「働き方改革」を成功させるには?基本から実践まで全解説
2019年に働き方改革関連法の順次施行が開始され、体力がある大手企業だけでなく、スタートアップ・中小企業でも「働き方改革」は優先して取り組まなければならない課題となりました。
働き方改革は従業員だけでなく、企業・組織にとってもメリットを生む取り組みです。「長時間労働の是正」、「時間当たり労働生産性」と「ROE」(自己資本利益率)が高まる効果が期待されます。また、働きやすい職場環境が整うことで、働き手が減っているなかでも、安定した人材確保が期待できます。
一方で、働き方改革には、コストや管理職の負担の増大といった課題もあり、なかなか改革が進んでいない現状もあります。本記事では、働き方改革の目的・取り組み内容や具体的な施策など、働き方改革を成功させるために知っておきたいポイントを解説します。「働き方改革に取り組もうにも、どうすればよいのか分からない…」という経営者や企業担当者の方に役立つ方法をまとめました。
1-1.背景と目的
1-2.指針(働き手を増やす・出生率向上・労働生産性向上)
1-3.具体的な取り組み
2.罰則はある?時間外労働や有給休暇のルール改正について解説
2-1.時間外労働の上限規制
2-2.所定労働時間を超える労働の割増率
2-3.有給休暇取得の義務化
2-4.フレックスタイム制の清算期間の伸長・届け出義務違反に対する罰則
3.助成金を活用して賢く働き方改革を促進!
4.企業が直面している働き方改革の問題点は?解決のためのヒント
4-1.コストの増大
4-2.管理職の負担の増大
4-3.従業員のモチベーション低下
4-4.生産性や売上の低下
5.失敗しない!働き方改革の進め方
5-1.現状把握と問題点の洗い出し
5-2.働き方改革のゴールの共有
5-3.抜本的なワークフローの見直し
6.働き方改革の具体策①テレワークの導入
6-1.テレワークのメリット
7.働き方改革の具体策②オフィス改革
7-1.オフィス環境と働き方の関係
7-2.オフィス改革の施策例と期待できる変化
8.働き方改革の具体策③福利厚生・休み方改革
8-1.福利厚生を充実させるメリット
8-2.福利厚生にはどんなものがある?
9.まだまだある!働き方改革のアイデアと事例
9-1.評価制度を整える
9-2.副業・兼業制度を整える
9-3.DXを推進する
10.まとめ
働き方改革とは
まずは、働き方改革とはどのような取り組みなのか、背景や目的、具体的な取り組み内容といった基本情報にも触れながら確認していきましょう。
背景と目的
「働き方改革」の大きな目的は、労働環境の改善と就労機会の拡大により、従業員がそれぞれの事情に応じて、多様な働き方を柔軟に選択できる社会の実現です。この「働き方改革」が国を挙げて進められるようになった背景には、「少子高齢化による労働人口の減少」「働き方のニーズの多様化」という社会の変化と、それに伴う日本企業の国際競争力の低下にあります。
現在、働き手が足りないことから、従業員1人ひとりの生産性を向上させなければ、組織の生産性を維持できなくなってきています。個の生産性を向上させるために、従業員のモチベーションアップと各々の能力を発揮できる環境作りが必須となりました。
また、価値観やライフスタイルの多様化によって、働き方にも多様性が求められるようになっています。公益財団法人日本生産性本部 平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査結果 によると、「ワークライフバランスに積極的に取り組む職場で働きたい」と回答した新入社員は、全体の91.8%を占めました。この結果から、プライベートな時間の確保が難しい職場では、人が集まりにくく、人材確保が難しいといえるでしょう。これまで育児や介護、年齢によって働きたくても働けなかった人が働ける環境を作り、多様な働き方を認めることで、より広く人材を確保する必要があるのです。
指針(働き手を増やす・出生率向上・労働生産性向上)
「働き方改革」は、”働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがよりよい将来の展望を持てるようにすること”を目指しています。また、”投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大やモチベーション・能力を存分に発揮できる環境を作ること”が課題とされています。(厚生労働省「働き方改革」の実現に向けて)
現在、結婚・出産・育児で仕事を辞める女性は多く、内閣府男女共同参画局の「『第1子出産前後の女性の継続就業率』及び 出産・育児と女性の就業状況について」によると、第1子出産を機に離職する女性の割合は46.9%にも上ります。なかには、働く意思があるにもかかわらず、やむを得ず退職している人もいるでしょう。
