高めて他社との差別化を図る方法です。商品開発力とマーケティング力を向上させることで高い利益率を確保します。

集中戦略

顧客セグメントを絞り込み、経営資源を特定の製品種類や販売地域に集中させてニッチを狙う戦略です。新規参入者や市場での地位が低い企業が取るべき戦略といわれています。

中小企業では差別化戦略や集中戦略が取られる

以下のグラフは「中小企業白書 2020」から引用したもので、上にあげた図の①~④のうち、中小企業がどの競争戦略を取っているかを業種別に集計した結果です。

コストリーダーシップを志向している(青色)のは小売業と宿泊業・飲食サービス業を除きいずれも10%未満と低い割合であり、中小企業では差別化戦略、または、集中戦略を取る割合が高いことがわかります。

出典:中小企業庁「中小企業白書 2020 」Ⅱ-6

コトラーの競争地位別戦略

競争地位別戦略は、市場シェアの高い企業と低い企業では取るべき戦略が異なることを提唱したものです。高い市場シェアを獲得することで、価格、製品、流通、プロモーションのあらゆる面で競合他社より優位に立つことができ、競争を有利に進めることが可能になります。

競争上の地位を、市場シェアの高い企業群から「リーダー」「チャレンジャー」「フォロアー」「ニッチャー」の4つに分類し、それぞれの取るべき目標と戦略を示しています。

リーダー チャレンジャー フォロワー ニッチャー
想定市場シェア 40% 30% 20% 10%
経営資源の量 大きい 大きい 小さい 小さい
経営資源の質 高い 低い 低い 高い
対象市場 すべての顧客 リーダーに準ず 中~低価格志向 特定顧客
戦略目標 ・周辺需要拡大
・最適シェア維持
市場シェア拡大 最適利潤の確保 ニッチトップ化
競争戦略 ・非価格対応

・同質化対応
・差別化

・市場奪取
・リーダーに追従

・競争コスト極小化
細分化した市場にリソース集中

リーダー

最大シェアを持つリーダーは価格設定や製品戦略、流通チャネル政策など、市場全体をリードする競争力を持つことができます。周辺需要の取り込みなど市場そのものの拡大を目指し、最適なシェアを維持することが目標となります。

価格水準の低下の影響を最も大きく受ける立場にあるため、低価格による市場シェア拡大は行いません。また、他社の差別化に対しては、すぐに同様な製品を市場に投入することで同質化を図り、仕掛けられた差別化戦略を無効化します。

チャレンジャー

同じ製品カテゴリの市場でリーダーと直接対決を行うほか、下位の企業からシェアを奪うことで自らのシェア拡大を図ります。価格戦略、差別化戦略どちらも採用されますが、基本的には自社の強みを活かし他社の弱みを突くのが定石です。

フォロワー

プレーヤーの数としては最もボリュームのあるランクです。リーダーを狙えるポジションにはないため、競争上の地位の変動が起こりにくく、その市場での生存戦略に力が注がれます。

ニッチャー

市場のなかの特定の顧客セグメントにターゲットを絞り込み、狭い範囲のなかで主導的な地位を獲得する戦略です。特定の需要、製品、機能、地域、サービスなど専門性を高めることで競争優位を作り出します。

ランチェスター戦略

イギリスで軍事戦略における法則として見出されたものがランチェスターの法則であり、それをマーケティングコンサルタントである田岡信夫氏がマーケティングに応用したものがランチェスター戦略です。

ランチェスター戦略は市場シェアに具体的な数値目標を設け、強者が取るべき戦略と弱者が取るべき戦略を示したものです。獲得シェアの目標値は以下の7つの段階があります。

上限目標値

73.9%

独占的な地位を確立できる
安定目標値

41.7%

安定的な首位の座を保つことができる
下限目標値

26.1%

安定的に首位に留まるための下限値
上位目標値

19.3%

弱者ののなかの上位
影響目標値

10.9%

弱者のなかでも安定的な地位
存在目標値

6.8%

弱者のなかの下位
拠点目標値

2.8%

当該の市場に存在できる最低限、新規参入者の目標値

市場シェアを詳細に算出することが可能な業界は限られており、そもそも、市場の範囲が特定できない業界も多数存在します。また、上記の数値も便宜的な計算値であり、厳密な科学的根拠があるわけではありません。しかし、それぞれの競争的地位を確認するための規模感としては的を得ており、ランチェスター戦略は競争戦略を検討するうえで実際に多く取り入れられています。

上記の市場シェアをもとに、強者と弱者それぞれの取るべき戦略は以下の点が示されています。

強者の戦略 弱者の戦略
  • 確率戦に持ち込む
  • 総合戦を展開する
  • 戦局に間接的な影響を与える
  • 兵力差による短期決戦を狙う
  • 兵力を分散させる誘導作戦が有効
  • 局地戦を行う
  • 接近戦を展開する
  • 一騎打ちを行う
  • 兵力を分散せず、一点に集中する
  • 陽動作戦が有効

