組織マネジメントにおける「7S」とは?各要素の定義や導入時の流れを解説
企業が事業目標を達成するためには、既存の戦略の見直しや、組織改革・課題の解決を行うことが欠かせません。そして、古今東西、さまざまな理論や手法、フレームワークが提唱されてきました。一方、「改革を行ったつもりが、結局元通りになって成果が出ない」「同じような問題に突き当たってしまう」という組織や企業は数多く見かけます。
この場合、考えられる原因は次の3つに集約されるはずです。
- ①解決すべき課題が間違っている
- ②課題に対する打ち手が間違っている
- ③打ち手におけるリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)や価値観の共有が不十分
組織運営に失敗はつきものですが、どのような場合でも上記の①~③に立ち戻って真摯に考える必要があるでしょう。
本記事で紹介する「7S」は、組織をハード・ソフトの両面で分解し、各要素における課題、改革する場合の相関関係を考えるためのフレームワークです。本記事ではその概要と導入のメリット、運用において気を付けるべき点について解説します。組織を運営し、より良い方向に導くための参考になれば幸いです。
1-1.ハードの3S
1-2.ソフトの4S
2.7Sを用いる時の大前提
3.企業・組織が7Sを使うメリット:リソースの「選択と集中」
4.7Sを用いる時の注意点
4-1.「共通の価値観」が最も重要
4-2.いずれのSも改善には多大なる労力が必要
4-3.それぞれのSに関わる理論・フレームワークを学び、知見や経験を得るべき
5.7Sによる経営・組織改革の流れ
5-1.現状分析
5-2.課題の明示・分解と7Sの対応
5-3.改革案の策定
5-4.実践と検証
6.まとめ:7Sを生かして上手く機能する強い組織づくりを!
7Sとは?ハード面・ソフト面を解説
「7S」とは、国際的コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーのウォーターマン氏とピーターズ氏が提唱するフレームワークです。そのため、「マッキンゼーの7S」とも呼ばれています。
7Sは、7つの経営資源の相互関係を意味します。持続的に成果が出る強い企業は、この7要素の相互作用を認識し、総合的に対応しているとされます。
7つの要素は「ハードの3S」と「ソフトの4S」に分けられます。
ハードの3S
ハードの3Sは、企業の「戦略」「組織構造」「システム」の3要素です。組織の構造に関するものなので、経営・管理側が計画や意思を持って改革を行った場合、変化が目に見えて分かりやすい要素といえます。
Strategy:戦略
Strategy(戦略)は、企業理念や目標を達成し、競争優位性を獲得・維持するための具体的な方向性を指します。
他社よりも優位に立つには、独自商材の開発といったプロダクト戦略、ターゲットを定義してアプローチをかける販売戦略など、ビジネスモデルを実現するための中長期的な計画が必要です。そして、中長期的な計画を事業戦略に落とし込み、経営資源を配分する優先順位を決定します。
つまり、戦略はそのまま企業、事業全体の方向性を示す要素です。
Structure:組織構造
Structure(組織構造)とは、組織の内部構造や指揮系統を指し、いわゆる組織図やレポーティングラインとして表されるものです。
組織構造には、職能別に事業部を編成する「機能別組織」や、社内事業部を一法人のように扱う「カンパニー制」、プロジェクトごとに人材を各部署から集める「プロジェクト組織」、商材別に事業部を編成する「事業部制組織」などが存在します。
組織内における各事業部の担当業務や責任の所在、上下関係を定める要素です。
System:システム
System(システム)は、組織を運営するための制度や仕組み全般を指します。
情報システムや業務システムなど「業務内で使用する」システムと、人事評価制度や給与体系、採用・育成システムなど「人を動かす」ためのシステムがあります。戦略実行、つまり各事業部・従業員が組織構造で定められた役割を果たすには、これらのシステムが健全に機能する必要があります。
ソフトの4S
ソフトの4Sとは、「共通の価値観」「経営方針・職場風土」「人材」「能力」の4要素です。主に「人」に関するものであり、「ハードの3S」に比してさらに変化が難しく、変化に時間がかかり、変化が見えにくいと言えるでしょう。
Shared Value:共通の価値観
Shared Value(共通の価値観)とは、事業活動の土台となる組織内共通の価値観を指します。一般的に、「企業理念」や「企業目標」、「ミッション・ビジョン・バリュー」と言い換えることができます。