また、日本は長期的な少子高齢化社会に突入しています。国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によると、15~64歳の生産年齢人口は、2045年には6割の市区町村で、2015年と比べて4割以上減少すると試算されています。さらに、少子高齢化も深刻で、2045年に2015年と比べて、0~14歳の人口が6割の市区町村で4割以上減少、3割以上の自治体で65歳以上の人口が5割を超えるとされています。よって、今よりも家族の介護・看護をする人が増えると予想されます。
つまり、企業の生産性を維持するためには、労働環境を改善、人手不足を解消し、1人あたりの労働生産性を向上させることが欠かせないのです。働き方改革の実施によって働きやすくなれば、出生率の向上や働き手の増加も期待できます。
具体的な取り組み
「働き方改革の3本柱」と位置付られており、企業業績にも密接に関わるのが以下の3つです。
- 長時間労働の解消
- 非正規雇用と正規雇用の不合理な賃金格差是正
- 多様で柔軟な働き方の実現
長時間労働や雇用形態による賃金格差、仕事場所・時間の制限は、従業員の生産性低下と働き手不足の原因となっています。
長時間労働の解消
長時間労働を是正すれば、高齢者の就労促進や、若年層の育児・介護と仕事の両立も可能となります。心身の疲労やストレスも軽減されるため、過労で働けなくなる人を減らす効果も期待されています。
非正規雇用と正規雇用の不合理な賃金格差是正
同一労働同一賃金が実現できれば、従業員のモチベーションや能力が向上しやすく、働き方改革の目的や指針で示された社会の実現に近づきます。
多様で柔軟な働き方の実現
時短勤務やリモートワーク、副業など多様で柔軟な働き方を認めることで、ライフステージやライフスタイルにマッチした働き方ができます。働き方の選択肢が増えれば、従業員のモチベーションアップと生産性向上、人手不足の解消に効果的です。
罰則はある?時間外労働や有給休暇のルール改正について解説
「働き方改革」の重要性が高いことは理解していても、負担が大きく、実施にためらいを感じている企業も多いでしょう。しかし、働き方改革関連法に違反した場合、企業に罰則が科されることもあり、実施は必須と考えなければなりません。
時間外労働の上限規制
労働時間と時間外労働については、労働基準法によって上限が定められています。臨時的かつ特別な事情がある場合の時間外労働時間は、年720時間以内。時間外労働と休日労働の合計は、月100時間未満。2~6ヶ月の時間外労働の平均が全て、ひと月あたり80時間以内と定められています。そして、臨時的かつ特別の事情がない場合の原則である「月45時間」を超えることができるのは、年に6ヶ月までです。
実施開始時期 | 大企業:2019年4月 中小企業:2020年4月 |
罰則規定 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
所定労働時間を超える労働の割増率
労働基準法によって、所定労働時間(1ヶ月あたり60時間)を超えた時間外労働に対しては、50%以上の割増賃金を支払うことが定められています。
実施時期 | 大企業:2020年4月 中小企業:2023年4月 |
罰則規定 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
例外措置 | 適用猶予措置(中小企業):2020年4月~2023年3月の期間は、月60時間を超える時間外労働の割増賃金は25% |
有給休暇取得の義務化
企業は労働者に対して、有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、有給休暇を付与した日を基準日として、1年以内に5日の有給休暇を取得させることが義務付けられました。そして、この5日の有給休暇は時間単位ではなく、全休でなければなりません。時季を指定することはできますが、できる限り従業員の希望に沿いつつ、就業規則に対象従業員と時季を明記しなければなりません。また、5日を超える有給休暇の取得に関しては、時季を指定することはできません。
実施時期 | 大企業・中小企業:2019年4月 |
罰則規定 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
フレックスタイム制の清算期間の伸長・届け出義務違反に対する罰則
フレックスタイム制における労働時間の調整が可能な「清算期間」が1ヶ月から3ヶ月に延長されました。従業員が自分で勤務時間を調整できる期間の幅が広がり、子育てや介護など特別な事情がある人手も、より柔軟な働き方を選択できるようになりました。
大企業・中小企業を問わず、実施時期は2019年4月。1ヶ月を超える精算期間を設定する場合は、労働者と使用者との間で「労使協定」を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出を行う義務があり、違反した企業には「30万円以下の罰金」が科されることがあります。
実施時期 | 大企業・中小企業:2019年4月 |
罰則規定 | 30万円以下の罰金 |
助成金を活用して賢く働き方改革を促進!