強者の戦略は量的リソースを活かし規模で圧倒すること、弱者の戦略は戦いを絞り込みリソースを集中投下することです。これは、ポーターの3つの基本戦略、コトラーの競争地位別戦略とほぼ共通しており、競争上の地位が低い弱者には専門化と一点集中が有効であるという結論が得られます。

競争要因を外部環境と内部環境から分析する

3つの競争戦略により、市場シェアにもとづく競争上の地位に適した戦い方があることが示されました。その上で、競合他社と何を比較し、どこに競争優位を見出してシェア獲得を目指すか検討する必要があります。

その際に用いられるのが、自社を取り巻く外部環境に着目するポジショニングアプローチと自社の内部環境に着目する資源アプローチ(リソース・ベースド・ビュー)です。ポジショニングアプローチにより競争環境を明確にし、資源アプローチから自社の力の源泉を見極めることで、競争優位を築くための足がかりを得られます。

ポジショニングアプローチのためのフレームワークとしてポーターの5フォース分析、資源アプローチのフレームワークであるバーニーのVRIO分析を紹介します。

外部環境:ポーターの5フォース分析

3つの基本戦略と同じく米経営学者マイケル・E・ポーター氏によるもので、企業が直接的な形で影響を受ける5つの競争要因を分析するものです。5フォース(競争要因)は以下の5つがあげられています。

同業他社との競合関係

競合企業との直接的な競争環境を分析します。以下のような競争条件がある場合、価格競争になりやすい(競争環境が厳しい)とされています。

①参入企業が多い

②同質性の高い企業が多い

③業界の成長性が低い

④固定費・在庫コストが高い費用構造

⑤差別化要因が少ない

⑥撤退障壁が高い

新規参入企業の脅威

参入障壁が低い場合には、市場内のプレーヤーが増えることになり、競争環境が厳しくなります。参入障壁には規模の経済の有無や法律の規制、既存プレーヤーの知名度・ブランド力などがあげられます。

代替品の脅威

製品・サービスの特性によっては代替品が競合となる場合や、新たな製品カテゴリが出現することで市場全体が脅威に晒されることもあり得ます。

売り手の交渉力

自社と仕入先の関係性において仕入先の力が強ければ、供給量の確保や価格交渉の条件が不利になり自社の収益性に影響が出ます。また、部品や資材に希少性があったり、他に仕入先がない場合も同様です。

買い手の交渉力

自社の販売先(顧客)との力関係において不利な状況にあれば、切り替えられる可能性や価格の引き下げ圧力が高まることで、売り手の交渉力と同様に収益性が低下します。

内部環境:バーニーのVRIO分析

VRIO分析は自社の保有する経営資源をValue(価値)、Rarity(希少性)、Inimitablity(希少性)、Organization(組織)の点から評価し、競合他社よりも優位な要素を見つけ出す、あるいは、創り出すことを主眼に置きます。

競争優位は相対的なものであることから外部環境が前提となり、VRIO分析と5フォース分析は補完関係にあるとされています。

VRIO分析の基本的な考え方は、自社の経営資源が自社に固有(資源の固着性)のものであり、他社が保有するものとの違い(資源の異質性)が大きいほど持続的な競争優位を創り出すことができるとしています。

①Value(経済的価値)

外部環境における機会と脅威に対応するための経営資源の経済的価値をどの程度保有しているかという視点です。その経営資源を持っていない場合と比較して、市場機会を十分に活用できるかどうか、また、市場の脅威を無効化できるかどうかが問われます。

②Rarity(希少性)

他社が持つことの難しい希少性の高い経営資源は差別化につながり、競争優位の源泉となり得ます。

③Inimitability(模倣困難性)

希少性の高い経営資源を持っていたとしても、競合他社がすぐに真似できるものであれば、経営資源の価値は無効化される可能性が高まります。

模倣困難性の高い経営資源は以下の要素が当てはまります。

・獲得に長い時間がかかる

・過去の経緯や歴史に依存している

・結果に対する原因が判明しない

・社風やチームワークといった管理できないもの

・特許

④Organization(組織)

希少性があり模倣困難な経済的価値のある経営資源を、十分に活用できる組織体制や管理能力があるかどうかが問われます。

上記①〜④が満足できるかどうかを順番に回答し、④まで満足する場合を持続的な競争優位性のある経営資源であると判断できます。希少性があっても模倣困難性を持たない経営資源は一時的な競争優位しか築けず、経済的価値を持つ経営資源があっても、希少性がなければ競争均衡状態しか作れません。経済的価値のない経営資源しか持てない場合は競争劣位にあると判断します。

まとめ

競争優位を考えるにあたり、広く知られている5つの理論とフレームワークを取り上げました。狭い領域に経営リソースを集中投下することが、これから事業を始める新規参入者が取るべき競争戦略の定石といえます。さらに、競争優位を確立するためには外部環境と保有するリソースを十分見極めることが必要です。

成功を納めるためには競争環境のなかで勝ち抜いていかなければなりません。何が強みの芽になるかを客観的に分析し、強みを伸ばしていく工夫と努力を続けていきましょう。