社員に「共通の価値観」が浸透していないと、経営・マネージャー・各担当者の目線がそろうことはありません。具体的には、「事業・仕事を通して、何を社会に届けたいのか?」「社会に対して、仲間に対してどのように相対していたいのか?」といった問いが各人で「ブレる」ことになります。一見抽象的なことですが、日々の過ごし方、業務における優先度、力の入れ具合につながる、根本的な思想と言えます。
7Sの中で「共通の価値観」が最も重要であり、各要素を検討する場合も、共通の価値観を起点にして考えることが強くおすすめされます。
Style:経営方針・組織風土
Style(経営方針・組織風土)とは、企業独自の文化的な性質のことを指します。
経営方針や企業文化、組織風土、社風、経営スタイルはもちろん、職場の雰囲気や管理側のマネジメント手法、暗黙のルール、不文律も該当します。組織のカラーやメンバーの働きやすさに影響する部分であり、その他のSを大きく左右する要素といえます。
Staff:人材
Staff(人材)は、文字通り組織のメンバーのことを指します。
単に「人材」といっても関連する分野は幅広く、勤務態度・モチベーション・エンゲージメントなどの人材に直接関係する項目に加え、採用・人材育成・能力開発・キャリア支援などの人材マネジメント領域までが含まれます。
加えて、個々人のスキルやモチベーション、キャリア開発だけでなく、その能力をいかんなく発揮するための人材配置もここには含まれます。つまり、人材を強化することは、モチベーションやスキルをUPするだけでなく、メンバー相互の相性や業務との相性を慎重に検討して取り組む必要があります。
Skill:能力
Skill(能力)は、社内に蓄積された知識・ノウハウ・ナレッジを指します。
企業が持つ技術力・販売力・マーケティング力をはじめ、従業員個人が持つ専門的な技術・能力も含みます。独自のビジネスモデル、他社と一線を画す商材など、市場での優位性維持に資するものであり、企業の「金のなる木」のタネと言えます。
7Sを用いる時の大前提
7Sは、企業が抱える課題を要素ごとに分解して、MECE(漏れなく、重複なく)に考えるフレームワークですが、それ以上の役割はありません。
各要素における課題・解決法を見つけ出すためには、相応の知見と経験が必要となります。つまり、「7Sを用いるから課題が解決できる」のではなく、「7Sを用いると、課題を見つけ出す際に抜け漏れがなくなる」という認識が前提となります。
各要素における課題の解決には、意思決定者の経験・知識が求められることに留意しておきましょう。
企業・組織が7Sを使うメリット:リソースの「選択と集中」
7Sを導入するメリットは、本質的に「課題を明確化する」「各要素との関係性を示す」「課題の優先順位を設定できる」ことにあります。これらのメリットは、投下する経営資源の「選択と集中」の実現につながります。
いつの時代、どのような組織であっても「解決したい課題」を挙げ出すと切りがありません。一方、7Sを用いれば、「最初に着手すべき課題」を考える機会を得ることができます。最優先事項が可視化されることにより、今ある資源を最適配分できるようになるのです。
7Sを用いる時の注意点
7Sは、経営・組織運営に必要な要素を洗い出し、課題を抽出するのに適したフレームワークといえます。しかし、フレームワークだからこそ、使い方の「巧拙」によってパフォーマンスも変わります。
「共通の価値観」が最も重要
関係図を見てわかるように、7Sの各要素は「共通の価値観」を中心にそれぞれつながっています。これは、7つのSのうち「共通の価値観」が、最も重要な要素であることを表しています。
「共通の価値観」はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に根差しており、企業の「共通言語」と言い換えることができます。そのため、組織づくりでは「共通の価値観」を確立してから周囲の6つの要素に手を付けます。各要素を変更する場合も、共通の価値観に照らして改革・変化が妥当であるかを問いながら進めることになります。
いずれのSも改善には多大なる労力が必要
各要素の変更・浸透は、いずれも多大な時間や費用、労力が求められます。
例えば「戦略」を改善したい場合、前提となる市場調査や商品設計・販売戦略の変更といった大規模な投資、時間、労力が必要です。また、「経営方針・組織風土」を変える場合、共感できない社員が大量に離職するなどの「痛み」を乗り越えなければなりません。どの要素の改善であっても、会社の命運を左右する決定になります。
いずれのSも、改革に至るまでは議論を重ね、周囲の納得を得るように努め、一定のタイミングで決断をすることが必須です。ある意味、「経営者の仕事」をそのまま言い換えたものといえるでしょう。
それぞれのSに関わる理論・フレームワークを学び、知見や経験を得るべき
7S自体もフレームワークですが、それぞれの要素に対しては、さらに個別のフレームワークや理論が存在しています。7Sを通して明らかになった課題を解決し、実効的な施策に落とし込んでいくためには、それぞれのSに関わる理論・フレームワークを学び、さらなる知見や経験を得ることが求められます。