働き方改革の実施は、中小企業ほど負担が大きくなります。そのため、厚生労働省は、中小企業の負担軽減と働き方改革の推進に向けた助成金を用意しています。
- 働き方改革実施による負担軽減を目的とする「働き方改革推進支援助成金」
- 賃金の引き上げのための設備投資を助成する「業務改善助成金」
- 非正規社員の処遇改善の実施を助成する「キャリアアップ助成金」
中小企業であれば、助成金の活用も視野に入れて、働き方改革を実現しましょう。
企業が直面している働き方改革の問題点は?解決のためのヒント
働き方改革は、従業員はもちろん、長期的には企業にとってもメリットが期待される取り組みです。しかし現在、働き方改革の実施に伴い、「コストの増大」や「従業員のモチベーション低下」「生産性・売上の低下」といった課題も浮き彫りになりつつあります。
コストの増大
同一労働同一賃金と年次有休休暇取得の義務化、ITツールの導入によって、働き方改革の実施にはコストがかかる傾向があります。
ただし、働き方改革によって削減されるコストもあります。たとえば、テレワークの実施では、初期費用はかかるものの、オフィスの縮小により賃貸料や光熱費が減り、従業員の通勤手当も減らすことができます。人件費に関しても、業務効率化を測って残業を減らすことで、中長期的にはバランスが取れる上、業績アップにも繋げられるはずです。
コストについて考える際は、ランニングコストをふまえ、長期的にみてコストが増えるのか、削減する出費はないのか考えることが重要です。
管理職の負担の増大
従業員の時間外労働を規制したことで、規制のない管理職の負担が増大するケースが発生しています。
例えば、規制が厳しくなったことで、部下の労働時間や有給休暇取得の状況を把握・管理する監督・調整業務が増えました。部下が残業時間の上限を超えないよう、管理職が業務を肩代わりすることもあります。さらに、雇用条件や勤務場所が異なるメンバーを抱える組織を動かし、密なコミュニケーションや円滑な業務遂行をマネジメントしなければなりません。
働き方改革では、役職や年齢を問わず、企業で働く全ての従業員の働きやすさを実現する必要があります。
管理職の負担を減らすためには、業務の効率化や権限の移譲、外注など、業務量そのものを減らす工夫が必要です。。業務フローの見直しや、ITツールの導入やペーパーレス化をすれば、短期でも業務効率の改善が期待できます。また、特定の管理職だけに負担が偏らないよう、適切に権限を割り振りすることで円滑な業務の遂行が期待できます。
従業員のモチベーション低下
経団連の「2020年 労働時間等実態調査」によると、一般労働者の時間外労働時間は全体的に減少傾向にあります。労働時間の減少の背景にあるのは、働き方改革関連法によって、時間外労働時間の上限規制の導入と年5日の年休取得義務が施行されたことにあると考えられます。
<一般労働者の時間外労働時間の年間平均>
全体 | 製造業 | 非製造業 | |
2017年 | 197時間 | 194時間 | 201時間 |
2018年 | 196時間 | 193時間 | 198時間 |
2019年 | 184時間 | 180時間 | 189時間 |
ただし、ニッセイ基礎研究所の調査では、企業が把握している時間外労働時間が減少していたとしても、実態としてはサービス残業が増えている可能性も示唆されており、一概に働き方改革が成功しているとはいい難い面もあるようです。業務量が同じにもかかわらず、労働時間・時間外労働時間にカウントされなければ、実質的な給料が減少することになり、従業員のモチベーションは下がってしまいます。
ただ単に記録としての労働時間を削減するだけでなく、本質的な業務改善を行い、中長期的に社員の収入を上昇させていくための取り組みが必要といえます。
生産性や売上の低下
時間外労働の規制強化や多様な人材の育成などによって管理側の負担が増えると同時に、本来の業務にリソースを割きにくくなり生産性や売上が低下する場合があります。
従来の生産性のまま従業員の労働時間を減らせば、どうしても総生産量は下がってしまいます。働き方改革を実施しつつ、企業が成長しつづけるためには、業務の効率化と人材マネジメントの見直しを行い、個々の従業員の生産性アップを目指す必要があるといえるでしょう。従業員が働きやすい環境を整えれば、モチベーションの向上やスキルアップにつながり、結果的に企業全体の業績がアップする効果も期待できます。
失敗しない!働き方改革の進め方
上記では働き方改革の問題点について触れましたが、問題を最小限に抑えながら円滑かつ効果的に働き方改革を実施する方法はあるのでしょうか。ここでは失敗を防ぎつつ、働き方改革を進める方法を紹介します。特に「働き方改革を進めたくても、やり方が分からない」という経営者や企業担当者の方には役立つ内容です。
1.現状把握と問題点の洗い出し
まずは自社の現状を分析、問題点を洗い出し、解決方法を見つける準備をしましょう。
現状把握と問題の洗い出しは、現場の従業員にヒアリングして行います。従業員の健康やモチベーション、業務や働く環境に対する満足度、人事評価の納得感など、従業員の状態や業務フロー、不満などできるだけ細かく把握することがポイントです。
2.働き方改革のゴールの共有
働き方改革は、経営陣や管理職が一方的に進めても、従業員の働くモチベーションにつながらないことがよくあります。そのため「なぜ働き方改革が必要なのか」「自社ではどのように改革を進めていくのか」について、あらかじめ社内で認識を共有するようにしましょう。
改革のプロセスとゴールを示すことによって、従業員も目的意識を持つことができるため、変化を受け入れやすくなったり、モチベーションを維持しやすかったりする効果があります。生産性や売上を維持できるように、現場の負担に配慮しつつ様子を見ながら改革を進めてください。
3.抜本的なワークフローの見直し
働き方改革の実施では、法律遵守はもちろんですが、従業員が働きやすく、多様な働き方を選択できる環境を作ることが重要です。業務フローや業務内容を見直し、ITシステムによって効率化・自動化できる業務がないか見つけ出しましょう。この時、労働環境を改善しつつ、生産性は維持し続けられる仕組みの構築を意識してください。
働き方改革を実施しても、新たな課題が発生したり、現場の実態とマッチしない改革が行われたりすることもあります。適宜、現場に負担がかかりすぎていないか、改革内容は自社に合っているのか確認しながら進めるのがおすすめです。
働き方改革の大まかな進め方が分かったところで、具体的な施策例をみていきましょう。
働き方改革の具体策①テレワークの導入
テレワークのメリット
テレワークは、従業員がオフィス以外の場所で業務を行う働き方です。新型コロナウイルス感染症の感染対策で、多くの企業が在宅勤務という形でテレワークを実施しました。
総務省「個人向けアンケートで見るテレワークの実情」によると、下記のようにテレワークにメリットを感じている労働者は非常に多くいます。
- 通勤時間が削減される(81.5%)
- 好きな場所で作業をすることができる(53.8%)