7Sによる経営・組織改革の流れ
7Sを用いた経営・組織改革は次の4つのステップを経て行います。
- ステップ1. 現状分析
- ステップ2. 課題の明示・分解と7Sの対応
- ステップ3. 改革案の策定
- ステップ4. 実践と検証
1:現状分析
まずは、7Sの各要素について自社の状況を当てはめ、現状を分析します。それぞれの要素はやや抽象的なので、企業全体なのか、事業部やプロジェクトといった分析の粒度や観点を検討しながらまとめます。
自社の現状は、下記のようなポイントを意識して洗い出しを行います。表を埋めながら精度を上げていくイメージを意識すると進めやすいでしょう。
戦略 | 自社の重要な指標を達成するための施策・KPI 例)売上であれば注力したい領域・ターゲットとその領域に対する方針 例)コストであれば効率化したい領域、削減する費用等 |
組織構造 | 組織における部署ごとの役割・レポートライン・部署間の情報やリソースの連携 |
システム | 評価・報酬・等級・採用・就業規則・勤務時間・場所などの働くうえでの制度 |
共通の価値観 | 自社のミッション・ビジョン・バリュー・企業理念 |
経営方針・職場風土 | 社員のエンゲージメント・会話の質や量 ※定性的な職場の満足度調査などで確認する |
人材 | 社員の人数・年次・役割・役職ごとの分布 |
能力 | 職務・職責ごとの「コンピテンシー評価」による従業員の能力分布 |
2:課題の明示・分解と7Sの対応
続いて、自社における課題を分析します。下記の例のように考えていきましょう。
例①:特定商材・特定地域での売り上げが落ちているケース
「競合製品の売り上げが高まっている」「製品ライフサイクルにおける陳腐化」といったマーケット理由による課題であれば「戦略」の変更が必要です。「営業人員・インサイドセールスが不足している」「営業のスキル不足」といった場合は「組織構造」や「人材」「能力」が関わってくるため、必要な人員や能力の定義、役割の再設定が求められます。
例②特定部署での離職率が高まっている
「評価・報酬に不満がある」という場合は、人事評価・給与テーブルなどの「システム」の見直しが必要でしょう。一方、「業務に求められるスキル・仕事量が不釣り合いになっている」という場合は「経営方針・職場風土」「能力」を改善しなければなりません。
このように、顕在化している課題がある場合は、それらを分解して、各々の原因に7S上の要素を対応させることで解決を図ることができます。
3:改革案の策定
各課題を7S上の要素に対応させたら、「現状」と「目標となるあるべき状態」のギャップを埋める施策を考えます。基本的に、1つのSの改善だけでは完結しないため、相互に関連させる手順を踏むことになります。
前項の例をもとに、改革案をモデル的に考えてみましょう。
例①において、営業の「能力」を改善させる場合
改革案と、それに対応する7Sの項目は次の通りです。
- 営業知見を横展開するための研修を実施:「能力」に関連
- 営業活動のレポートライン整備・情報の一元化:「組織構造」に関連
- スキルを満たす営業の採用:「人材・戦略」に関連
例②において、「経営方針・職場風土」を改善する場合
ここでも、改革案と、それに対応する7Sの項目を並べてみます。
- 企業理念とMVVの再確認・行動憲章の策定:「共通の価値観」に関連
- 行動憲章の研修と社内制度・就業規則への反映:「システム」に関連
- コミュニケーションの質・量を担保するためのレポートラインやイベント・グループウェアの検討:「組織構造」に関連
上記のように、現状と目標ギャップを埋める施策は、複数の要素に関連しています。「共通の価値観」をベースに、施策の是非を考えながら進めましょう。
4:実践と検証
改革案を策定した段階で、関連する部門・事業部に所属するメンバーに対して指示を行い、目標が達成できているかを検証します。ハードの3Sは、定量的に結果を把握しやすいでしょう。一方、ソフトの4Sは、可視化しにくい要素なので、「目標」に対して定量的なKPIを設定することを意識してください。
ただし、自社の状況は常に変動し、効果的な施策を講じられていない可能性もあります。そのため、定例的な進捗確認と四半期ごとの評価が望ましいでしょう。
まとめ:7Sを生かして上手く機能する強い組織づくりを!
7Sは経営・組織運営を機能させるために必要な7つの要素です。7Sを用いることで、企業の課題や将来的に予想される問題点を発見し、改善していくことができます。
7Sのなかでも「共通の価値観」が全体の基礎・原点となることを強く意識し、経営・組織運営の改善を行うことが重要です。ただし、7つの要素は相互に作用しているため、改善案をタスクに落とし込む際は、それぞれの関係性を考慮しながら優先順位を付けることがマストといえるでしょう。