- 自分や家族のための時間を取りやすくなった(45.1%)
※複数回答可
もちろん、労働者のメリットだけでなく、テレワークは企業にとっても魅力的な働き方です。企業側のメリットとしては下記の3点が挙げられます。
- 移動時間の削減による業務効率化・コスト削減
- 採用力向上(遠隔地の優秀な人材の採用が可能に)
- 育児や介護による離職防止
また、オフィスに出社することが負担になる人材は多く、自宅や自宅近くのワーキングスペースで仕事ができれば、従業員の満足度アップや採用力の向上、人材の定着率アップにもつながります。
働き方改革の具体策②オフィス改革
「オフィス改革」として、オフィス環境を整備することで、個人にも組織にもさまざまなプラスの変化が見込めます。
株式会社ザイマックス不動産総合研究所の調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響から、首都圏の企業では、働き方・ワークプレイスについて下記のような取り組みが行われています。特に、オフィス改革に関連する項目をみてみましょう。
- 換気や消毒などの感染対策の徹底(68.9%)
- 時差出勤の奨励(67.6%)
- テレワークを想定したネットワーク強化やIT機器配布の増加(55.7%)
- オフィスのソーシャルディスタンス確保(座席間隔や会議室利用者数の制限等)(45.0%)
- 在宅勤務に関する費用(光熱費や備品購入等)の補助や手当の支給(33.3%)
- フリーアドレス席やオープンスペースの新設・拡大(26.0%)
- オフィスの面積縮小(減床、移転、分室解約等)の検討(21.4%)
※複数回答可、()内は2020年12月調査時の割合
テレワークやソーシャルディスタンスを意識した、従来とは異なるオフィス改革が必要になっていることがわかります。
オフィス環境と働き方の関係
オフィス環境と働き方は関係が薄いことのように思われがちですが、オフィス環境を働き方に合わせることで、業務の効率化と生産性の向上が期待できます。
人間は精神的・身体的な負担によって、集中力や能率が大きく変わります。人は働きにくいと感じる環境にいるだけで、仕事へのモチベーションが保てなくなったり、メンタル不調に陥ったりすることもあります。
学術誌産業医学レビュー「産業ストレスの第一次予防対策 科学的根拠の現状とその応用」では、実際に職場環境が労働者の健康に影響した事例が報告されています。例えば、廊下を通行する人から見える作業場で働いていた女性に、肩こりや視力低下などの症状が出た例では、作業場を廊下から見えなくすることで女性の症状を大幅に減少させました。
オフィス環境を整備することは、従業員のモチベーションや生産性を維持するためには欠かせない要素なのです。
オフィス改革の施策例と期待できる変化
以下ではオフィス改革の具体的な施策例と、期待できる効果をそれぞれ紹介します。
施策例1.コミュニケーションの活性化でイノベーションを促進
ひらめきや新しいアイデアの多くは、多角的な視点や周囲との触れ合いのなかで生まれます。
日本コミュニケーション学会「イノベーション創出を促進する「対話」型コミュニケーションの特徴——新技術開発現場における「語り」に関する事例研究——」によると、共感を生む『語り』」「相互応答性」「『聞き手』の柔軟性」などの要件から成り立つ「対話型コミュニケーション」が、イノベーションの創出を促進することが報告されています。職場でイノベーションを加速させるためには、従業員同士のコミュニケーションが欠かせないのです。
オフィス改革の一環として適切なミーティングスペースやコラボレーションスペースを導入すれば、従業員同士のコミュニケーションが活性化され、結果的にイノベーションの促進が期待できるといえるでしょう。
施策例2.集中ブースや会議用個室ブースの導入で生産性向上
集中して取り組みたい個人ワークの業務には、周囲の音や視線がない環境が向いています。そこで、誰にも邪魔されず作業できる場として「集中ブース」を作れば、生産性向上が期待できます。一方、グループワークをする時は、業務を行う空間を共有した方が話し合いや連携がスムーズになるため、「会議用個室ブース」を導入することで生産性の向上が期待できます。
施策例3.カフェスペースや仮眠スペースでストレス軽減 メンタルヘルスを整える
作業環境だけでなく、休憩スペースを整備することで、従業員のモチベーション・集中力の維持やストレス軽減、さらには生産性を向上させる効果があります。休憩時間の質を高めることで、従業員のメンタルヘルスが整い、安定した生産性の維持につながるのです。
例えば、人がストレスを抱えている時は、飲食をしながら誰かと雑談をしたり愚痴や悩みを相談したりするだけでもストレスを解消することができます。
株式会社リクルートキャリアが実施した「新型コロナウイルス禍における働く個人の意識調査」によると、テレワーク前にはなかったストレスを実感している人は多く、全体の59.6%にも上りました。そのうち仕事中に雑談がある人は、雑談がない人と比較してストレスが14.1ポイント解消されているという結果が出ています。
そのほか、業務中に眠気を感じた時は、集中できないまま業務に取り組むより、15分ほど仮眠を取った方が、脳のパフォーマンスは回復します。
働き方改革の具体策③福利厚生・休み方改革
従業員の心身の健康を保ち、働くモチベーションを高められれば、企業は従業員に対する健康・医療関連の支出を抑えられ、同時に企業業績の向上も期待できます。従業員の健康やモチベーションの維持には「福利厚生・休み方の改革」も効果的です。現在、従業員のニーズが特に高いワークライフバランスの実現にはプライベート時間の充実が鍵となっています。
福利厚生を充実させるメリット
若い世代を中心に、ワークライフバランスを重視する働き手は増加傾向にあり、福利厚生を充実させることで下記のようなメリットがあります。
人材採用がしやすい
福利厚生を求める求職者は非常に多く、充実した福利厚生は企業のアピールポイントとなります。特に、法的な義務以上の福利厚生を広く整備することで他社と差別化でき、応募者が集まりやすくなるため、自社にコミットする優秀な人材の採用にプラスに働きます。
離職率低下、従業員満足度・エンゲージメント向上
福利厚生によって働きやすい環境が維持されれば、労働環境に対する不満は小さくなります。厚生労働省「令和2年雇用動向調査」によると、転職入職者が前職を辞めた理由に「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」などが挙げられています。福利厚生を充実させることで、離職率の低下や従業員満足度・エンゲージメント向上が期待できるでしょう。
従業員の健康維持・増進、生産性向上
福利厚生の大きな目的の1つは、従業員とその家族の心身の健康を保つことです。本人や家族の心や身体に不調があれば、業務に集中できないことはもちろん、生産性も下がってしまいます。福利厚生を充実させることで、組織全体の生産性向上が見込めるのです。
福利厚生にはどんなものがある?
人材の確保・定着や、生産性の向上に効果がある福利厚生とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。ここでは4つの例を紹介します。
就業条件の福利厚生(時短勤務、フレックスタイム)
就業条件に関する福利厚生には、時短勤務制やフレックスタイム制、在宅勤務制などがあります。
厚生労働省「令和2年雇用動向調査」では、結婚を理由に退職した男性は0.4%・女性は2.3%、出産・育児で退職した男性は0.5%・女性は1.4%、介護・看護で退職した男性は1.1%・女性は0.8%という調査結果が出ています。多様な価値観やライフステージに対応できる働き方を選択できれば、従業員やその家族の生活に変化があっても、優秀な人材に働き続けてもらうことができるでしょう。
また、リモートでも仕事ができるように体制やシステムを整備することで、これまで採用できなかった遠方の優秀な人材の確保につながります。
休暇制度の福利厚生(介護育児休暇、特別休暇)
休暇に関する福利厚生には、介護育児休暇やリフレッシュ休暇、アニバーサリー休暇、生理休暇などがあります。
「法律で定められた有給休暇を取得するのもためらう」という風潮も根強いですが、必要なタイミングで休めないと従業員の満足度や働くモチベーション低下、離職につながっています。休暇制度は、導入自体に費用がかからないため、採用しやすい福利厚生といえます。
モチベーション、健康支援の福利厚生(ピアボーナス、社員食堂、社内カウンセラー)
モチベーション維持と健康支援の福利厚生には、以下のものが挙げられます。
- ピアボーナス
- 社員食堂
- 社内カウンセラー配置
- 人間ドック
- 朝食や昼食費用の補助
- 自転車通勤手当
- 仮眠スペースの整備
- 特定施設の割引利用券
実施には多少予算が必要なものの、日々の業務や休日に福利厚生のメリットを感じられる施策は多く、従業員の満足度を高めやすいといえます。従業員の満足度アップや働くモチベーションの維持、生産性向上、さらには人材の定着率アップまで幅広い効果が期待できるでしょう。
まだまだある!働き方改革のアイデアと事例
働き方改革は、働く人が個々の事情に応じて、多様な働き方を選択できる状態にすることが目的です。法律で定められた最低限の取り組みはもちろん、従業員の働きやすさを重視した自社の事業や業務内容に合った取り組みを行うことが重要です。
最後は、働き方改革のアイデアと事例を紹介します。これから働き方改革を進める企業にとって、具体的な取り組みを考える手がかりとなるでしょう。
評価制度を整える
”面白法人”を名乗る神奈川県のWeb制作・企画・運営会社カヤックでは、その名の通り評価制度においても、面白さを追及しています。同社では、従業員の報酬が「運」「社員の相互評価」「上司の評価」という3つの要素で決められています。
気になる「運」の要素というのは、月給にサイコロの出目を乗じた金額が、賞与にプラスされる「サイコロ給」です。これは、「完璧に公平な評価制度の構築は困難であり、天が采配する要素があってもよいのでは」という考えのもと、創業時から取り入れられました。
柔軟さが求められる現代において、柔軟な評価制度を取り入れることも、1つの働き方改革といえるでしょう。
副業・兼業制度を整える
働き方改革では、従業員の副業・兼業の普及も促進されています。いち早く対応した企業の1つがDeNAです。同社では、2017年10月より社外での副業を認める「副業制度」や、他部署との兼務を可能にする「クロスジョブ制度」を導入しています。従業員の能力開発を促し、新しい知識や経験を積ませることで間接的に本業にも好影響をもたらすことが目的です。
特に注目したいのが、クロスジョブ制度です。異動や退職をしなくても社内で成長する機会を提供するという、インターネットやゲーム、ヘルスケア、スポーツなど幅広い事業を展開する同社ならではの強みを活かした働き方改革です。
DXを推進する
人手不足が加速するなか、生産性を保ち利益を上げるためにDX推進が欠かせません。古い体質が維持されている傾向がある日本のメーカーのなかでも、DX推進を積極的に行っている大手菓子メーカーのロッテもあります。
同社では、「DX を通じた働き方改革を進める」という考えのもと、全社員のデスクトップPCをGoogleのノートPC「Chromebook」に切り替えました。
これまで同社では、ほぼ全ての社員がデスクトップPCを使用しており、働き方を柔軟に変えられないという課題がありました。しかし、Chromebookを導入したことによって、新型コロナウイルス感染症の流行における緊急事態宣言にもテレワークで対応。DXを推進しておくことで、従業員の働きやすさと、企業を取り巻くリスクへの備えの両方が実現できるようになりました。
まとめ
働き方改革は、従業員1人ひとりが、無理なく快適に働ける環境を実現するための取り組みです。負担に感じる企業も少なくないかもしれませんが、個のパフォーマンスを最大化できれば、結果的に企業・組織の長期的な成長につながります。
ただし、表面的な働き方改革では、組織を改変するメリットを十分に享受できない可能性があります。従業員の心身の健康と働きやすさの実現を目標に、確実に働き方改革を進めましょう。